ヘタリアクエスト







 今日から日本さんはアジアの人たちと会議があるらしい。
しばらくは中国さんの所に滞在しますからお留守番よろしくお願いしますと頼まれた私は、言われるまでもなく日本さんちで大人しくしていた。
下手にあちこち出かけてその間にお客さんが来たら申し訳ないし、最近はなんかいろいろ物騒みたいだし。




「ゲームでもするかな」




 ちょっと前に日本さんがプレイしてた、珍しくも恋愛要素がないRPG。
主人公が勇者様で、3人の仲間たちと一緒に悪の権化である魔王を倒すっていう、冒険の王道をひた走るゲームだ。
世界地図が国のようでかなり楽しいのですよと日本さんも言ってた。
私も世界中あちこちにお邪魔してるし、そろそろゲームで脚色された世界にも飛び込んでみようと思う。
テレビにゲーム機を繋げて電源を入れる。
と、タイミング悪くインターホンが鳴った。





「はいはい」
「わはー、ちゃん!」





 がばっと抱きつかれてびっくりする。
ハグハグーと言ってる男を引き剥がす。
うん、アクションから大体の予想はしてたけどイタリアだ。
相変わらず挨拶のやり方が凄まじい。





「あぁ・・・。イタ・・・じゃない、ヴェネチアーノのロマーノ? どうしたの2人で日本なんて珍しいね」
「スペイン兄ちゃんもいるよ!」
「どこに?」




 私、基本的にイタリアのことはイタリアって呼んでるけど、ロマーノと一緒にいる時はヴェネチアーノって呼んでる。
だってロマーノもイタリアだし、ヴェネチアーノだけイタリアって呼んでたらなんだか複雑だ。
そんなことよりも、一緒に来てるというスペインだ。
ヴェネチアーノはいるって教えてくれるけど、生憎と私には見えない。
困ってしまってロマーノを見やると、ロマーノは無言でどこかを指差した。
指の先を辿れば、私が丹精込めて育ててるトマトを凝視してるスペインがいた。
過激な挨拶をされても困っちゃうけど、人を無視してトマト見つめてるってのも酷い仕打ちだと思う。





「つやつやのえぇトマトやわぁ。しかもこれ、こないだ俺がにやったトマトの苗や。まるで俺との愛の結晶みたいやんなぁ」
「おいスペイン、が引いてるぞこのやろー」
「いいよロマーノ。スペイン、外寒いんだから風邪引かない程度にね。2人とも、特におもてなしできないけど上がって上がって」
「お邪魔しまーす!」





 元気なイタリア兄弟を家に上げて、お茶とお菓子を出す。
さて、やろうと思ったゲームはどうしたものか。
お客さん来たしゲームなんてやらない3人だし、やっぱり片付けよう。
そう思ってテレビを観ると、なぜだか既にゲームの電源が入れられていた。





「・・・あれ?」
ちゃんちゃん、ゲームしようよ!」
「いいけど・・・、それ、1人用だよ?」
「それにお前日本語ちゃんと読めんのか?」
「ヴェー・・・、だめ? ちゃん」





 あんな女の子よりも可愛らしく上目遣いで見つめられたら、嫌だなんて言えない。
読めない字は私が声に出して読んであげればいい、少し恥ずかしいけど。
いいよと言うと、ヴェネチアーノはやったぁと叫んで私にコントローラーを渡してきた。
ロマーノはちょっと怒ってるみたいだけど、でも画面じっくり見てるから興味はあるんだろう。
スペインは・・・・・・、まだ来ない。
彼、なんでうちに来たんだろう。
私に会いに? それともトマトの様子を見に?
まぁいっか、美形兄弟を両脇に侍らせて楽園満喫しとこう。






「これね、最初に主人公っていうか勇者の名前付けなきゃいけないよ」
「はいはーい、俺、俺!」
「ばっか、俺ら勇者なんて柄じゃねぇだろうがこのやろー」
「そうだねぇ・・・、勇者が魔王に白旗揚げちゃ変だもんねー・・・」
「じゃあスペイン兄ちゃんにしようよ! せっかく来てるんだし、スペイン兄ちゃんだったらぴったりだよ!」
「「ぴったり・・・?」」





