ノンストップ勘違い







 なんだか不思議だ、今日はいつもよりもたくさん精霊の姿が見える。
遂に私も彼らと同じように、特定の人物にしか見てもらえない種類になってしまったのだろうか。
妖精たちが見えることに異常なまでの食いつきをしてくるイギリスはちょっと引くけど、北欧の皆さんは私が何を見ていようが気にしないから気が楽だ。
だから、ついつい北欧に足を運んでしまうのかもしれない。




「アイスランド、遊びに来たよー」




 北欧のみんなの中でも、割と顔を合わせるのはアイスランドだ。
なんというか、冷ややかな口調と裏腹な熱い一面が癖になった。
癖というよりも、彼のことが好きだから逢いに行ってるんだろう。
向こうも私のこと好きって、私よりも先に言ってきたし。




「・・・お留守?」




 遊びに来てと言ったのはアイスランドなのにいないとは。
彼が帰ってくるまで私は外で待ちぼうけなのだろうか。
それは困る、それなりに寒い場所にいたら風邪を引く。
最近は厄介な病気も流行ってるから、なおさら身体を丈夫にしとかないといけないのに。
困ったものだと突っ立っていると、がちゃりといきなり扉が開いた。
なんだ、いるんだったらさっさと開けてくれればいいのに・・・・・・、あれ?
中から出てきたのはアイスランドではなく、ノルウェーだ。




「アイスに会いに来た?」
「そうなんだけど・・・・・・、いないんでしょ?」
「中で待ってっといい」




 まるで自分の井江かのようにすたすたと先を歩くノルウェーについて、アイスランドの家にお邪魔する。
やっぱり家の中の方が居心地がいい。
今に入ると、ノルウェーがどっかとソファーに腰掛けていた。
ここ、ノルウェーの家みたいだ。




「そっか、ノルウェーが来てたからいつもより精霊が多かったんだ」




 そこに座ればいいかもわからず、とりあえずノルウェーがくつろぐソファーの端に座る。
彼の周囲には精霊やら何やらがふよふよ浮いてるし、このくらいの距離がちょうどいいのだろう。
それに、私はそこまでノルウェーとは親密ではないと思う。
この人、言っては悪いけど、何を考えてるのかアイスランド以上にわかりにくい。





「そういえば、ノルウェーはなんでここに? やっぱりアイスランドに会いに?」
「アイスに『お兄ちゃん』さ言わせるために来た」
「ノルウェーって、アイスランドのお兄ちゃんだったの!?」





 これは大発見だった。
2人ってそんなに似てるかなと、ノルウェーを見つめてみる。
む、ちょっと遠くにいるから詳しくはわからない。
目を眇めて見ようとしたら、急にノルウェーの顔がアップになった。
近くで見るとなるほど、アイスランドと同じく整った顔立ちをしている。
かっこいいというよりも美人と形容した方が良さそうだ。
浮いてるくるんはやっぱり触ったららめぇぇな事になるのだろうか。
そんなはずないよね、同じくるんでもイタリア兄弟じゃないし。




「俺とアイス、似てる?」
「綺麗なとこはそっくり。目の色とかは違うけど・・・」
「綺麗なのはの方」
「またまた、兄弟揃って同じ口説き文句言っちゃって・・・」





 お世辞だろうけど照れ臭くて笑ってたら、つつつとノルウェーのしなやかな指が私の頬をなぞった。
くすぐったくて身をよじるけど、いつの間にやら超至近距離にまで接近されているおかげで逃げ場がない。
行動が突拍子ないのも似ている。
気を利かせてだか知らないけど、さっきまであんなに群れてた精霊たちいなくなってるし。




「あー・・・、ノルウェー? 弟いない間に弟の家でこういうことするのって良くないよ?」
「じゃあ場所変えてうちに来るべ?」
「そういう問題じゃないんだけど・・・」




 アイスランドの聞きわけが悪くて、予想の遥か斜め右上の返答を返してくるのは兄譲りか。
お兄ちゃんならもう少しまともな教育を施してほしかった。
そりゃ、兄のこんな姿しか見てなかったらアイスランドも同じことしかしないよね。




