口は破滅を呼ぶ







   俺様日記△月×日。
俺様、大ピンチ。






















 どごんとフライパンが人の頭に直撃する音を聞き、あぁまたかとドイツが額に手を当てる。
本当にドイツも、いつの時代も気苦労が絶えない国だ。
同居人が料理をすれば台所を破壊され、兄だか何だか知らないが迷惑をかけることが大好きな元国家には振り回されて。
遊びに来ればほとんど毎回聞かされるフライパンfeat.プロイセンの頭の音に、私と日本さんは顔を見合わせた。





「・・・ドイツ、またプロイセン何かやらかしたの・・・?」
「俺に聞かないでくれ・・・。いつも一緒にいるんだ、察してはくれないか・・・」
「えぇ、私たち場の空気を読む術に関しては心得がありますのでよくわかりますよ。ねぇ
「そうなんだけど・・・。・・・どうしてこう、毎度毎度オーストリアとハンガリーに余計なことするかな」





 毎回しつこく絡んでるから、鬱陶しがられてフライパンの制裁を受けてるんだと思う。
たまには他の国と遊べばいいのに、そこまで思考が追いつかないんだろうか。
プロイセンと関わってもろくな事ないとはわかってるけど、このまま放っておくとまたオーストリア夫妻に迷惑をかけ続けるんだろう。
仕方ない、ここは1つ私がお説教と暇潰しの相手をしてやるか。
神は等しく国家に手を差し伸べるものなのだ、実践してる気はまったくないけど。





「日本さん日本さん、このあとドイツと大事な話あるんですよね。私それが終わるまでプロイセンで暇潰ししてます」
「・・・多少の迷惑、無礼には目を瞑ってもらえると助かる、
「善処しまーす」





 日本さんもよく使う善処します。
これ言っとけば、仮に私がプロイセンに制裁加えようと許してくれるだろう。
なんだかんだでドイツも見た目とは違って優しい国だったりするのだ。
どSになるのはイタリアが度を外したアホな事やってるからだ。





「この時間なら庭の花壇の前に座り込んでいるはずだ」




 場所までわかってるんならなぜ呼びに行かない。
ドイツも色々と手を焼いて、仕事中に傍に置きたくないのか。
大なれ小なれ様々な国に邪険に扱われているプロイセンに、ほんの少し同情した。































 ドイツに言われたとおりの場所に行くと、ドイツが言っていたとおりの格好をしているプロイセンが居た。
一世を風靡した軍事大国の面影がどこにも見当たらない。
私は実際に当時の彼を見たことがないからわからないけど、今まで彼が語ってくれた『フリッツ親父』さんとの思い出は多少脚色されてるんだろう。
今の、寂しげに丸まっている背中を見ているとそうとしか思えない。
今度天国に行って『フリッツ親父』さんに会って真実を聞いてみようか。






「何1人で燻ってんの」
「う、うるせーな! 1人でいて悪いかよ!」
「別に悪いなんて言ってないじゃない。ただ、寂しくないのかなと思って」
「ひ、1人楽しすぎるぜー!!」





 空元気で、しかも涙目で笑ってる奴が心から楽しんでるはずがない。
私はプロイセンの隣に座ると、台所から頂戴してきたアルプスの水を差し出した。
せっかく持って来てやったのにビールがいいとほざく。
こんな真昼間からジョッキでビールなんぞ誰が飲ませるか。
そう言って叱りつけるとプロイセンはぷいと横を向いた。
拗ね方が子どもと同じだ。きっと頭の構造も子どもと同じようなものなのだろう。




「ビール飲むんなら夜に友だちと酒盛りでもしなよ。ドイツいるじゃん」
「ヴェストは弟だから友だちじゃねぇ」
「フランスとスペインは? よく3人でつるんでるじゃない」
「フランスは女、スペインはイタリアちゃんの兄貴と一緒にいるから居場所はない」
「変なことせずにいたらきっと、オーストリアとハンガリーとも仲良くなれるよ?」
「貧乏貴族と暴力女に用はねぇ」





 ああ言えばこう言う。こう言えばああ言う。
プロイセンのためを思って彼の周囲の人々との交友を勧めてるのに、どうして全部嫌だと言うんだ。
この際弟でも変態でもトマトと子分馬鹿でもいいじゃないか。
変な意地張らずに素直になればいいのに。
こちとら余所の国に会いに行く時は海を越えなきゃいけないってのに、もっと地繋がりの利権を生かすべきだと思う。





