時と翼と英雄たち

ランシール    2





 仲間が仲良く親密度を上げることは否定しない。
殊に、あの2人は昔なじみだったというから仲睦まじくして当然だろう。
しかし、だ。こうやっていつ誰が通るかもわからないような場所で抱き合うのはいかがなものか。
リグはわざとらしく咳払いをすると、大股でバースとエルファの前に現れた。





「たいそう仲が良さそうで何よりだな」


「リ、リグ!? 違うんだよ、これはね、そういう意味じゃなくて!」


「なんリグか。黙って盗み見るたぁいい性格してんな」





 エルファは気付いてたのバース!?と慌てふためき、勢い余って彼を突き飛ばした。
それがさっきまでかつての記憶に浸っていたオチかと哀しくなりながらも、バースはリグに向き直った。
自分にだってフィルという立派な可愛らしい彼女がいるというのに、この青年には少しお堅いところがある。
人目につくところでいちゃつくなど、彼が理想とする男女の付き合い方とは大きくかけ離れているのだろう。
まぁ、天下の勇者様の正体が超軟派な男というのも格好がつかないが。






「お前がここにいるってことは、舵はライムが取ってんのか?」


「ご名答。そろそろアイシャさんたちとも別れなきゃなんないからな。
 それでエルファと一緒にリグを迎えに来たってわけ」


「そっか。ライムはもういいのかな」


「また会えるからいいって言ってたぞ。確かにそうだしな、永遠の別れじゃない」




 ライムに船を任せてアイシャの元へと向かう。
挨拶に来ましたと声を掛けると、このとびきり美人で快活な海賊団長は笑顔で迎え入れた。






「そろそろ来るんじゃないかって思ってね。いろいろ用意して待ってたんだよ」





 リグたちに席を勧めると、アイシャは部屋の隅に置いてある大きな袋を抱え上げた。
よいしょっとかけ声を上げて机の上に置くと、かさばっている割には軽めの音がした。
伊達に賊名乗ってないからねとにやりと笑うと、中身を取り出しては並べていく。





「・・・アイシャさん、これ全部奪ったやつですか」


「馬鹿言っちゃいけないよ。これはうちに伝わるもの。人様から分捕ったのはこれだけさ」





 一族に代々伝わるという代物を見てバースは思わず口笛を吹いた。
行儀が悪いとすかさずリグが睨みつける。




「お前最近日に増して軽い調子の男になってるぞ。いつからそんな馬鹿っぽくなったんだ、賢者になってからか?」


「やめようよリグ。これがバースの本性なんだよ、きっと」


「いやエルファ。それ全くフォローになってない。むしろ痛いよそれ」






 わいわいと騒ぎ出した勇者連中にアイシャは大笑いした。
これにはリグたちも驚きアイシャに注目する。
似た顔をしても笑い方はやはり違う。
ライムよりもアイシャの方が何かにつけて豪快だった。






「ほんとに面白いねあんたたち。ライムが保護者になるのも当然だ」


「あ、ごめんなさいアイシャさん。私たちつい・・・」


「気にすることないよ。勇者つったってあんたたちまだ大人になってない子どもだよ?
 そのくらい弾けてた方が人間味があるってもんだ」





 妙に褒められて黙りこくった3人を、アイシャは期待を込めた瞳で見つめた。
本当に一瞬勇者かと疑ってしまうほどに若い彼らだ。
初めはこんなガキにくっついてアリシアはやっていけるのかと不安だった。
無駄に命を散らしてしまうぐらいなら、ここに留めようとすら思っていた。
しかし結局リグたちを信じたのは、その若さがあるからだった。
ふざけているからほっとする。
もしもリグが全てを背負うというプレッシャーに苛まれ一途に生きるような青年だったら、アイシャは決してたった1人の血を分けた妹を任せなかった。
適度に羽目を外している彼に未来を感じることに、さほどの時は要さなかった。






「さすがは海賊一家。これ、水鏡の盾だったっけ」


「そう。どっかにある綺麗な泉で清められた盾だよ。市販のやつよりもご利益ありそうだろ?
 ライムにやろうと思って」




 傷ひとつない銀色に光る盾にエルファはしばしの間見惚れた。
水面に映るよりも鮮やかに自分の顔が映る。
これを手にして戦うライムはさぞかし綺麗だろう。
守備力もそこそこ高いというし、これからの旅には嬉しいものだ。
手入れさえ怠らなければ永く使えそうだし。






「あと、これはリグにあげるよ」


「俺には盗品くれんの?」





 アイシャは苦笑するとリグに布に包まれたままのものを押しやった。
細長いその形状に初めは杖か剣と思いつつ布を外す。
すると、夜の闇よりも黒い漆黒の鞘が姿を現した。
重厚な造りで手に取るとずっしりとした重みを感じる。
そのくせ手にはしっとりと馴染んでくる。





「せっかく立派な剣持ってんのに、しまうもんがそれじゃかわいそうだ。
 それの方がまだ見栄えするだろ?」


「確かにそうだけど・・・。もらっていいの?」


「剣士が持ってた方がいいに決まってる。アリシア・・・、ライムに剣を教わったんなら、このくらいは持ってないと」






 リグは腰の鞘から草薙の剣を抜き放った。
ジパングを出る前にヤマトがしっかりと鍛え上げてくれたおかげで、切れ味は抜群だ。
相応しい鞘があればいいのだがとヤマトが悔しそうに言っていたことを思い出した。
どんなに優れた名刀でも、あるべきところに収まっていないと本当の力は発揮できないと。
リグはそっと剣を黒い鞘に収めた。
ぴったりと収まるそれらにほっとする。
心なしか剣が喜んでいる気もした。





「わぁ、ぴったりはまってるね! 良かったねリグ!」


「うん。ありがとうアイシャさん」





 腰に佩びると鞘そのものの重さが嘘のように感じられなくなった。
魔力が宿っているのかとリグは推測した。
草薙の剣といっても使い方を誤まればただの妖刀だ。
魔力を秘めた鞘ぐらいがお誂えなのかもしれない。





「また困ったことがあったらいつでもおいで。海に関しちゃあたしたちはいくらでも力になれるからね」


「頼りにしてるよ」








 バースとエルファが一足先に座礁1号に戻りリグも船を映ろうとした直前、彼はアイシャに背を向けたまま叫んだ。




「ライムは、俺たちと一緒に絶対帰ってくるから。だから、安心して待ってて、アイシャさん」





 無愛想で、それでも仲間や友人を思いやる心は誰にも引けをとらない若き勇者を、アイシャは見えなくなるまで眺めていた。





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