ドイツの場合





 こう、何て言えばいいんだろう・・・・・・。
そりゃ大切だと思うしそれがドイツの日課だってこともわかってる。
わかってるんだけど・・・・・・。
これはちょっと寂しいと思ってしまう。




「ドイツ・・・・・・、もうちょっとゆっくり、ゆっくり歩こうよ・・・・・・」
「犬がこの速度で走っている、もう少し頑張るんだ
「私、ドイツみたいにムキムキしてないし肉体派でもないから、きついんだってば・・・・・・」




 ぜえぜえと荒い息を吐き、犬の散歩をしているドイツの3,4歩後ろを懸命に追いかける。
ドイツと並んで歩きたいのに、犬たちがそれを邪魔してくれる。
何なんだ、ドイツの家で飼ってる犬は足が速すぎる。
私の最大のライバルはドイツの愚兄でもイタリアでも巨乳のドイツ人でもなく、犬なのだ。
恐るべし犬、私からドイツを引き離すとはいい根性しているじゃない。




、急げ。15分以内に帰宅した後はディナーだ。ディナーを1時間で済ませた後は・・・」
「ドイツ、せっかくのクリスマスくらいマニュアル生活やめようよ・・・。なんだか軍隊みたいだよ」




 ドイツが立ててくれた計画をぶち壊すのは気が引けるし申し訳ないけど、ここからドイツの家まで15分で帰れるわけがない。
どんな走り方をすれば間に合うというのだろう。
後ろからセーラー服とメイド服と猫耳を持って日本さんが追いかけてこないと、驚異的なタイムは出ないと思う。
私はドイツとゆっくりまったり過ごしたいのに、私の想いは一方通行のようだ。




「15分は無理か?」
「うん、無理」
「そうか。では30分にずらして・・・・・・、駄目だ」



 何が駄目なのか、リードを私に託すとドイツは分厚い本を取り出して読み始めた。
『恋人と素敵な聖夜を過ごすための本~ドイツ人編~』・・・・・・。
誰だ、こんなありがた迷惑な本を書いたお節介野郎は。
年に一度しかないイベントを、どこの馬の骨ともわからない奴に指図されるなんて気に食わない。
マニュアルなんかに頼らなくてもドイツは充分魅力的な男なのだ。
マニュアルなんざにお世話にならなければならないほどいほど人生経験浅くないのだ、私だってたぶん。
私は背伸びしてドイツから本を引っ手繰ると、ざっと中身を読んで近くのゴミ箱に投げ入れた。
そっちは不燃物入れだと指摘され、すぐに燃えるゴミに入れ直すが。




「ド、ドドドドドイツ!!」
「何だ、いきなり挙動不審になって・・・。寒いのか、震えているぞ」
「そう、寒いの! だから、温かいと巷で噂のドイツのムキムキで暖まりたいなーとか・・・・・・」
「・・・・・・、そのフレーズはあのマニュアル458ページに載っていた、『恋人から引き出したい台詞』の・・・・・・」




 ざっと読んでたまたま目に入った記事を実行に移すだなんて、どんな敵前逃亡だろう。
マニュアルから解放したいと思ってたのに、結局私もそれに載ってること言っちゃおしまいだ。
ドイツのムキムキは自分で考えたんだけどなー、やっぱり『あっためて』は常套文句か。




、お前の考えはよくわかった・・・・・・。予定変更だ、就寝時間は未定にする」
「・・・初めは寝る時間まで決まってたんだね・・・・・・」
「規則正しい生活は健康の資本だからな。すぐに帰るぞ、手を取れ」




 出かけた時はその気もなかったのか単に気付かなかっただけなのか、差し伸べてもくれなかった手が目の前にある。
大きくて温かそうな手を取ると、温まりに包まれているといった感慨を味わう間もなくずんずんと引っ張られていく。
これは15分どころじゃなくて10分で着きそうだな。
自らが定めたスケジュールをぶち壊し聖夜を楽しもうとしているドイツがこの後変貌することを、私はまだ知らない。









世間一般で言うドSが降臨した夜でした




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