香港の場合





 いけない、私はまた人前でぼんやりと取り留めのない事を考えていたらしい。
具合悪いんですかと不安げな目で見つめてくるのは香港だ。
自分の目の前で自分以外の事を考えていたと言うのに怒らないとは、どこぞの家主と違って随分と心が広い。




「・・・あれ? なんで香港がここに? 私は1人でお留守番してたんだけど・・・・・・」
「日本さんが出かけるって知って、これは滅多にないチャンスなんで遊びに来ちゃいました!」
「そうなんだ。あ、ケーキ作ったんだけど食べる? 香港子どもじゃないから甘いのとかもう駄目かな?」
「食べます! さんが作ってくれたものならなんだって!」




 あぁもう可愛いなあ。
可愛いと言うと香港を傷つけるかもしれないから言わないけど、私の前にいる香港はかっこいいというよりも可愛いという表現をした方がしっくりくる。
私が1人の時を見計らっていつも遊びに来てくれるし、おかげで寂しい思いをしたことはあまりなかった。




「でも香港も面白いよね。今日は絶対あっちで爆竹鳴らしてクリスマス賑やかに楽しんでると思ってた」
「爆竹ならここに!」
「うーん。それはお正月に中華街辺りでやってくれるかな・・・。香港も早くいい人見つけて、楽しいクリスマス過ごせるようにならなきゃね」
「俺、さんとクリスマス一緒に過ごすつもりで来たんスけど」





 ケーキを切っていた包丁が、ざくりと音を立てて下の台紙まで切り分ける。
落ち着け落ち着け、もしかしたらそうなのかなとは薄々思っていたじゃないか、私。
淡い予感が現実になっただけなんだ、ここまであっさりと、かつ大胆に言われるとは思ってなかったけど。
ここで挙動不審になったら香港を困らせてしまう。
ここは年長者の意地で乗り切るんだ・・・。
香港は急にぎごちなくなった私を見て小さく笑うと、包丁を握る私の手に彼のそれを重ねた。





「ほ、香港・・・? 手元が狂っちゃ危ないから・・・」
さんが1人で包丁握ってる方が危ないっス。俺に好かれてるっていい加減自覚してほしいっス。いちいちの反応可愛すぎて、それ見てるのもいいけど」
「いやいや、香港の方がかわい・・・・・・」
? 俺のこと男として見て下さいって、何度言ったか忘れるくらいに言ったんスけど」





 駄目だ、恥ずかしすぎて顔が上げられない。
こういう時は何て言えばいいんだっけ。
ありがとう? いや違う、ごめんなさいか。
でもごめんなさいって言ったら香港の告白を拒絶してるように聞こえちゃうかも。
最近こんなに情熱的な告白されたことないから、勘が鈍ってる。
日本さんもそうだけど、最近の男性はシャイだもんなー。
ここぞとばかりに夜這いを企て、そして夜毎日本さんの刀の錆になる男が続出していた云百年前が懐かしい。
頭の中で爆竹が弾けようとしている。
頑張れ私、火照った頬と頭を冷やすんだ。
冷静になろうと意気込んだ私の頬に、ひんやりとしたものが触れた。
ちょっとべっとりするこれは何だろう。
頬に触れようと指を伸ばしたら、香港に手首を掴まれた。





「香港、何やって・・・・・・ひゃあっ!?」
「火照った頬に白い生クリームって最高っス。あ、これ滅茶苦茶美味しいです!」
「・・・・・・それは良かった・・・・・・けど、まともに食べよっか・・・・・・」
「あと3口、いや、10口くらいしたら普通に食べます。次、唇に落としたいんで寝て下さい」
「ちょ、待っ・・・」




 スポンジの部分はどうするの。
羞恥心で頭が大爆発してどうでもいいことを呟いた唇に、香港は満面の笑みを浮かべ食らいついた。









止まることを知らない香港の唇は人にはまず見せることのない場所をなぞって・・・・・・って、続けますか?




ヘタリアTOPに戻る