夢の中でも会いたいって言ったら君は笑うかな







 カーテンの隙間から差し込む柔らかな太陽に光に、ぼんやりと覚醒する。
今日もええ天気やなぁ。
そう思いつつもベッド恋しさになかなか起き上げれないスペインの体に、優しく手が添えられた。



「起きてスペイン。今日もカナリヤが上手に鳴いてるよ」
「ん・・・、あ・・・、やん。こない朝早うから俺に逢いに来てくれたん?」
「やだ、まだ寝ぼけてる。私たち、一緒に暮らしてるでしょ?」
「そういえば・・・・・・、そやったん!?」




 衝撃の発言に飛び起きたスペインは、枕元のを見つめた。
真っ白なエプロンを身につけてきょとんとしている姿は、まさしく新妻のそれ。
いつの間に妻として迎え入れたのだろうか。
結婚式どころかプロポーズの言葉すら思い出せないが、そんな細かなことはどうでも良かった。
今、現実に自分の妻としてがいる。
それだけあれば、スペインは充分に幸せだった。




「そっかー、俺世界一、いや、宇宙一の幸せ者やんなぁ。ついに楽園に到達や」
「そう言ってもらえると私も嬉しいな」




 スペインはに顔を近付けると頬に唇を寄せた。
くすぐったいと笑いながら言う様子が可愛らしくて、今度はトマトのように美味しそうな唇を頂こうと顎に手をかける。
いつ見ても本当に美味しそうな色と形をしている。
見た目だけではなく、実際に甘くて美味な唇という名の果実が、スペインはこの上なく大好きだった。





「ほないただきます」
「あ、駄目! そっちはだ「何やってんだスペインこのやろー!!」





 ばーんと声がして、スペインは音の発生源へと視線を向けた。
大股でベッドへと歩み寄ってきたロマーノは、の顔に添えられたままのスペインの手を容赦なく叩き落した。
次いで、今にもスペインの朝食となりかけていたを背で庇う。




に変なことすんじゃねー!」
「何やロマーノ、やきもち妬いとんの? 親分がと仲良うしとるさかい」
「ちげーよアホちくしょう!」





 明らかにやきもちを妬いているとしか思えないロマーノの反応に、スペインは満面の笑みを浮かべた。
子分だろうが何だろうが、を巡っては侮りがたいライバルだった。
スペインは叩かれたはずなのに幸せすぎるせいだろうか、全く痛くない手を擦りながら相好を崩した。




にちょっかい出す暇あるんならとっとと仕事に行きやがれ」
「早くしないと、せっかくロマーノが作ってくれたご飯冷めちゃうよ」



 今日もすっごく美味しかったよと熱烈な視線で見上げてくるに、ロマーノは飛び切りの笑みを向けた。
女の子をナンパする時の笑顔とは少し違う、慈愛に満ちた表情にはスペインも見惚れてしまうほどである。




「俺はほんまに幸せ者やんなぁ。ロマーノとと3人で仲良う暮らせて」
「そう言ってもらえると私たちも嬉しいな。ね、ロマーノ」
「・・・まぁ、世話になってた奴見殺しにもしておけないし、な」




 2人して顔を見合わせては恥ずかしげに笑いあう嫁と息子(仮)に、スペインはこれ以上ないほどの幸せを感じていた。

































 慌ただしく朝食を食べ仕事に送り出されたスペインは、仕事先であろうフランスを訪ねていた。
いってらっしゃいと笑顔と仏頂面で見送られ、気分は高揚している。
今日はイギリスの眉毛に出くわしても勝てそうな気がする。
鼻歌交じりにフランスの元を訪ねたスペインは、そこで惚気話をぶちかました。





「もうほんまにええ子やねん! あない尽くしてくれて俺、天に召されてまうわ!」
「あー・・・。一時はどうなるかと思ったけど、案外幸せそうでほっとしたよ」
「心配あらへんでフランス! すぐに子どももできるやろうし、そしたらベタベタに可愛がったるわ! きっとかあええでー、の子どもやもん!」
「スペイン・・・、お前、完全にふっ切れたんだな・・・」




 フランスは憐れみの籠もった瞳でスペインを見つめた。
KYという致命的な洞察力の欠如を抱えている彼が羨ましくもあった。
自分ならば、絶対に耐えられない。
あんな蜜よりも甘い愛の巣で暮らすなんて。
向けられる愛情が形を変えることは絶対にないとわかってもいるので、下克上を起こす気にもなれない。
それ以前に、あんな所にいたら精神が病んでしまう。
フランスは、今の所何の変調も来たしておらず、むしろ絶好調なスペインの鈍感さと単純さの強さを知った。




























