時と翼と英雄たち

海賊の館    4





 ライムはアイシャと向き合って宴にいた。
手下やリグたちとは少し離れた、静かな所である。
野郎どもといても楽しいんだけど、1人になりたい時もあってね。
アイシャはそう言うと、にこりと笑った。




「しっかし驚いたね。まさかこんなによく似た人と会うとは。」


「私も最初は鏡を見てるのかと思ったわ。」


「・・・まぁ、いてもおかしくないかもしれないねぇ。
 あたしには、妹がいたから。」





 ふと、寂しげな顔を見せる。
ライムが知る限り、この館にはアイシャ以外の女性はいなかったように思える。
では、その妹さんはどこにいるのだろうか。
そもそも、なぜ過去形なのだろうか。




「今はいないよ。あたしが赤ん坊の頃に死んじまったのさ。」


「死んだ・・・?」


「そう。昔はまだ海賊連中も割と多くてね。
 親父と別の海賊団が戦ったんだよ。
 その時に、あたしの双子の妹アリシアは奴らによって、海に投げ落とされたんだ。」





 ライムは思わず顔を伏せた。
尋ねるべきではなかった。
こんな悲しくて惨い話を、アイシャにさせるのではなかったと後悔した。
生きたまま海に投げ捨てられるなんて、その赤ん坊は苦しかっただろう。
父親も、悲しかっただろう。




「戦いが終わっても、アリシアは浮かんでこなかった。
 あたしと対になってる親父の短剣を抱いたまま、天に召されたんだ・・・。」


「短剣・・・。アイシャのと、対なの? どんなの?」







 短剣なら私も持っている。
その言葉をすんでのところで言い止めた。
話を聞いているうちに、ライムは奇妙な感覚に襲われていった。
もしや、という気がしたのだ。
赤ん坊の時海から流されてきたのは自分だ。
その時から短剣だって持っていた。
実の家族の手がかりとなる唯一のものだと思い、それなりに丁重に扱ってきたつもりだ。
アイシャと自分は年恰好も似ている。
・・・彼女が赤ん坊の頃は、自分だって赤ん坊だ。





「あぁいいよ。海の神様の護りがついてるって言われる、由緒あるやつさ。
 対の短剣は、これと彫りが逆になってるだけらしいよ。」




 懐から取り出された短剣は、ライムのそれと酷似していた。
刃の輝きも、精巧に彫られた女神の姿も、すべてが同じだった。
違うのはただ1点、真逆になっているところだけだ。
ライムは無意識のうちに、腰の短剣に手を当てていた。
心なしか、剣が熱い気がした。
対なるものとの再会に、共鳴しあっているのかもしれない。





「・・・さん・・・。」


「ん? 何か言った?」


「・・・私も、同じ短剣を持ってるの・・・。
 海から流されてきた赤ん坊の頃から、持ってたのよ・・・。」





 ライムはゆっくりと短剣を取り出した。
アイシャの視線が一心に剣に注がれる。
自分のそれと並べ置き、交互に見比べる。
どこから見ても、それらは対になっているだけだった。
アイシャはふっと顔を上げた。
ライムと目が合うと、泣き笑いのような表情になった。




「神様が、ほんとにアリシアを護ってくれたんだね。」


「久しぶりって言えばいいのかな、・・・アイシャ。」


「ライムって名前は、向こうの親御さんがつけたんだね。
 聞かせておくれよ、今までどんな生活をしてきたのか。」






 それから以後、この美貌の双子姉妹は延々と空白の年月を語り合った。





























 宴の席から抜け出したリグたち3人は、館の外を散策していた。
宝珠の言霊の示したオーブの在り処は、どうもここではないかと疑ったのだ。





「波に揺られるっていうのは、海賊だからそうだよね。
 紅の佳人ってのも、アイシャさんのことだと思うの。」


「俺もそう思う。リグは?」


「エルファの推理で当たってると思う。
 ライムとアイシャさんが話してる間に、オーブ探すとするか。」





 リグは腕に抱えたパープルオーブを見つめた。
オーブ同士は互いに導き合うようで、他のそれが近くにあると光が強くなる。
だから、オーブをレーダーにして動き回ればいいのだ。
てくてくとあちこちうろついているリグの隣に、エルファが追いついてきた。




「ねぇリグ・・・、もしもライムがここに残るって言ったらどうする?」


「どうもこうもないだろ。決めるのは、俺らじゃなくてライムだし。」




でも、と言い募ったエルファの方に、リグは顔を向けた。
不安げな顔をしている。
仮定とはいえ、限りなく真実に近いライムの出生を知っているのだ。
これからのことが気になるの彼女の気持ちもよくわかった。





「俺は、たとえライムやバース、エルファがどんな奴だろうと、きちんと現実を受け止めるつもりだよ。
 ライムもきっと、俺と同じこと思ってるよ。」




 自分の言い聞かせているようだった。
こんなの、願望だった。
確信なんてないのだ。
リグの答えに安心したらしいエルファが、少し離れた所で手を振っていた。
リグは、気を取り直してオーブを探し始めた。





backnext

長編小説に戻る