ダストボックスにループシュート ~NG集FF編~










 がさごそと紙の束を漁る音が絶え間なく続く。
何してんだよと尋ねると、没ネタ集めと返ってくる。
没ネタとは何だろうか。
また訳のわからないことばかり抜かして人を困らせやがって。
半田は目当てのものを見つけたのか、紙の束を腕に抱え戻ってきたの机の上を見つめた。
『没』と大きく記されたくたびれた紙が大量に置かれている。
これがきっと、の言う没ネタというやつなのだろう。




「結構あるんだな、これとか1話丸ごと没」
「初期設定も見てみる? すごいよ、特に風丸くんの扱いとか」
「ううわマジじゃん。・・・いや、俺も違うから。
 『普通ならまず持って仲良くできない美少女とつるんだり、なによりもあの豪炎寺をちょっぴり出し抜いてることが嬉しくて楽しくてたまらない』わけねぇじゃんどう考えても!」
「いいやわっかんないよー。実際修也出し抜いてるし」
「そこは合ってても、嬉しくも楽しくもなんともないけどな・・・。豪炎寺といえば、だいぶ削られてんな。カットシーン豪炎寺ばっか」
「あちこちでカットされたツケが16話で全部きてるみたいだよ。世宇子よりも木戸川戦の方がFF編の個人的な山場だったって言ってた」




 半田とは改めて没原稿を見下ろした。
よくもまあこれだけの数の没が生まれたものである。
もしもこれがドラマだったら、台詞を覚え込む作業の煩雑さは半端でなかっただろう。
もうやだこんなドラマと、出演者が2名ほどボイコットしていたかもしれない。




、すごくアクティブだったのな、実は」
「え、どれどれー?」



 半田が指し示した紙切れをは覗き込んだ。












・NGその1.『9.事件は帝国で起こってるんだ』より

(影山に捕まって監禁されているシーン)




 どうにかしてこの部屋から脱出しなければならない。
この金属製の椅子でガラスをぶち割ってもいいだろうか。
大事な試合前に余計な心配はかけたくないし、彼らをトラブルに巻き込むことは避けたい。
ガラスを割って鉄骨を伝って、よし、なんとかフィールドへ着地できそうだ。
はやや重たい椅子を持ち上げると、勢い良くガラスへと投げ飛ばした。
ぴしりと少しだけひびが入り、小さく歓声を上げる。
あと2,3回投げれば人が通れるくらいの穴が開きそうだ。
はまた椅子を持ち上げると、先程よりも狙いを定めて投げた。
砕けたガラスがフィールドとスタンドの境目の不気味な空間へと落ちていく。
は怪我をしないように用心深く穴から抜け出すと、ひらりと鉄骨へと飛び移った。
天井から聞こえる声が気になり、近くにあった工事関係者用の梯子を勝手に昇っていく。







没理由:この後鉄骨もろとも落っこちたら、さすがのオニミチくんも助けられず、バッドエンドしか迎えないと思ったから
















・NGその2.『9.事件は帝国で起こってるんだ』より

(鬼道さんがフィールドや控え室をチェック中)




 今の鬼道の目的は自らの潔白をはらすことではなく、影山の策略を防ぐことだった、
他人と言われたのにはさすがに傷ついたが、そう思われるのも当然だった。
ふと鬼道は思った。
雷門の生徒である妹ならば知っているのではないだろうかと。




「・・・雷門に」
「え?」
「雷門中サッカー部に優れた司令塔・・・・・・、おそらく監督ではないそういう女性がいるのなら、彼女を守った方がいい」
「・・・何言ってるの、そんな人うちには・・・!?」




 誰か思い当たる人がいたのか、春奈ははっとして口を噤んだ。
兄がそれを言う意図はわからないが、よほど伝えたかったことなのだろう。
もしかしたら影山が絡んでいるのかもしれない。
春奈の様子を確認した鬼道は再び歩き出した。
1つの問題は解決したが、まだもう1つの問題が残っていた。