 帰ったでーと玄関で声を上げ、飛び込んでくるであろう愛妻に備え両腕を広げる。
お帰りなさいと笑顔で駆け寄って来るはずだというのに、近づく気配もない。
リビングは明るいのになぜだろうか。
まだ夕食を作っているのなら、後ろからぎゅっと抱きついてやろう。
悪戯まがいのハグを計画したスペインは、お帰りのキスを諦めると居間へと歩を進めた。
そして、居間でくつろぐ2人を見て鞄を落とした。






「な、な・・・、何してんねん!」
「え、スペイン・・・!? 帰って来てたの!?」
「なんだよもう帰って来やがったのかこのやろー」




 ソファーにぴたりと肩を寄せ合い座っているロマーノとに、スペインは訳がわからなくなった。
何だこのいちゃつき加減は。
自分の家のはずなのに、とてつもなくアウェーに感じる。
スペインはから離れようとしないロマーノに、震える声で尋ねた。




「親分の嫁に何しとんの・・・? ロマーノ、間男になったん・・・?」
「はぁ? 何馬鹿なこと言ってんだ、は俺の妻なんだけど」
「ちゃうもん! 、ロマーノ嘘言うとるわ!」
「いや、私はロマーノの奥さんだけど?」





 えへへへへと恥ずかしげに笑うの頬にロマーノが唇を寄せる。
スペインは当たり前のように仲睦まじくしている2人に、何も言えなかった。
ただただ、見ていることしかできなかった。




「・・・い、おい、スペイン!」
「・・・・・・やもん」
「とっとと飯食えこのやろー」
「俺嫌やもん! 俺がの旦那さんなるんやもん!」





 スペインは子分夫婦の間に割って入ると、強引にを抱き締めた。
悲鳴と怒号が両耳に飛び込んでくる。
世の中には略奪愛というものもあるのだ。
満たされないのならば、愛情の向かう先を無理にでも変えさせればいい。
破滅的な感情に身を任せ腕の中のを我が物にしようとしたスペインの後頭部に、殺気を大いに含み凶器と化した白旗が振り下ろされた。



































 カーテンの隙間から差し込む柔らかな太陽に光に、ぼんやりと覚醒する。
今日もええ天気やなぁ。
そう思いつつもベッド恋しさになかなか起き上げれないスペインの体に、優しく手が添えられた、



「起きてスペイン。今日もカナリヤが上手に鳴いてるよ」
「ん・・・、あ・・・、やん・・・・・・。・・・・・・なんでおるん!? ロマーノといちゃつきに来たん!?」
「・・・なんでロマーノ?」





 今は夢か現実か。
次元の区別がつかなくなったスペインは、思いきり自分の頬をつねり上げた。
痛い、ものすごく痛む。




「・・・何やってんの?」
! は誰かの、ロマーノのお嫁さんとかじゃあらへんよね!?」
「結婚の予定は今も昔もないけど・・・。何かあった?」





 真っ白なエプロンを身につけて訝しげな表情を浮かべているを見つめ、スペインは胸を撫で下ろした。
なんとも心臓に悪い夢を見たものだ。
愛するが他の男と結婚などされたら、滅亡するかもしれない。
もちろん滅亡する前に、相手の男も一緒に地獄へ送る所存だが。




、俺な、昨日夢ん中にが出て来たんよ」
「あぁ・・・。夢の中の私はロマーノの奥さんだったんだ?」
「そうやねん。夢でもに逢えるんはめっちゃ嬉しいんやけど、心臓に悪いわー」





 愛されてるなーと言って微笑むを、そっと腕で包み込む。
やっぱり現実がいい、あんな悪夢は忘れてしまおう。
記憶の消去に取りかかったスペインの耳に、そういえばと呟く愛しい声が入ってきた。




「夢って、人に話すと現実になるって言うよ?」
「・・・、さっき俺が喋ったこと全部忘れてまうくらいにイイコトしよか?」
「忘れる、数秒で忘れる、もう忘れたから離せアホトマト」






 今は夢じゃない、ものすごく甘くて、そしてちょっぴり辛い現実だ。
起き抜けのスペインの頬に貼りついたトマト色の手形は、じりじりと熱を持っていた。










多夫一妻制が一番の解決法だと思う




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