フランスの場合





 ふわふわと優しい手つきで揺すられ、はぁはぁと荒い息遣いが耳元で聞こえる。
ぼうっとしてると先にちゃんを食べちゃうぞーと猫撫で声で言われ、私は無意識のうちにテーブルの上のワインボトルを手に取った。




「あ、なんだフランスか。ご飯できたの?」
「うんもうばっちり。だからまずは落ち着いて右手のワインボトルを離そうね」




 ちゃんを食べちゃうなんて今の段階では冗談だよと乾いた笑い声を上げるフランスの額には、冷や汗が浮かんでいる。
本当に冗談だったんだろうか。
まぁ今日は大目に見ることにしよう。
今日はクリスマス、わざわざ血を流さなくてもいいだろう。
それにフランスが腕によりをかけて、私だけのために美味しいディナーを作ってくれたんだし。
こういう時のフランスはすごくかっこいい。
気も利いて料理もできて、これで変態じゃなかったら年に150人くらいは彼女ができるだろう。
私なんて見向きもされなかったかもしれない。




「すっごく美味しそう! ありがとうフランス!」
「そう言ってもらえると俺も作った甲斐があるよ。どんどん食べてね」
「うん!」




 この日のためにフランスが用意してくれたとっておきのワインを開け乾杯する。
ちゃんにも手伝ってもらって畑で取れた葡萄なんだよと言われると嬉しくなる。
美味しいワインはたくさんあるだろうに、心憎いことをしてくれる。
いつ手伝いをした葡萄なのかは覚えてないけど、こんなに美味しくなってくれたんなら手伝って良かった。




「クリスマス、フランスを日本に招待できたらいいんだけど毎年ごめんね?」
「いや、俺としては日本にずっと監視されてるよりもこっちの方が良いよ。それに日本はこの時期お客さんもてなしてる場合じゃないでしょ?」
「うん・・・。だから私が好き勝手できるんだけど。フランスを雲の上の実家に呼んでもいいんだけどねー、うっかり帰れなくなったら困るもんね」
「帰れないってつまり、俺死んじゃうってことだよね」




 さすがにそれは困っちゃうよと若干引きつった笑みを浮かべるフランスに、私はあえてにこりと笑い返した。




「毎年懲りずに誰かを血祭りに上げて、自分だけ天国見てるのにねぇ。いっぺん本場の天国見てきた方が勉強になったりして」
ちゃんにも天国見せてあげてるでしょ、俺の超絶な愛の力で!」
「私はそんなに望んでないけどね・・・」




 つれない事言わないでと、ここぞとばかりに擦り寄ってくるフランスの顔を容赦なく押しやる。
ぎゃ、手の平を舐められた。
黙ってるか料理作ってる時は誰よりもかっこいいのに、こういう変態なところがあるおかげでフランスの人生は3割ほど損をしてると思う。
一般人は手の平をべろりと舐めはしない。
うう、気持ち悪い。




ちゃん、全身舐めていい? お兄さんデザートはちゃんがいいな」
「フランス、私と一緒に天国行こっか。私、片道切符だけ用意してあげるよ」
「その前に俺が食べちゃうもんねー」




 果たして先に天国へ行ったのはどちらか。
翌朝、フランスの家はしんと静まり返っていた。









「うっわーほんとに天国来ちゃったよー・・・」「聖女さんはあっちにいるよ」




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