「あの、知ってるだろうけど、私がプライベートでここに来てるってことは、私とアイスランド付き・・・」
・・・っ!?」





 ばぁんとドアが乱暴に開けられる音と叫び声がした。
おかえりアイスランドと一応言いはしたけど、聞いてないだろうな。
私も、悠長に挨拶やってる場合ではない。




「何やってるの、どきなよ」
「・・・弟のものは兄の「ものじゃないし、ほんと今すぐから離れて」




 なんだか勝手に縄張りとか餌を荒らされて毛を逆立てて怒ってる猫と、ゆったり構えてる猫同士の争いみたい。
できれば私を巻き込まないでやってほしいんだけど、今日ばかりはそれは無理らしい。
アイスランドが一歩近づけば、ノルウェーが私を拘束する力を一段階強める。
私を巡って争わないでとか言ってみたい気がするけど、アイスランドにすらお決まりの『意味わかんない』フレーズを吐かれそうなので言い出せない。
ほんとに、兄弟揃って物好きだ。
私よりも美人な女の人なんてごまんといるのに、なんだって私なんかを争ってるんだろう。




は僕に逢いに来てるんだから、すぐに離して」
「お兄ちゃんって呼べば離してやる」
「な・・・!」
「ちょっと待ってアイスランド、そこ躊躇うとこなの!?」




 アイスランドの綺麗な顔が苦々しく歪められた。
お兄ちゃんって一度呼ぶだけなんだから、そのくらいささっと言ってほしい。
そしたらノルウェーの長年の夢も叶うし、私もアイスランドの元に行けるではないか。
何をそんなに悩む必要があるのだ。
世は妹萌えですとほざき、日夜お兄ちゃん呼びを強制させていた日本さんの仕打ちよりもだいぶ優しいお願いではないか。





「・・・言いたくない」
「じゃあはこれからはアイスのものじゃなくなるっつーことで」
「私の意見を聞く気はないの、2人とも」

「聞きわけ悪い弟と付き合ったのが運のツキだべ」




 どの口が言う。
細身にもかかわらずそれなりの力で抱き締めてくるノルウェーをぐっと見上げた。
アイスランド、お兄ちゃんでも兄貴でもいいから早く呼んであげて。
それとも私って、『お兄ちゃん』フレーズに負ける程度の女だったわけ?




「アイスランド、私も一緒に『お兄ちゃん』って言ってあげるから!」
「・・・ほんと?」
「ほんと! だからほら、アイスランドはお兄ちゃんに恋人奪われていいの!?」
「困る。・・・お兄ちゃん、から離れて」




 言った、やっと『お兄ちゃん』って、ものすごく可愛くない声で言った。
顔ぶすくれてるし、ノルウェーがどく前に私掴んでるし、滅茶苦茶だ。
・・・なんか疲れた、どうして私が兄弟喧嘩の仲裁しなきゃいけないんだろう。
こういうのはフィンランドあたりの役目な気がする。




、さっきの言葉本気だよね」
「言ったじゃん、ノルウェーのことお兄ちゃんって」
がお兄ちゃんと呼ぶためには、弟の嫁にならなきゃいけないから」
「・・・は? いや、意味わかんないんだけど」
「だから、僕の妻になったらいつでもお義兄さんと呼べるでしょ。大丈夫、リコリス嫌いなら食べなくていいから、いつ式挙げる?」





 私の何気ない一言がアイスランドの頭でどう変換されたのかはわからない。
ただ、私は近いうちに彼と結婚することになったらしい。
お付き合いしてるから愛情の問題はないけど、私の意思はどうしてくれるんだろう。
さすがに急すぎる、心の準備ができていない。





「ちょっとノルウェー、お兄ちゃんでしょ。責任持って弟の暴走止めてよ!」
「アイスの家は思ったほど寒くはないから不安がることねぇ。あと、は別に無理して『お義兄様』って呼ばなくていいから」
「呼ばないよ! アイスランド、私・・・」
「幸せにする自信は世界中の誰よりもあるから。愛してる、
「・・・そんなこと言われたら断れない・・・」





 結婚してもいいかなとぼんやりと考えた私の頭上に、いつの間にか戻ってきていた精霊たちが色とりどりの祝福の花を振り撒いた。









「上手く成功したね、お兄ちゃん」「当たり前だべ」




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