災い転じろ福になれ







 俺様日記○月◎日。
俺様、男になる。





















 当分の間、ドイツに行ってはいけない。
あわや起りかけた日普(代理独)戦争を日本さんのいきすぎた怒りのおかげで回避した私は、
それでもまだ起こりかねない戦いを避けるために渡独禁止令を言い渡された。
別に日本さんに言われるまでもなく、ドイツには悪いが今はあそこには行きたくない。
行っても周りの人たちに迷惑かけるだけだし、何よりもプロイセンに会いたくなかった。
ただ、会いたくないと思っているのは私だけのようで、日本さんの家に帰ってからずっと、インターホンが鳴り続いてる。
本当に、人の感情を逆撫ですることは得意なようだ。





「いるんだろ!? 開けろ出てこいあれは違うんだ!」
「・・・・・・」
「い、居留守なんて使いやがって弱虫だなお前!」
「・・・・・・」
「あっ、いや、弱虫じゃねぇよ、今のは俺が悪かった!!」






 インターホンを鳴らすだけでは足りないのか、遂には玄関の扉を叩き始めたらしい。
ばんばんとそれなりに大きな音が聞こえてくる。
あぁ、そんなに乱暴に叩いたら日本さんに叱られ・・・。





「うわっ、やめっ、わかった、わかったからやめてくれぇぇぇぇぇぇーーーーー!!」






 ・・・ほーら、日本さんに叱られた。
私が嫌いなら来なきゃいいのに、どうしてプロイセンは会いに来るんだろう。
私の気持ちを汲み取ってか、日本さんは鉄壁の守りをしてくれる。
日本さんのガードには誰も勝てないだろう。
たぶん、日本さんの上司連中も勝てない。





「・・・あぁ、大丈夫ですよ。ストーカーはしっかりと懲らしめておきました。心配はいりません、私がちゃんと守りますからね」
「・・・日本さん、その手についてる血痕は「ミリタリーなファッションですよ」





 どれだけ手酷い懲罰を与えてきたんですか日本さん。
ミリタリーとかそんな見え透いた嘘つかなくたって、それがプロイセンの体内から溢れ出した血だってことくらいわかる。
怒った日本さんは本当に怖い。
浮かべる笑みすら目は据わったままだったりする。
そして乾いた笑みをする中でも私にだけ向けてくれる心からの笑みは、逆に恐怖が増す。
その笑顔の裏で何をやってきたのか、何百年何千年と一緒に暮らしてきて訊けたことはほとんどない。





「私、プロイセンの真意がわかんないです。友だちじゃない子に、いくら暇だからって毎日会いに来ますか?」
「・・・謝罪に来ているとして、許せますか?」
「許すも許さないも、彼が私のこと嫌ってるって事実は変わんないじゃないですか」
「そうですね、私も許せません。物には言い方があるのです、プロイセンさんはその選択を間違えました」
「言いたいこと八つ橋にくるまず言っただけじゃないですか?」








 日本さんの攻撃でノックダウンしたプロイセンを引き取りに、ドイツが現れた。
こっちに用があるドイツにくっついてプロイセンもやって来たらしい。
監禁プレイとか手錠プレイとかお好きならプロイセンさんにもそうして下さいと、日本さんが進言してる。
いや、さすがにそれはドイツも渋るよ日本さん。
そういうプレイは兄にするんじゃなくて、他の人にやるもんじゃないの?
ドイツは気絶したままのプロイセンを米俵のように抱え上げると、私を見下ろした。
相変わらずの長身だ、見上げる私の首が悲鳴を上げてる。





「兄貴が迷惑ばかりかけてすまない
「こっちこそ、仕事で来てるのに毎日呼び出してごめんね。あと、日本さんが気色悪いこと言っててごめん」
「いや、いいんだ・・・」





 いいわけないのにドイツは優しい。
弟はこんなに出来がいいのに、どうして兄はあんななんだろう。
ドイツは絶対にプロイセンには育てられてない。
たぶん、オーストリア夫妻に愛情いっぱい注がれて育てられたんだろう。
育児放棄だなんて、プロイセン酷すぎる。
そう思ってたらふつふつと怒りが湧いてきた。
このままいけば、私もめでたくプロイセンを嫌いになれそうだ。





「ところで・・・・・・、なぜ巫女の格好をしている?」
「「罰ゲームです」」




 ドイツの家で会談中に乱入して泣きついたことは、しっかりとお仕置きされていた。
あの状況なら免除してくれても良さそうだが、日本さんは己の欲望には忠実だった。
ほんと、年寄りは頑固だ。










































 日本さんがドイツとの会議があるからと言って家を空けたある日のことだった。
プロイセンはついに強硬手段に打って出た。
がしゃんとガラスが割れる音がして、次いでドスドスと大きな足音を立ててやって来る何か。
日本さんの家に空き巣なんて勇気ある人もいるものだ。
ていうか、私はいるから空き巣に来られても困るんだけどな。
どうしたものか、仕事中の日本さんに救援を要請するのも悪いしと思い、とりあえず寝室に置いてある懐刀を取りに行く。
銃刀法違反? 日本さんが持っとけって言ってんだから抵触しないんだろう。






