染まるお姫様







 火照った体にペタペタと這いずり回る冷たい何かが気持ち良くてたまらない。
このまま身を任せていれば、一度ショートしてしまった頭も正常に動き出しそうだ。
・・・そういえば私は誰に身を委ねているんだろう。
動く冷えピタクールに至るまでの過程を思い出し、はっとして目を開けた。





「・・・ここは・・・っ!?」
「客室」




 真っ白な天井を見れば、なるほどここは客室というか屋内だということがわかる。
さすがに温泉でのぼせて沈んで、そのまま温泉で介抱はされなかったか。
私は目を開けたものの、依然として姿が見えないアイスランドにありがとうと声をかけた。




「ここまで運んでくれたんでしょ? ありがとう」
「別に」



 そもそもアイスランドが温泉に来て、あんな恥ずかしいこと言わなきゃ倒れることもなかったんだけど、それは言わないことにした。
言ったら最後、蒸し返されて今度こそ本当に溶けるかもしれない。
あ、言われたこと思い出したらまた熱くなってきた。
落ち着け私、浮かれるな私。




「いきなり沈むとか意味わかんない」
「・・・誰のせいで沈んだかわかんない?」
「自業自得でしょ」




 ぴたりと額に当てられたアイスランドの手の冷たさが気持ち良くて、目を閉じる。
何しにここに来たのかわかんなくなってきた。
あぁもうアイスランドに会いに来たってことにしておこう。
現代の王子様に介抱される女の子なんて私くらいしかいないだろうし、ここは看病の特権をフル活用だ。
それにしても、やけに手の冷たさを直に感じるものだ。
そんなにアイスランドって冷たかったっけ?
だいぶ調子も良くなったし、そろそろ起き上がっても平気かな。
そう思って上半身を起こした私はぎょっとした。
この王子様、ほんとに場所を温泉から客室に移しただけだったのか。





「・・・アイスランド、もう手はいいから・・・」
「まだ熱いのに」
「いや、それはたぶんアイスランドの手のせいだから」
「何、期待してんの?」




 期待なんかしてないしてない。
そりゃ温泉で沈んでタオル1枚状態を今も晒してても、それから先何を期待するというんだ。
いくらアイスランドが王子様フェイスでも、私そこまで飢えてないしがっついてない。
だから変な気分になる前にその手を外してくれ。




「アイスランド、悪いけど服貸してくれるか持って来てくれない?」
「・・・・・・」
「そこで黙る意味わかんないし、このままじゃ今度は湯冷めする・・・」
「ここ自分の家なのに、使い走りとか意味わかんない」
「ああじゃあもう意味わかんなくていいから一旦後ろ向いて。タオル1枚の女の子じろじろ見ないで、恥ずかしい!」





 アイスランドに強引に後ろ向かせて、急いでシーツを体に巻きつける。
気を失ってたから仕方ないのかもしれないけど、年頃の男の前に堂々と裸を晒すなんて信じられない。
相手がアイスランドだから良かったけど、これがフランスとかイギリスならとっくに襲われてる。
・・・いや、彼らの場合は温泉に乱入してきた時点で赤信号だろう。
本当にアイスランドで良かった。
悲しくもあるけど、私のほとんど全裸触っても何も変化ないんだから。
あぁ、やっぱり西洋人の豊満な肉体見慣れてたら、私みたいに大したことない女の子見ても欲情しないのか。
してもらっても大いに困るんだけど。





「・・・なんで叱られるのか意味わかんない」
「私も、一応裸の女の子にベタベタ触っても何も思わないアイスランドがよくわかんない」
「やっぱり、期待してたの?」
「してません、むしろ何事も起こらないことを期待してますよ」





 ぴた、と頬に手が添えられた。
相変わらず冷たい手で、ちょっと熱くなってる今の私にはちょうどいい温度だ。
・・・あれ? なんで後ろ向いてるはずのアイスランドが私の頬に触れてるんだろう。
答えはひとつ、アイスランドがこっち向いてるからだ。
身勝手とはわかってるけどまた注意しようと振り返った私は、首を捻ったまま硬直せざるを得なかった。
あぁもうほんとに意味わかんない。
私はこうなることなんてこれっぽちも期待してなかったし、それどころかこうならないことを期待してて彼にもそう言ったのになぜ。
満足したのかゆっくりと唇を離したアイスランドは、至極真面目な顔で言い放った。





「何、期待してんの?」
「してないって! こうならないことを期待してたの!」
「だから、なんでにキスしないことを期待してたの? 意味わかんない」
「だってまさか、アイスランドはこんなことしてくるなんて思ってなかったもん! アイスランドは友だちだと信じてたのに」
「何、勝手に期待してんの? 王子様とお姫様は友だちじゃないでしょ、恋人になるのが常識」




 ただでさえ頭がパンク寸前なのに、ここに来て追い討ちとばかりに温泉での話を蒸し返された。
駄目だ、今は温泉とは状況が違う。
ここでまたショートしたら、次起きた時が恐ろしい。
頑張れ私、王子様の殺し文句に意識を持っていかれるな。
ここで落ちたら私は晴れてお姫様だ。
自分が何を考えているのかわからなくなってきた。




「あの、アイスランド・・・? これから私は日本さんとこに直帰できるよね? そう期待してんだけど」
「何、期待してんの?」






 予想通りの返答に身も心も意識も投げ出した私の体を、アイスランドはそっと抱きとめた。





「・・・こんなに緊張して他の気付かないの神経が、ほんと意味わかんない・・・」









ここで彼の中身は熱いとか書いたら、雰囲気ぶち壊す気がする




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