 スペインのどこを見てぴったりなのかよくわかんないけど、今度はロマーノもいいと言ってくれたから勇者スペインにした。
勇者は冒険の前にいくつか質問に答えなくちゃいけないから、それもスペインになりきって答えてく。
スペインのことは長年一緒に暮らしてたロマーノがよく知ってるから、かなり本物らしくなったんじゃないかな。
というか、何の躊躇もなくずばりとスペインの性格を言い当てていくロマーノがすごかった。
伊達に子分やってたわけじゃないんだね。
そう言ったら子分じゃねーよって言って照れてた。可愛すぎる。






「じゃ、最後の質問だ。『あなたにとって上司の命令は絶対的なものですか』だって」




 これは、国である2人に聞くまでもなかったかもしれない。
日本さんもそうだけど、国は上司の命令に逆らっちゃ生きてけないもんね。
国民あっての国。私は迷わず『はい』を選択した。





「スペイン兄ちゃんの性格なんだと思う、兄ちゃん?」
「トマト馬鹿とかじゃないか?」
「ヴェー、酷いよ兄ちゃん」
「そうやでロマーノ。それが元親分に対する言い分かいな」






 なんだか急に騒がしくなった。
やっとスペインが家に入って来たんだろう。
いらっしゃいスペインと声をかけたら、隣に座り込んで頬にキスされた。
放置プレイで堪忍したってなぁと言われたけど、私は全然そう思ってなかった。
あれ、放置プレイだったんだ。
今までずっと押されてきたから、今更引かれても別になんとも思わなかった。





「スペイン兄ちゃんは勇者なんだよ!」
「へぇ、俺かっちょええなぁ。ぴったりやんなぁ」
「でね、スペイン兄ちゃんの性格診断をしてたんだよ!」
「ゲームのだから嘘っぱちだけど、ね・・・・・・!?」





 

 画面に浮かび上がってきた文字を見て、思わずコントローラーを落とした。
私、今からこれを、スペインの目の前で読み上げなきゃいけないのか。
恥ずかしいを通り越した。今すぐリセットボタンを押したい衝動に駆られる。
なんて書いてあるんだって訊いてくるロマーノに返事できない。
はよ読んでと言ってくるスペインの顔がものすごく笑顔だ。
まさかスペイン、日本語もばっちり読めてるんじゃなかろうか。





「ねぇねぇちゃん、早くー」
「ス・・・、スペインさん・・・。あなたはとてもエッチです・・・・・・」
「ヴェ?」
「済ました顔をしてますが、頭の中ではいつも女の子のことばかり考えています・・・」
「うんうん、それで次は?」





 あぁ、笑顔で次を強要してくるスペインが怖くてたまらない。
これ、羞恥プレイだ。何が悲しくてこんなこと言わなきゃいけないんだろう。
大和撫子は絶対こんなはしたない台詞を口にしない。




「でもそれは、年頃の人ならば当然のことです・・・。心配することはありません。多少想像が激しくても、それはあなたが健康であることの証です」





 画面が切り替わって、『むっつりスケベ』という文字が現れた。
私はそこまで言い切ると、スペインでないもう片方の隣に座ってるロマーノに縋りついた。
こんな性格にしやがったのもロマーノ、あんたが的確に答えていったからだ。
だから私がこんな恥ずかしい目に遭ったんだ・・・。
責任とって、私を助けて。





・・・・・・、悪かったな・・・。まさか俺、ここまでジャポネーゼのゲームがすごいとは思わなかった」
「やだやだスペインの方を向きたくない」
「その気持ちはわかるけど・・・」





 俺は逃げるの専門だから。
ヘタレだけど女の私よりは遥かに強いロマーノは、ぽいと私をスペインに押し付けた。
待て、気を利かせて弟を連れて出て行かないで。
やだ、日本さんしばらく帰ってこないのに!?





、俺よりもロマーノ頼るんはやめた方がええで? 親分やった俺が言うのも悲しいけど、ロマーノはイタちゃんと同じでヘタレや」
「き、聞いてねスペイン。あれはね、ロマーノがいけないの。ロマーノが!」
「そない他の男の名前ばっかり読んでほしないわぁ。それに怒ってへんよ? 8割方当たっとるし」
「あぁごめんね! 後であのトマトあげるから!?」
「俺はむっつりやなくて、がっつりスケベやねんで? せやから頭の中だけで考えたりせんと、隠さずがっつりとを食べなあかんなぁ」






 食べるなら私じゃなくて玄関のトマトを。
そんな儚い願いがスペインに届くこともなく、私はがっつりスペインに食べられるのだった。









某ドラクエ3で本当にやった話だよ!




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