極北の王子様







 テーブル挟んで目の前で優雅にコーヒー飲んでる姿は、おとぎ話の挿絵からそのまま飛び出してきたみたい。
ちょっと内側に巻いてあるさらさらの髪も涼しげな瞳も、年頃の女の子なら誰もが憧れる王子様のイメージそのままだ。
かっこいい、王子様みたいっていうか本物の王子様でいいよねもうと、私は勝手にアイスランドを現代の王子様に認定した。
金髪碧眼が王子様だなんて誰が決めた。
色素が若干薄い、ホワイト感溢れる王子様でもいいじゃないか。
見た目から服装まで、口さえ開かなきゃ王子様そのものなんだから。






「・・・なんでじろじろ見てるの」
「こんなにかっこいい王子様なんて何百年生きてても滅多に見れないでしょ。見れる時にしっかり目に焼きつけとかないと」
「意味わかんない」





 ・・・そう、口さえ開かなきゃそれはもう立派な王子様だ。
他者に興味抱かないのか照れ屋さんなだけなのか、彼はものすごくクールな人だ。
クール通り越してコールドかもしれない。
ちょっと私が何か言ったらすぐに『意味わかんない』。
言葉は通じてるのにそんな返事ばっかり返されてたらかなりショックだ。
そりゃとっても仲良しってわけではないけれど、少しの面識はあるのに。






「アイスランド、薄着だけど寒くないの? 私コート着てないとこの環境じゃ生きてけないよ」
「だったら来なくていい」
「ひど・・・。・・・あのさ、愛想良くしてとは言わないけど、せめてもう少し思いやりを」
「・・・温泉入ってけば?」






 そういえばそうだった。
そもそも私、アイスランドの家の温泉に浸かりに来たんだった。
オーロラ見ながら温泉は入れるんですよって聞いたから来て、道中でばったりアイスランドに会ってお宅にお邪魔したんだった。
温泉入ればさすがに温かくはなるだろうけど、やっぱり彼からは冷たくあしらわれてる気がする。
仕方ないっていうか諦めるしかないのかな。
こういう性格の人だし、王子フェイス拝めただけで良しとすべきなのかもしれない。






「アイスランドも温泉行かない? コーヒー飲むより身体あったまるよ。あれだったら背中でも流すけど」
「は、意味わかんない」







 そう言われるだろうとは思った。
どこまでも人に無頓着なアイスランド放って1人で温泉に行く。
服を脱いだ時は死ぬかと思った、職業柄死ぬ体なのか知らないけど。
でも、温泉浸かったら体が柔かくなった気がした。
気付かないうちに、寒さで体が固まってたんだと思う。
私はぐうっと大きく伸びをすると、誰もいない温泉で1人雪国の景色を満喫することにした。
みんなでわいわい入るのも楽しいけど、1人で入るのも同じくらいに好きだ。
肉体の劣等感に苛まれる必要もないし。







「アイスランドも温泉入ったら、少しは性格柔かくなるのかな?」
「・・・意味わかんないんだけど」
「・・・いやいや、なんでここにアイスランドがいるのか、私の方が意味わかんないんだけど」






 もしかして温泉入りたくなったのかな。
冗談交じりに今から入るのって訊いたら違うって即答された。
そうだよね、むしろ今入ってこられたら私が困る。





「じゃあ何しに来たの?」
「凍死してたら困るから」
「・・・・・・そっか。温泉から上がった後とか温度差でばったり逝きそうだもんね」







 ぽかぽかと暖かいお湯の中の私と、その脇にしゃがみこんでるアイスランド。
私たちがいる位置は1メートルも離れてないのに、温度はまるで違う。
私と彼の心の温度も、きっと近付くことはないんだと思う。
そう思ったら少し寂しい気もするけど、それが一番いい距離なのかもしれない。









「アイスランドって昔から王子様みたいにかっこよかったの? 美人さんでもあるよね、羨ましい」
「意味わかんない」
「・・・それも同じ返事なのね・・・。・・・私、アイスランドとまともに会話したことないんだけど」
「だっての方が綺麗なのに」
「そっかそっかー。私の方がきれ・・・い!? いや、意味わかんないからねアイスランド!?」
「なんでが慌ててて拒否してるのか意味わかんない。事実なのに」







 王子様王子様って言うんだったら、お姫様はがいい。
真顔でいきなりそんなこと言われたもんだから、そのままお湯に沈むかと思った。
駄目だ、不意打ちにも程がある。
アイスランド何言ってるの、ほんと意味わかんない。
こんなとこで言われたら、のぼせ、る・・・・・・。












「・・・?」














 凍死するつもりはないんだけど、今なら熱くて死ねる気がする。
死にはしないけど、確実にノックアウトされた。
ぶくぶくと沈んでいく私の体を引き上げたアイスランドの手は、滅茶苦茶冷たかった。









手が冷たい人は、心がとっても温かい人なのです




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