あなたに『ごえん』がありますように







 今日もスペインの家に遊びに行った。
ほんとは日本にも来てほしいなとか思ってるけど、無茶言っちゃいけない。
お金持ちでもなくどちらかと言えば貧乏生活送ってるスペインに、金かけてこっち来いとか言えないもん。
だから、今日も私が神通力使ってもれなくタダで来てる。
我ながら、よく尽くすタイプだわ。





「国ってのも大変だね。上司のおかげで風邪とか引いたり、内職させられたり」
は具合悪なったりせえへんの?」
「やたらと戦争とか内乱とか起きて畑が荒らされたら死ぬほど苦しい。それから、必要とされなくなった時」





 きょとんとしてるスペインに簡単に説明してあげる。
そりゃ、いきなり必要とされてないとか漠然と言われてもわかんないよね。
イギリスあたりに話したらすんなり理解してくれそうだけど、あそこはお世辞にも食事が美味しいとは言えないから進んで行きたくはない。





「私みたいな大した力もない神は、そもそも人が信じ、願ったことによって生まれたようなもんなの。
 ずっと昔は日本さんちにも割と神様いたり見えたりしたんだけどねー、みんなが迷信だって思うようになったから見えなくなっちゃった」
「じゃ、はまだのこと信じとる人がおるから平気ってこと?」
「そういうこと」





 私はちょっと不本意だったりするけど日本さんが願った末にできた存在だから、日本さんとほとんど一心同体。
そんなこと言ったりしてもスペインはいい思いしないだろうから、あえて黙っとくけど。
それはそうと、私と話してたからスペインの手が止まってる。
さっさと内職片付けないと上司からまた怒られるみたいだし、頑張ってもらわねば。
私もお手伝いできるといいんだけど、慣れてないからスペインみたいに手早くは作れない。






「スペイン、手が止まってる。・・・ほーんと、初めて会った時は泣く子も黙る無敵艦隊だったのにね・・・」
「あの頃の俺、滅茶苦茶かっこよかったやろ? 懐かしい時代やわぁ」
「今とそんなに変わらないよ。ずーっとロマーノロマーノ言ってる子分バカで」
「・・・よう恋人に向かってバカとか言えるなぁ・・・」






 本当の事を言って何が悪い。
いつでも控え目にして曖昧な返事ばっかりしてたら、あらぬ勘違いをさせることになっちゃう。
特にスペインが相手だと、ド直球に言わないと全く違う趣旨に捉えられかねない。
私も知らない間に学習したんだと思う。
でなくちゃ、だいぶ大らかな性格で空気も読めないスペインとはお付き合いできなかっただろう。





「あんな、俺は確かにロマーノのことかぁええって思っとるけど、それ以上にの事もいっぱいいっぱい考えてるんやで?」
「それはどうも。・・・じゃあ、そんな素直なスペインにプレゼントあげよっかな」





 今日はただ遊びに来たわけじゃなかった。
太陽が何度昇っても造花ばっかり作り続けてるスペインを応援しに来たのだ。
たまには、縁起物に縋ってみてもいいと思う。
大丈夫、効き目がなくても私のせいじゃない。





「えー、なになに?」
「じゃーん、招き猫です。お金を招く不思議な猫ちゃん」
「ほんまや、小判持っとるやん!」





 すごいわぁ、これも日本の伝統なんと若干興奮してるスペイン見てほっとする。
猫が嫌いじゃなくて良かった。
猫はあかんと言われたら、ギリシャに渡すつもりだった。
どこに飾ったらええと招き猫片手に部屋をうろうろしてるスペインに、どこでもいいよと返事する。
なんだか随分と気に入ってくれたみたいだ。良かった良かった。





「これ、やと思って毎晩抱いて寝ることにするわ」
「いや、私陶器じゃないしこんなに硬い体でもないでしょ? 頭撫でたらいいらしいよ」
「そうなん? 早速やってみるわ。早く貧乏脱出して、とあちこちデート行けますように。頼んだで、猫!」






 私、ほんのちょっと招き猫に同情した。
こんなに強烈に願掛けされて、ものすごいプレッシャー背負ったと思う。
スペイン、いったい何年くらい願掛けし続けるのかな。
ずっとこのまま貧乏だったら、いつの日か頭と胴体が離れたりするんじゃないだろうか。
私があげたやつだから、そんなことは断じてしないと思うけど、でも黒歴史持ってるスペインを舐めちゃいけない。





「これ、いつごろ願い叶うん?」
「さぁ・・・、それを聞くの忘れちゃった」
「ま、が持ってきてくれたんやからきっとすぐにでも叶うわ! よっしゃ、俺も内職頑張るで!」
「うん、頑張れスペイン!」






 日本に帰った私は、スペインと招き猫と、そして何より私の安全のためにも、早くスペインが貧乏から脱出できますようにと神社でお願いしたのだった。




























 数ヵ月後、日本さんと一緒にお茶の間でテレビ観てた私は、とあるニュースに箸で摘んでた沢庵を落とした。
日本さんからはしたないですよと咎められたけど気にしない。
そう言ってる日本さんも、じっくりテレビ見つめてるんだもん。




「そうですか、スペインさんの家もついに貧乏を卒業ですか」
「き、きっとスペイン喜んでますね!」
「・・・おや? あれは我が国の招き猫・・・」
「わぁ、さすがは招き猫、頑張ったんですねー!」





 スペインの強烈な願掛けに招き猫が異様な力を発揮したのか、それとも私の必死のお願いを偉い神様が聞き届けてくれたのか。
後日スペインの家を訪ねた私は、スペインの家の中でもとびきり綺麗な部屋に安置されている招き猫を発見したのだった。









招き猫がスペインの家に行ったのは、ユーロが導入されるほんの数ヶ月前




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