!! ・・・お、見つけたぞ」
「げ・・・、プロイセン・・・」





 空き巣でなくてほっとしたけど、空き巣の方がまだ良かったかもしれない。
よりにもよってプロイセン、窓ぶち破ってまで私に会いに来るなんて狂ってる。





「ちょっ、なんで物騒なもん持ってんだよ! 襲わねぇから安心しろって!」
「・・・何しに来たの、用ないなら帰って」
「用があるから来たんだよ! あの、さ・・・、こないだのこと・・・・・、ごめんな・・・?」






 誤解させたなと言うと、プロイセンは私の前に座り込んだ。
しょぼくれてるプロイセンなんて久々に見た気がする。
いや、プロイセン自体視界に入れるのは久し振りだ。
プロイセンでも神妙な顔つきとかできるんだ。
意外な、でもどうでもいいことを発見した。





「確かに俺はのことは友だちとは思ってないし、たぶんこれからも思えない」
「誤解も何も、そのままの意味で受け取ったんだけど」
「だー!! だからそれが駄目なんだよ!」
「ダメ出しされても困るよ。嫌いと大嫌いの違いなのそうなの!?」
「ちげーよ、むしろその逆!!」






 勝手に喚き散らしてたプロイセンの顔が見る見るうちに紅くなった。
プロイセンには悪いが、赤面の理由がわからない。
(頭は)大丈夫と尋ねると、急に両肩を掴まれた。
嫌いついでに頭突きでもするつもりなの?
やるつもりなら受けて立ってやる。
プロイセンの頭というか、顔が近付いてくる。
頭突きをするには勢いがないけど、元軍事大国だからここからが強いのかもしれない。
油断はできなかった。





「俺は、お前のことが好きだから、友だちじゃなくて好きな人としか見れないんだよ」
「・・・私はプロイセンのこと、割と好きだよ?」
「『友だちとして』じゃなくて『異性として』だよ! 俺はのことが好きっつーか・・・、愛してるんだ」





 さすがは腐っても元軍事大国だった。
近距離での『愛してる』発言は、私の心身に多大なる衝撃を与えた。
ふむ、プロイセンは黙ってればこんなにも美形だったのか。
またどうでもいいことに気が付いた。






は俺のことどう思ってるのか?」
「い、いや、どうも何も、だから、友だちとして好きだと思うよ? 今までそうとしか見てなかったし」
「もう少し俺に関心持てよ!! 俺様強くてかっこいいだろ!?」
「あぁうん、よく見たらかなり美形さんだったね。強いのかどうかは知らないけど」





 言ってることに嘘はない。
本当に今まではプロイセンのこと、友だちいないし国でもない不審な人としか認識していなかった。
今日になっていきなり愛してると言われたら、これからは意識せざるを得なくなるそうだけど。





「あのさ、もうそろそろ顔離してくれる? ピントが合わなくなるほどに接近する必要はないと思うのよ」
「じゃあ目瞑ってろ」
「それもそっか」





 目を閉じた直後、唇におそらくはプロイセンの唇が重なった。
あんなにがなり散らしてたからか、少しカサカサしてる。
あぁ、迂闊に目なんて閉じなきゃ良かった。
でも、プロイセンがこんな芸当できるとは思ってなかったもんなぁ。
というか、なんか下手な気がする。
ここまでの思考一秒足らず。
私はプロイセンの背中に手を這わせると見せかけて、懐刀を首筋に押し付けた。
わぁさすがは元軍事大国だ。
私が刃物を水平に動かす前に飛び退った。





「なっ、何すんだよ殺す気か!?」
「なんかちょっと不快だったから。・・・これからはそれなりに意識せざるを得なくなったから、安心して故郷に帰って」
「ははっ、なんだかんだで今の俺様の絶妙なテクに落ち「てないし、絶妙でもなかったから」





 調子づいてきたプロイセンからガラスの修理代せしめて追い出した私は、再び静かになった部屋の真ん中に座り込んだ。
仲直りできたのは嬉しい。
思っていたよりも愛されていたということも判明したし、たぶんこれで良かったんだろう。
なんだかちょっと顔が熱い気もするけど、これはプロイセンが過剰な挨拶を実行したからであって、彼にときめいているわけではない。
今までどうでもいいと感じていた彼にまつわる些細な発見が急に大発見に思えてきて、私は床に突っ伏した。







































 「聞け、フランス、スペイン! 俺、の唇を奪ってやったぜ!」
「へぇそうなん? ほなこれからは恋のライバルやんなぁしばくでコラ」
「プロイセンもやぁっとスタートラインかぁ。でもちゃんはお兄さんだけの女神さまだよ☆」
「キスくらい俺ら何十年も前にしとるもん。ウブやなぁプーちゃんは」
「なっ!!!??」









総受けって、たぶんこういうこと指すんだと思う




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