桜色の笑顔







 日本さんと私が住んでる家の裏庭に、今年も綺麗な桜が咲いた。
毎年あの桜の木が花を咲かせて、私たちは春の訪れを身近に感じるようになる。
桜との付き合いは長くてずっと花を愛でてるけど、いつまでも変わらない美しい色で楽しませてくれる。




、今年もそろそろお花見に行きましょうか」
「あ、もう満開でした?」
「えぇ。落ちてくるのではないかというくらいにたくさんの花をつけていますよ」





 先に桜の様子を見に行ったのか、日本さんが誘ってくれた。
日本さんがあそこのお花見に誘うのはいつだって私だけ。
他にも友だちいるってのに、見せるのもったいないからだって。
まぁ確かにあそこの桜はどこよりも美しいと思うし、私だって他の人には内緒にして日本さんとだけ花を愛でてるんだけど。





「ついでにあちらで昼食も済ませましょうか。おかずの方を手伝いますから、あなたはおにぎり握って下さい」
「はい。あ、日本さん、私かぼちゃの天ぷらがいいな。あとあと・・・」
「わかっています。こそおにぎりの中身は・・・」
「梅干と塩じゃけですよね。大丈夫ですよ、ちゃーんとそればっかり入れてます」





 もう何年と一緒に暮らしてるから、お互いの好きなものは何だってわかってる。
手早く支度を整えると私たちは外に出た。
裏庭までは少し歩くけど、今日はお天気もいいし暖かいから辛くはない。
日本さんもそうだったから誘ったんだろうけど。
それにしても、暖かい日差しの中で食べるご飯はとても美味しい。
日本さんが作ってくれたおかずだって、たくさん食べちゃいそうだ。
食べ過ぎてたら太りますよって、どうせまたお小言食らうんだろうけど。






「今年で何年目ですかね・・・」
「さぁ、もう忘れちゃいました。藤原さんがお月様の歌を詠んでた頃には、もう2人でこっそりお花見してたと思いますけど・・・」
「懐かしいですね、その頃はまだ私たちも子どもでした」
「そうそう。この木がまだ小さい時は、嵐の前とかは2人してわぁわぁやってましたし」
「病気になれば治療法を施し、嵐が来ると知れば枝が傷つかないように工夫して・・・。手のかかる木でしたけど、これだけ立派に育つと色んな苦労も忘れてしまいますね」





 日本さんはそっと桜の木に手を当てた。
誰かに踏まれて今にもその命を終えようとしていた桜の苗木を私が拾ってきたのは、もう随分と昔のこと。
植物ではあるけれど人参や大根のように食用のものではなかったから私の力もなかなか通じなくて、日本さんと毎日水遣りとか世話してた。
初めはこんなに大きくなるとは思わなかった。
木の幹も私と日本さんが手を繋いで回しても充分くっつくくらいの太さだったのに、今じゃもう届かない。
私や日本さん並みの老体なのに、よくもまぁ毎年こうやって綺麗な花を咲かせてくれるものだ。






「一生懸命育ててたけど、いつの間にか1人で勝手に大きくなっちゃうんだもん。なんだかそれはそれで寂しいな」
「えぇ。だってこの桜の木は、私たちの子どものようなものでしたし」





 え、と呟いて思わず日本さんを見つめた。
私さすがに木は産めない・・・じゃなくて、日本さんいきなりどうしちゃったんだろう。
昼間からの酒盛りはやめましょうって言って、今日はお酒持って来てないんだけど。
・・・でも、日本さんはずっとそう思いながら育ててたのかな。
子どもだと思って面倒見てきたから苦労してたはずなのに楽しくて、私以外と来ようとしなかったのかも。
昔は見下ろしていた木を今は仰ぎ見ている日本さんは、すごく優しい表情を浮かべてた。
本当に、我が子を慈しんでる親のようだ。






「長い間ずっと一緒に暮らしてきて、それなりの関係を持っても私たちに子は恵まれませんでしたが・・・。この桜の木が人の形をしていたならば、きっと美しい娘だったでしょうね」
「私に似て、ですよね?」
「・・・そうですね。少し不本意ですが、私に似るよりもに似ていた方が可愛がり甲斐があります」
「うわー、日本さん子どもはベタベタに甘やかしそう。私に注ぐはずの愛情も娘に注いだりして」
「まさか。私はいつだって、あなたを一番に想っていますよ。あなたはどうだか知りませんが」






 にこ、と微笑まれて自分の顔が熱くなるのを感じた。
いつもは全然好きとかそういった愛情表現してこないのに、ちょっと油断すればさらりと言ってくる。
言って私の反応楽しんでるような気がしないでもないけど、ドキドキするのは止められない。
まったく、子ども(木)の前で変なこと言わないでよ・・・。






の顔も桜色になりましたね。ゲームの中の男性のような台詞もたまには言ってみるものですね」
「日本さんのせいです! もう・・・、桜を子どもだと言ったりいきなり恥ずかしいこと言ってきたり・・・。大体、桜の方は私たちのことどう思ってるかわかんないですよ!?」
「そういう時こそ我が国の技術の粋を集めて製作された、心が見える双眼鏡の出番です!」
「それ、木にも使えるんですか・・・? どれだけハイスペックなん「、ちょっとこちらへ」






 双眼鏡を覗き込んだままの日本さんがくいくいと手招きした。
何だろうと思ってると、無言で双眼鏡を渡される。
手渡した時の日本さん俯いてたけど、耳まで真っ赤になってすごく嬉しそうに見えた。





「何ですか、今度は・・・・・・!?」






 心が見えるとかいう双眼鏡を通して桜を見て、体の内側からじんわりと暖かくなった。
日本さんが嬉しそうに笑って赤くなってた理由がよくわかった。
嬉しい気分になるのは私も同じ。
私と日本さんは顔を見合わせて、恥ずかしげに笑いあった。









『お父様、お母様、私をずっと大切に育ててくれて本当にありがとう』




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