 豪炎寺は、突然の春奈からの詰問に戸惑っていた。
いきなりそんなことをものすごい形相で訊かれても、知らないのだから答えられるわけがない。




「どうしよう・・・!」



 さあっと顔を蒼褪めさせた春奈に、秋はどうしたのとあやすように声をかけた。
春奈はばっと秋の手を握り締めると、急かすように尋ねた。



「雷門中サッカー部の優れた司令塔の女の人って、私たちマネじゃないですよね!?」
「そうだね・・・、私たちは監督じゃないもんね」
「だったら誰だと思いますか。マネでももちろん監督でもない、雷門イレブンに戦術指南してる女の人って」
「・・・ちゃん? でもちゃんを帝国の人が知ってるとは思えないけど・・・」
「そういえばさん、冬海先生がフルネーム尋ねてきて気持ち悪いって言ってたわ」




 夏未の言葉に秋と春奈は顔を見合わせた。
こんなことイレブンには、特に豪炎寺には伝えられない。
ちゃんのことだからそうあっさりとは捕まらないんじゃないかなと言う秋に、そうですよねと春奈も同意する。
一応スタンドもう1回見てきますと春奈が立ち上がりかけると、試合開始を控えた円堂たちが入場口から姿を現す。
春奈は渋々ベンチに座ると、鬼道をじっと見つめた。
何を考えているのかよくわからない兄だが、真意はどこにあるのだろう。
握手を終え試合開始のホイッスルが鳴る直前、誰かがフィールドに飛び込んできた。







没理由:ここは鬼道さんだけ知っといた方が、後々良さそうだと思ったから
















・NGその3.『13.無自覚無頓着ハニー』より

(豪炎寺邸にて帝国対世宇子戦の話をして、約束した後)




 きちんと食事は摂っているのだろうか。
甘いものが好きだからといって間食ばかりしていては、健康体にはなれないのだ。
まったく、こんな細身のにボールをぶつけるとは鬼道は名前のとおり鬼だ。




「・・・あはは、寒くないのにまだぞっとするや。ほんとトラウマみたい・・・」



 何がおかしいのか引きつった笑みを浮かべるに耐えられなくなり、豪炎寺は思わずの体を抱き寄せた。
何があったのかと尋ねても白を切られ続けていたが、今日こそはすべて洗いざらい話してほしかった。
鉄骨事件以前に何かがあったはずなのだ。
何かがあったから天井のトリックに気付いたのだし、悪いことをやったわけではないのになぜ隠し事をする必要があるのだ。
教えてもらえば、今度また何かあった時に備えることができるかもしれない。
をサッカーに引きずり込み、雷門イレブンに深く係わらせたのは自分だ。
だから、もうこれ以上自分が知らないところで危険に巻き込まれたくはなかった。




「いやー、前から思ってたけど修也の体ってほんと熱いよねー。おかげさまで震えもほら、この通り」
「今日の事はもう訊かない。代わりに、帝国で何があったか話せ」
「帝国? 修也も知ってるでしょ、鉄骨降ってきたよ」
「違う。まだあるだろう。どうしてあの時みぞおちとか言ったんだ」
「うわ、物覚えいいあたりさすがは医者の息子。うーん・・・、あんまり聞いて気持ちいい話じゃないよ?」




 やめた方がいいよ、聞くだけ無駄だよと翻意させようとする言葉をばっさりと斬り捨てる。
どうしよっかな、どうしましょうと現実逃避なのか一人芝居を始めたを、豪炎寺はとりわけ低い声で脅すことにした。




「俺は風丸みたいに優しくないからな。これ以上煩わせるようならあの髪留めをファイアトルネードする」
「言います言います。えっと、影山だっけ? あの人に校門で襲われて拉致監禁されてたの。おしまい」
「・・・どうしてが。人違いじゃないのか?」
「うーん、でもあの人ピンポイントで私の名前訊いてきたんだよねー。雷門の司令塔は私じゃなくて監督だってのに」







