時と翼と英雄たち


アリアハン 4







 リグたちはのんびりと歩いていた。
旅ではなく、そこらへんへの散歩のような勢いである。
しかしリグたちは決して暇を持て余しているわけではなかった。
彼らはナジミの塔に行くかどうかを話し合っていたのだ。





「エルファは知らないだろうけど、レーベには昔から鍵がかかってる家があるんだよ。
 で、ライムの話によればその合鍵はあの塔にあるんじゃないかって。開かない鍵の向こうとか、絶対に何かあるって」


「でもあの塔、海に囲まれてるから行こうにも行けないよ」


「それが問題なんだよな。橋でもありゃいいのに」






 大陸のどこかから抜け道とかあるかもしれないよというエルファに、リグは首を捻った。
物心ついた時からずっとこの大陸に住んでいて、城下町とレーベの辺りならもう庭同然だ。
しかし、どんなに外を歩いていても抜け道らしいものを見つけたことはなかった。
塔を建設する際に資材などが運ばれただろうからそれなりの道はあっても良さそうだが、塔の歴史まで調べていては進む旅も進まない。
リグたちは初っ端から悩んでいた。
頼みのライムにも打つ手はない。





「どうしよっか。草の根掻き分けてでも探してみる?」


「そのくらいしないと見つからないのかもな」





 良案を考えあぐねている2人を見て、ライムは頭を抱えた。
このままの状態でアリアハンのこの大陸を無事に出ることができるのか、とてつもなく心配になってきた。
やはり、長旅にはそれなりに旅慣れた者が同行するべきなのかもしれない。
自分自身だって旅という旅をしたことがあるわけではない。
せいぜい大陸の巡察で遠出したぐらいである。




(一度ルイーダさんとこに寄って、旅の途中の子でも引っ張ってくるかな・・・)



 ライムが本気で考え出したその時だった。











「そこの人たち、どいてどいて! 俺が落ちてくるから!!」

「「「は?」」」






 突然、何の前触れもなく頭上高くから男の絶叫が聞こえてきた。
まさかとは思ったが確実に塔からか空からか降ってくる男から逃れるべく、リグたちはものすごい勢いでその場から遠ざかった。
全員脱出完了と思いきや、エルファがスライムに足を取られて転んでしまった。
え、なになにどうしようと混乱してしまってその場から動くことができない様子だ。
助けに行きたくても、とばっちり食らって自分の上に男が落ちてきそうで怖くて行けない。
ごめんエルファ、後で自分でホイミとかして回復しといてくれ。
リグとライムは硬直したきり動けないエルファと、今まさに彼女の上に落ちてこようとする落下人物とを交互に見つめていた。
地上で呆然としているエルファを間一髪で避けた男が地面に着地しようとしたその瞬間、リグはエルファの姿を認めた男の顔色が変わったのを見逃さなかった。





 あれだけの高さから落ちてくるのだから、それなりの音がするだろうと誰もが思った。
エルファももちろんそれを確信していて、がたがたと震えていた。
しかし、落ちてきた男はリグたちの予想を見事に裏切った。
ぴたりを地面に吸いつけられるように、きちんと足から着地したのだ。
これにはリグとライムも目を見張った。人間業ではなかった。
あんな高い塔から落ちてきて怪我1つせず、しかもぴたりと両足つけて着地するなどありえなかった。
もっとも当の男は着地云々を気にすることなく服を払い、彼のすぐ傍で目を瞑ってがたがたと震えたままのエルファの前に屈みこんだ。
その立ち居振る舞いは滑らかでとても優しいものだった。





「ごめん、怖い思いをさせちゃったね。・・・怪我してる。・・・ホイミ」




 男が回復呪文を施したのがよほど変わっていたのだろうか。
エルファは男の声を聞き、ばっと顔を上げた。
男は彼女の顔を見て、目を見開いて息を呑んだ。





「・・・エルファ・・・?」


「え・・・? あ、あの、どうして私の名前・・・」




 2人がただただ見つめ合っていた時、遠くの2人が駆けて来た。
リグはエルファが傷をしていないことを確認して、改めて男の方へと向き直った。





「いきなりあの塔から落ちてくるなんて・・・。あんた誰だよ。盗賊か?」



 リグが凄みを利かせて尋ねてみたが、男は全く怯むことなくにこやかに応えた。





「あんた呼ばわりは嫌いだから自己紹介しとくな。俺はバース、天下に名の知られた大盗賊さ!」

「「「は?」」」




 3人の声が重なった。







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