いいとこみせよう

激闘!浜辺の戦い





 「暑い。」



 ただ一言、バースはこう漏らした。それもそのはずだろう。
彼らは今、この真夏の太陽が照りつける中草原を歩いているのだから。
もちろん暑いのはみんな同じ事である。




「バースの呪文で氷とか出してよ。そしたら涼しくなるから。」
「エルファにバギ起こしてもらったら良いだろ。
 俺、氷系の呪文、あんまり得意じゃないし。」


ライムの頼みもすげなく断られる。

「あのね、バギ唱えたら、涼しくなる前にみんな怪我しちゃうよ?
 そしたら包帯巻く方が暑いと思うけどな・・・。」



エルファも残念そうに言う。
とてもじゃないが、この半端でない暑さでは、旅をする事もままならない。
ライム達は頼れるリーダーを顧みた。リグ自身も暑い。
ひとこと言った。




「アリアハン帰ろう。」
と。
















 「リグっ!みんな!!久し振りだね!!元気だった?」


アリアハンへと無事到着し、リグの家でのんびりとくつろいでいた彼らの元に、
息せき切ってフィルが駆け込んできた。
彼女の相変わらない元気な様子に、リグはほんの少しだけ頬を緩める。



「フィルは相変わらず元気ね。」
「うんっ。ライムもエルファも元気そうで良かった。それからえっと・・・。」



バースとは初対面のフィルは彼を前にしてちょっと口ごもった。
バースと言えば、またいつもの笑顔でフィルに挨拶をしていた。



「はじめまして。君がフィルなんだね。ライムとかエルファとカからいろいろ話を聞いてるよ。
 リグの彼女さんだって。」


「え!?彼女だなんてそんなっ!」




なんとも微笑ましい光景だった。









 「・・・で、何でせっかく帰ってきたのにバレーなんてすんの。」



今、彼らは暑さをしのぐためにアリアハンへ帰郷しているにも関わらず、
そのアリアハンの浜辺にてビーチボールを持ってやって来ていた。
フィルのたっての希望である。



「え〜、だってこんなに天気いいのに、町の中にいるとか絶対おかしいよ。
 それにバレーしようって言ったらみんな良いよって言ってくれたし。」
「俺は言ってない。」




このままではまた終わる事の無い喧嘩が勃発するといち早く悟ったライムが
彼らの間に入り込む。



「わかったわかった。リグ、せっかくフィルと会えたんだから、
 頼みの1つや2つ聞いてもいいじゃないの。」
「でもライ・・・。」
「はい、じゃあ始めるわよ。チームはリグとフィル、それからバースとエルファに分かれてね。」



有無を言わさず戦いは一方的に始まった。









 勝負はバース達が優勢だった。と言うか、バースの身体能力の高さを見せ付けられた。
盗賊業で鍛えたのか、跳躍力は半端でないし、何より格好良かった。





「バース、すごーい!」


チームメイトのエルファはバースの活躍にただただ驚き、そして賞賛するばかりだ。
彼女にそう言われる彼自身も満更でもなさそうだ。






「ほらリグ!頑張って!!」



一方リグはフィルから始終頑張れと檄を飛ばされていた。
リグもリグなりに頑張ってはいるのだが、何せ相手が相手である。
一筋縄ではいかない。






「ったく、エルファにいいとこ見せようとして・・・。」
「じゃあリグもフィルにいいとこ見せればいいじゃないの。」




いつの間にか彼の横には審判役のライムが。



「んな事簡単に言うけどさ、バースはほんとに強いから。」
「その強いバースを負かしたらフィルは喜ぶと思うけどね。」




なおもリグがライムに言い募ろうとしたとき、フィルの声が聞こえた。



「リグっ!前!!」
「は?・・・フィル、そこから動くなよ。
 バース、試合は中断だ。」
「分かった〜。」





フィルの声に誘われて見た先には怪物の群れが。
今の彼にはなんら問題の無い程度の雑魚に過ぎないが、こっちにはフィルがいる。
実戦経験の無い彼女には怪我1つ負わせたくなかった。



リグは無造作に怪物達へと近づいて行った。
そしておもむろに左手を高く上げると、なにやら口中で低くつぶやいた。




「赤き炎よ、焼き払え!ギラ!!」



彼の声と同時に左手から閃光がほとばしった。
かと思うと、そこからは真っ赤に燃える炎が飛び出した。
炎の次々と狙いあやまたず、怪物達を焼いていく。





「お見事!リグ、お前いつの間にかギラなんて覚えてたんだな。」
「・・・。」



「リグっ!」
「・・・フィル、怪我は?」
「ぜんぜん平気。でもリグすご〜い!!
 私、リグがあんなすごい呪文使えるなんて思ってもみなかった!」




今、初めて本当の戦いというものを間近で見たフィルは興奮冷めやらぬ表情でリグを褒め称えた。
リグ自身にとってたかがスライムで、と思う所はあったのだが、
フィルに手放しで喜ばれるのは気持ちいいものだった。






「バースも格好いいけど、リグの方がもっともっと格好良くて、すごかったよ!!」
「フィルっ!!」




浜辺でリグの怒鳴り声とバースの大笑いが響いた。















翌日の早朝、リグ達は誰にも気づかれる事なくアリアハンを後にした。






「結局、どこにいたって暑かったんだな。」
「確かに。むしろリグとフィルのせいでますます暑くなったし。」
「同感。」


「なっ・・・!お前ら人をからかうのもいい加減に・・・!」




ライムやバースの言葉にリグは顔を真っ赤にしながら叫び返した。
彼らの隣では、エルファが苦笑している。





リグとフィルのおかげで、彼らは砂漠も一息に歩く事が出来そうだ。








あとがき

ビーチボール大会は途中で中断。やった所でバース達の勝利。
暑い夏に暑い呪文、暑いのか冷たいのか分からない恋のお話。





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