時と翼と英雄たち

ダーマ    1





 「海がこんなに近くにあるよっ。町の中に港があるなんて!」







 リグたちは今、ポルトガと呼ばれる海に面した国にいた。
ロマリア近くの旅の扉を潜り、途中不思議な鍵穴の扉に目を奪われながらも無事ポルトがに辿り着いた彼らは、この国の人々の話の意味が分からず、首を傾げていた。
街行く人々が皆、黒こしょう黒こしょうと呟いている。
初めて聞いた言葉に不気味ささえ覚えていた。











「黒こしょうっていうのは、アリアハンに売ってるあれとは違うものなの?」






 ライムの言うとおり、こしょうはアリアハンの国にも存在する。
どこから入手してきているのかはともかく、食卓には必ずといっていいほど置いてある特に不思議がることもない食材だ。
ただしアリアハンのこしょうは白い。







「黒こしょうも白こしょうも大して味は変わらないと思うんだけど。ただ単に黒いか白いかの違いなんじゃないのか?」
「ちっがーうっ!!!」





 他愛ない会話を繰り広げているところに、突然見ず知らずの男の声が割って入る。
不審者を見るような目つきでその男を見てみる。
彼はどうやら城の関係者のようで、胸にはこのポルトガ国の紋章が輝いている。
そこそこのお偉いさんなのだろうが、人の会話にいきなり口を挟むのはいただけない。







「お主たちっ、旅の者とはいえこのような黒こしょうに対する侮辱、我が王が聞かれたらどれほどお嘆きになり、そしてお怒りになるかっ!
 わしが王の身であれば、お主らはとうに断罪であるぞ!?」



 そう言って顔を真っ赤にして怒り出されても困るものは困る。
手を打ちあぐねたリグたちは、とりあえず人当たりの良さそうなエルファを使って彼の怒りを鎮めることにした。
困惑しながらも仲間たちに背中を押されるようにして単身男の前に出たエルファは、できるだけ自然に尋ねてみた。





「先程は私たちもおかしなことを言ったのかもしれません。でも・・・、どうしてこの国の人たちはそんなにこしょうを欲しがるのですか?
 ここには、こしょうがないわけではないでしょうに・・・。」

















 最後の言葉が悪かったらしい。
男はきっと顔を上げると、不意にエルファの細い手首を乱暴に掴むと、ずるずるとエルファを城の中へと引きずっていく。
慌てたリグたちが急いでエルファの後を追いかけた。
追いかけに追いかけると、ポルトガ王の前まで辿り着く。
玉座に座りこれまたこしょうこしょうと呟いている王の隣では、先程エルファを強引にここまで連れてきた男が必死に王を慰めている。





「王、気を落とされますな。私めは今日町中にて無礼な発言をした旅の者を見つけました。しかも話を聞いておりますと、この者らはこしょうが何たるかをよく知っている様子。
 王、この者どもにこしょう探索命を下されてはいかがでしょうか。さすれば王もお口にも、国民たちもこしょうの美味を味わうことが可能となりましょう」






 ここまで一気に言い切ると、男は王、ご決断をとずずいと前へ出た。
いまいち頼りなさげな王は悲しみに暮れた顔で男を見上げ、それでもきっぱりと言う。





「さすがは大臣、よくわしの気持ちがわかっておる。旅の者たちよ、わしのために、いや、このポルトガに生きる全ての国民のために黒こしょうを持ってきてはくれないだろうか。
 もちろんこしょうを持ってきてくれた暁には礼も考えておる。そなたらの望むがままに進ぜようぞ」







 そう言うと今度は男・・・、つまり大臣の前で狼狽えているエルファの手をしっかりと握り締め、熱く語った。
王の行動にバースが眉を顰める。
明らかに機嫌の悪くなったバースを宥めるようにしてライムが彼に曖昧に笑ってみせる。




「本来はそなたのようなか弱き女性に課すような任務ではないことも充分に承知しておる。しかし我が国には国外に派兵できるような兵はもはやおらぬのじゃ。
 知っての通りこのポルトガは小国。ネクロゴンドのように大国でもなければ、アリアハンのように世界へ送り出せるような勇者と呼ばれる者もいない。
 しかもかの2国ですら、魔王バラモスによりネクロゴンドは壊滅、アリアハンの勇者オルテガは死へ至った」


「え・・・」






 王の話を聞いていたある時に、エルファの瞳の奥が揺れた。
しかしそれはほんの僅かのことで、目の前の王はおろかリグたちですら気付かなかった。
真剣な顔をして話していた王はそこまで言うといきなり、だから、と話を切り笑顔で言った。




「だから、そなたたちに行ってもらいたいのだ。ここにわしのしたためた手紙がある。これをアッサラームの辺りの洞窟に住んでおる友人に手渡して欲しい。
 なに、人間ではないが別にそなたたちを取って食うような者ではないゆえ安心してよい。否やとは言わせぬぞ」








 そう言うと彼は返事もまだしていないエルファに向かってこれまだ強引に手紙とやらを押し付けた。
ちらりと見えただけだが、その手紙を書いたと思われる王の筆跡がとても文字と読めるようなものではなかったのは気のせいにしたい。
どうやら自分の役目を終えたらしい王は、ではよろしく頼むと威厳たっぷりにそう言うとゆったりと椅子に腰掛け直した。
ちょーっといいですかぁーと前へ進み出たバースの目据わっているのは、先程まで目の前で行われていた王とエルファの一連の出来事のせいだからだろう。







「王、黒こしょうを無事に俺たちが持って帰って来た時には船を頂きたいですね。俺たちの旅にはどうしても欠かせない足なんで。だよな、リグ」





 不意に話を振られたリグだったが、彼の言わんとしている事がよくわかっていたので力強く頷く。
もちろん、できることならば世界を自由に回れる足が欲しい。
ポルトガの国から見える対岸にも行ってみたい。
王の話にも出てきたネクロゴンドにも、そして父が死んだ土地にも行ってみたかった。
そのためには船が必要だった。
リグは王に向かって言った。








「他のものは何もいりません。でも、俺たちの乗る予定の船はどんな嵐が来ても、どんなに魔物が身体をぶつけてこようとも決して壊れることのない丈夫なものにしてください。
 デザインなんて別に何も考えちゃいませんから」


「わかった。我が国の造船術は他の追随を許さぬものでな。そなたたちの望む無敵の船などたやすく造ることができよう。
 ・・・そうだな。どこかにいるという海賊たちの乗る船にも負けないようなものをな」







 次なる旅の目的地が決まった。





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