没理由:こんなの豪炎寺さんじゃない(はずだったのに)
















・NGその4. 『14.青いマントの救世主』より

(鬼道さんにハグしたことについて、豪炎寺邸にてお説教を受けた後に、鬼道さん現る)




「ごめんね・・・。もう鬼道くんに抱きつかないから。やっぱ風丸くんにしとく」
「それがいい。それから、鬼道は俺と違って優しいらしいからたぶん家も無事だ」
「ほんと・・・?」
「ああ。だが、それほど家に興味があるなら今度俺も参加するパーティーに俺の連れとして参加してほし「駄目だ、は見ての通りマナーを知らないから、鬼道が恥をかくだけだ」
「悔しいけどそこは修也の言うとおりだ・・・。でもやっぱり鬼道くんは優しいね」




 へにゃりと笑いかけられ、鬼道もつられて笑い返す。
そもそもなぜここにがいるのだとか正座をしているんだとかいった疑問はたくさんあったが、事実は事実として受け取るしかないのだろう。
痺れて動けないらしいを以前の河川敷と同じように強引に立たせると、豪炎寺は改めて今すぐ帰れと命令した。
まだ足痛いもんと駄々を捏ねるを援護するべく、俺は構わないと鬼道も口添えする。




「だいたい、誰のおかげでみんなの身体能力変わったって鬼道くんに教えられたと思ってんの? 感謝してよね」
「そういえばどうしてが知ったのか俺も気になるな。練習は見ていないんだろう?」
「えっとねー、修也の体触ってた時だよ。スペシャルタックル止められたのがおかしくてあちこち触ったけど、上も下も前よりがっしりしてたもん」
「鬼道、勘違いするな。やましい事は何もしていない」
「あと、鬼道くんたちストーキングした時にえらく修也の足が速くなってたから確信した」

「・・・、いいからもう帰れ」
「はいはい。じゃあね鬼道くん、また明日!」





 台風どころかハリケーンが去り、豪炎寺と鬼道は押し黙った。
あちらこちらに処理しきれない数の爆弾を投下していくことは多少予想していたが、いざ現実を前にすると悲惨極まりないものだった。
鬼道の想いを知ってしまっているからなおさら気まずい。
不当なライバル視をされるからできるだけ学校では離れていたいと熱望していた当時のの気持ちが、今なら痛いほどよくわかる。
しかし、なぜなのだ。
鬼道もまた風丸と同じように、に夢を見すぎているだけなのだろうか。
悪夢ではないのか、それは。







没理由:鬼道さんに聞かせるには刺激が強すぎる
















・NGその5.『15.そうさあいつはアメリカンボーイ』より

(半田と告白されたことについて話している時)




「・・・何だよ、遂に先生にも暴言吐いたのか?」
「半田は私を何だと思ってんの。隣の隣にクラスらしい子からのお手紙が引きだしに入ってたから、言われたとおり会いに行ってただけ」
「鬼道のクラスじゃん」
「そうそう、確か鬼道くんとこの! 好きだから付き合って下さいって言われたんだけど、趣味も性格も合わなさそうだったからさっき振ってきた。
 困るよね、私全然知らない人なのにさ」




 どこで見られてるかわかったもんじゃないよねと続けるに、半田は言いようのない恐怖を覚えた。
の姿がなかったのはわずか10分足らずである。
その短い時間の間に相手の男はおそらく一世一代の告白をし、そしてあっさり振られたのだ。
男がの何を好ましいと思ったのか半田はわからないが、どうせ顔しか見ていなかったのだろう。
こんなどうしようもない子と付き合っても身が保たないだけだというのに、失恋してしまった男が哀れだった。
ただ、告白をした勇気だけは褒めてあげたい。




