北の国から2010







 これでもかというほどに首にマフラーをぐるぐると巻かれたかと思うと、せっかく着込んだ服をべろりと捲られる。
何するのと非難の声を浴びせるよりも先に、ぺたりと貼るカイロを装着される。
このくらいしておかないとあっちは寒いからと言って、気を利かせてくれるのはありがたい。
でも、もう少し『服めくるよ』程度の声かけをしてもらえないだろうか。
別の意味で私の心臓は凍りつくのだ、まったく。





「同じ北欧なのにこうも寒さが違うとはねー・・・」
「僕の国に嫁いできて正解だったでしょ」
「うーん・・・・・・」




 様々な陰謀に巻き込まれ流され、アイスランドの奥さんになって数ヶ月。
彼のことは嫌いではないし愛しているが、彼からの愛情表現は受け方がすごく難しい。
彼を取り巻く環境は厳しくなるばかりらしいし、果たして私はこのままやっていけるのだろうか。
最近はそればかりが気になってならない。




「その包みは何?」
「これ? シー君へのお土産だよ。シー君日本のおもちゃ好きだから、スウェーデンとも楽しく遊べるの選んだの」
「ふーん・・・・・・。僕へは?」
「お年玉は子ども限定なの」




 駄目と言われてむくれるところは子どものようだが、アイスランドはれっきとした旦那様だ。
夫にお年玉をあげるなんて、聞いたことがない。





「あ、さんあけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうフィンランド。今年もよろしくね」




 北欧各国の皆さんは早々に到着していたらしい。
遅いとアイスランドがノルウェーに叱られている。
もっと叱ってやれノルウェー義兄上。
また強制的に『お兄ちゃん』呼びの刑に処せられてるみたいだけど、あれは今では誰も被害を受けないので心配ないだろう。
最初で最後の二次被害者は私だった。
私はフィンランドをお茶を飲みながら、世間話に花を咲かせることにした。
正直、フィンランドがいないと私はここではやっていけなかっただろう。
みんな妙な威圧感があって怖いし、アイスランドは敵ではないけれども味方ってわけでもないし。




「アイス君とはどうですか? ちょっと変わった子でしょう?」
「うん、だいぶ変わってる。今日も出発直前にいきなり服捲られたし」
「え!?」
「ほんと、心臓止まったかと思っちゃった。カイロ貼るだけだったんだけど、こう、言葉が欲しいんだよねー・・・」
「わかります! ・・・スーさんも言葉ではあまり言ってくれなくて・・・」




 お互い夫には苦労するらしい。
でも、スウェーデンはいい夫でもあり父でもあると思う。
シー君すごくいい子に育ってるし、家族3人と1匹の生活って幸せそうだし。
私なんて・・・・・・、時々宇宙人と話してる気分になってるくらいだ。
文化の違い、壁とハードルが高すぎて越えられる気がこれっぽちもしない。
きっとアイスランドは私が一生懸命になってるのにも気付いてないんだろう。
気付いてたらもうちょっと、私を慮ってくれてるはずだもん。




じゃないですか! 今年もよろしくなのですよ!」
「こらシー君、ちゃんとさんって呼びなさい」
「あぁいいのいいの。こちらこそよろしくねシー君。はい、これはお年玉」




 大きな紙袋を手渡すと、シー君の大きな瞳がきらきらと輝く。
中を見てもいいかとフィンランドに尋ねているあたり、きちんと躾がなされている。
イギリスと一緒にいた頃はやんちゃなだけの元気っ子だったけど、子どもってほんとに大きくなるのは早い。
それにものすごく可愛い。
プレゼントした物が気に入ったのか、パパと大声上げて早速遊んでとせがんでいるところなど、見ているだけで幸せになる。
あぁ、私もこんな子どもが欲しい。
どこかに落ちてないだろうか、自称国家とか。





さんもそろそろ欲しくなったんじゃないですかぁ、子どもとか」
「シー君みたいに可愛い子ども、どっかに落ちてないかな」
「どうでしょうねぇ・・・」
「・・・産めばいんでね?」




 ぬっと現れぼそりと呟かれた言葉に、私とフィンランドは同時に小さく悲鳴を上げた。
出現の唐突さと発言の内容で、心臓がものすごい音を立てている。
恐ろしい顔をしてなんて事を言うのだ、スウェーデン。
アイスランドが本気にしたらまた厄介だってのに、もう少し発言には気を付けてほしい。




「スーさん駄目ですよ。アイス君たちにはアイス君たちのペースがあるんですから・・・」
「そだが、準備するに越したことはねぇ」
「それもそうですけど・・・。可愛いだろうなぁ、2人の子供だったらすごく美人ですね!」
「どうだろ・・・・・・」




 どうしよう、乾いた笑いしか出てこない。
目が笑ってないと思う。
末っ子の嫁がこんな態度とってちゃいけないってのに私の馬鹿。
フィンランドとスウェーデンに要らぬ期待を抱かせがくりと落ち込んでいた私は、突然の背後からの襲撃に今度は本気で叫んだ。
声を聞きつけて、アイスランドがものすごく怒った表情浮かべてこっちに来る。
あ、ノルウェーも一緒に来た。ほんと似てるなぁ、この兄弟。





「何やってるの、今すぐを離して」
「こいつ、俺らの敵だっぺ?」
「意味わかんないんだけど」
「俺んち日本とW杯戦うんだ。はどっちを応援すっぺ?」
「どっちでもいいでしょ! を早く離して、に触るな」




 痛い痛い、首が絞まるから早く話してデンマーク。
なんとか解放されて荒い息を吐いてると、懲りずにデンマークが詰め寄った。
あれ、デンマークってこんな人だったっけ。
もっと気がいいお兄ちゃんみたいな人だと思ってたけど、やっぱりこの人も北欧七不思議の何かなのか。




「どっちを応援すっぺ?」
「えーっと・・・・・・、どっちも・・・・・・?」
「じゃあ俺と日本が戦ったら?」
「・・・・・・デンマークも応援するように善処します」




 久々に『善処します』を使った。
嫁入りの時に忘れずに持って来たフレーズが役に立った。
デンマークあたりならまだ通用するだろう。
現に彼、満足そうな顔してるし。
ほっとしたら急に疲れてテーブルに突っ伏してると、フィンランドはちょんちょんと肩をつついた。
どうしたのと尋ねると、フィンランドはすごく申し訳なさそうにすみませんと謝ってくる。
謝罪の根拠がわからず首を傾げていると、フィンランドはある一点を指差した。





「・・・スウェーデンはアイスランドに今、何を渡してるの?」
「育児書その他諸々です・・・。すみません、確かに僕もシー君の遊び相手欲しいなーとか思ってましたけど、でも、まだアイス君そんなつもりないですよね!」
「『ありがとうスヴィー』って聞こえたのは気のせいですか・・・」
「来年は3人で来るさ言ってんべ、アイスは」
「・・・残酷な通告ありがとう、ノルウェー・・・・・・お義兄様」





 家に帰りたくなくなってきた。
ちょっぴり楽しみにしてますとはにかんで言うフィンランドには、他人事のように楽しみだよねと返すしかない。
スウェーデンお願いだから、これ以上アイスランドに何か知恵を授けるのはやめて。
懇願するように見つめていたら、アイスランドと目が合った。
にやりと笑ったように見えたのは気のせいではあるまい。






「なぁに?」
「僕はそっくりの女の子がいい」
「ちょっ・・・・・・!?」




 今年も来年もその次の年も。
私がアイスランドに振り回される日々は終わらない。










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