「・・・プロイセン、友だちいないの?」
「・・・・・・」
「私、プロイセンの友だち第1号になろっか?」
「・・・お前だけは絶対に嫌だ。てか友だちだと思ったことなんて一度もねぇし」








 友 だ ち だ と 思 っ た こ と な ん て 一 度 も ね ぇ し 。









 目も合わさずにさらりと言われた言葉に、頭の中が真っ白になった。
それほんととも、変なこと言わないでとも言えない。
いや、聞くのが怖かった。
ドイツの家に遊びに行ったらそれとなくプロイセンのこと気にかけてたのに、私の気遣いは彼にとっては邪魔なものでしかなかったの?
ほんとはずっと昔から私のこと大嫌いで、近付いてほしくもないって思ってたの?
プロイセンにとって私は、絶対ってつくほどまでに嫌いな子だったの?
急に無言になった私に気付いたのか、プロイセンがおいと声をかけてきた。
やめてよ、嫌いな、友人にもしたくない相手をそんな不安げな声で呼ばないで。





「ど、どうしたんだよいきなり・・・。いつもみたいに怒るかジャガイモ投げるかしろよ・・・」
「・・・・・・私、もうプロイセンの前には絶対姿見せないから」
「な、なんだよ、お前まで俺のこと・・・!! な、泣くなよほら、ヴェストに美味いもの作らせっから!」
「もうプロイセンと喋ったりしないから! ほんとに今までごめん馬鹿死ね日本さぁぁぁん!!」






 頭の中がしっちゃかめっちゃかで、自分が何言ってるのかすらわからなかった。
猛スピードでプロイセンの前から逃げてきて、気が付いたら日本さんに抱きついてた。
ドイツと仕事の話して邪魔しちゃいけないだろうに、よりにもよって私がぶち壊してしまうなんて。
絶対に怒られる、どうしよう、しばらくまた巫女さんの格好して生活しなきゃいけないんだろうか。
そんなこと思いながらも、本能には抗いきれずに日本さんに縋りつく。




「日本さん、日本さぁぁぁぁん・・・・っ!!」
「ど、どうしたんですか、そんなに泣いて!!」




 静かな部屋に突如乱入してきた挙句飛びついてきた私に驚きながらも、日本さんは優しく背や頭を撫でてくれる。
何があったとドイツは血相変えてるし、ほんと私何やってんだろう。





「兄さんに何かされたのか!? 言ってみろ!!」
「ドイツさん・・・! そんな口調で尋ねたらが怯えてしまいます!!」
「・・・プロイセンが・・・・・・、私のこと、友人だと思ったことなんて・・・・・・、一度もないって・・・」





 自分で口に出して言ったら、プロイセンに言われた時のことを思い出してまた涙が出てきた。
人前で泣いちゃいけないと決めてたのに涙が止まらない。
悲しい、苦しい、ジャガイモ嫌いになりそう。





「・・・あの方はそんな事をあなたに・・・? ・・・・・・ドイツさん、プロイセンさんはどちらですか」
「ま、待て早まるな日本! 兄さんの肩を持つわけではないが、怒りに我を忘れるな!!」
「怒り・・・? ・・・そんな生温いものではありませんよ。に暴言を吐いただけに留まらず泣かせるとは、怒りを通り越して乾いた笑いしか出てきませんよふふふふふ」
「わ、笑うな! いいから刀を収め「ヴェスト!! こっちに来なかったか!?」






 プロイセンの声を聞いて、体が無意識に震えた。
ぎゅっと日本さんが自分の胸に私の顔を押し付けて、さりげなく耳まで塞いでくれる。
おかげで周りが何と言っているのかわからず、冷ややかな空気だけがぴりぴりと伝わってくる。
ここ、シベリアよりも南極よりも寒いんじゃなかろうか。





「ちょうど良い所に。プロイセンさん・・・・・・、金輪際、に会わないで下さい」
「はぁ!? なんで、ていうか何抱き締めてんだよお前ら家族だろ!? ずる「とにかく! を傷つけることは私が許しません」





 何かをびしっと言い切った日本さんの私を抱き寄せる腕が、更にきつくなった。










ドイツとアルプス、その関係性なんて知らん




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