「そうやって見ず知らずの奴にやたら係わるなといつも言っているのに、どうしてわからないんだ。たまたま知り合うのが全員鬼道のような奴だと思うな」
「豪炎寺の言うとおりだ。自らの存在を認識されてもいないのに付き合えとは、おこがましいにも程がある。ちなみに、その男の名前を教えてくれないか?」
「駄目だ、言うのはやめとけ!」







没理由:死者は出したくない
















・NGその6.『15.そうさあいつはアメリカンボーイ』より

(乙女の祈りっていいよねって話してる時)




「何がいいんだ」
「やっぱ秋ちゃんには敵わないなーって」
「何の話だ」
「大好きな幼なじみのために我が身をなげうって乙女の祈りだよ? 同じ幼なじみでも私には無理無理」
「『大好きな』の前提から違うからな」
「修也は『大好きな』っていうか、『まあそれなりに結構大切な』幼なじみだもんねぇ」
「・・・だって身を投げ出しただろう、帝国で」
「あれ? あれはサッカーと関係ないじゃん。はー、秋ちゃんに弟子入りしたら修也ももう少し強くなるのかな」




 でも弟子入りして具体的にどうするんだろう。
乙女の祈りって必殺技なのかなとまたもや訳のわからないことを呟き始めたの横顔を、豪炎寺は複雑な思いで見つめた。
また帝国での出来事をさらりと流された。
から話す気はまったくないのだろうし、それが大変なことだとすらわかっていないのだろう。
豪炎寺自身も、鬼道から話を聞くまでに起こっていた事件を何も知らなかった。
いつか誘拐されるのではないかと常日頃から思っていたが、まさかもう起こっていたとは。
こんなことならば、やたらとサッカーの試合へ連れ回さなければ良かったと思った。
は自分のせいではないと言ってくれたが、どう考えても彼女が厄介事に巻き込まれたのは自分のせいだった。
優しいのか物事の重大さをわかっていないのか、豪炎寺はのことでの不安要素をまた1つ増やしていた。
しかし、人がこんなにも悩んでいるというのにこの幼なじみは。
ではないが、豪炎寺も少しばかり秋たちが羨ましくなってきた。








没理由:この人も豪炎寺さんじゃない(はずだったのに)









・NGその7.『16.ときめ木戸川メモリアル』より

(何もかもが違う上やたらと長いんで別窓)

木戸川メモリアルZ

没理由:オチが見つからなかったんじゃないだろうか
















・NGその8.『16.ときめ木戸川メモリアル』より

(病院の屋上で豪炎寺さんに抱き締められてる時)




「・・・あの、喋っていいですか」
「何だ」
「私はどうすればいいんですか。抱き締め返すべき? 張り倒すべき? 泣くべき?」
「泣くな、絶対に泣くな。少なくとも俺の前では泣くな、勝手にどこかで1人で泣け」
「じゃあどっか行くからどいてよ。もう私いらないんでしょ、いなくなってあげるって言ってんだからどけ」
「あれはそういう意味じゃない! 来てほしくないと思ったことなんて一度もない。これは本当だ、嘘じゃない」







没理由:こんなこと言われたら泣くしかないから
















・NGその9.『18.翼もぎたてエンジェル』より

(アフロディとの会話が退屈で鼻歌歌ってる時)




 アフロディは今度はふんふんと鼻歌を歌いだしたに声をかけた。
神と一緒にいるのに、さも退屈そうに鼻歌を歌うのはやめてほしい。
退屈にさせている張本人のようで少し寂しい。
寂しいといえば、この距離もである。





「退屈なら私と遊ぶ?」
「私サッカーはしないよ」
「へえ・・・。・・・じゃあ、この間の続きしよっか」
「この間?」
「雷門中のサッカーグラウンドでの・・・・・・。覚えてる?」







没理由:建前・・・言っても神だって中学生。  本音・・・雷門中から殺気を感じた






こういうのを蛇足って言う




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