花つくり人







 うららかな春の日差し、さえずる小鳥たちの鳴き声、美しい花々と戯れる蝶。
それらはすべて幻想やまやかしだと思う。
本日の天候は、肌寒くすること請け合いの雨。
土砂降りの日には外に出たくない。




「イギリス、紅茶おかわり」
「またか」



 お茶受けのお菓子はいらないと断固拒否し、振る舞われた紅茶だけをひたすら飲み干す。
お腹が膨れることはないけれど、妙なものを口に入れた挙句お腹を壊すよりもましだろう。
イギリスのことは好きだけど、だからといって毒を呷るわけにはいかないのだ。



「今ちょっと手が離せないから自分で淹れてろ」
「えー、イギリスに淹れてほしいなー」
「・・・自分だけ楽しようたってそうはさせねぇぞ」




 文句を言いながらも作業を中断し、私のために時間を割いてくれるイギリスはやっぱり優しい。
でも、本当に大切な仕事だったらまずこちらの話を聞いていないのだから、特別忙しい仕事というわけでもなかったのだろう。
というか、可愛い恋人と一緒にいるのにお互い別の仕事をして過ごしてるって、どういうことだろう。
私はイギリスが紅茶を淹れている間に、彼の机の上を見に行った。
いい加減、ろくに読めもしない英字新聞をうんうん唸りながら解読する作業にも飽きてきたのだ。




「あ、綺麗! これ薔薇の花?」
「まだできてないんだから勝手に見るんじゃねぇよ!」
「すごい、イギリスほんとに刺繍上手だねー」




 触ってみたいけど、まだ作りかけのそれを手に取るのは怖い。
適当なところで挫折せず花びら一枚一枚も丁寧に針を刺し、その集中具合にも少し怖いと思う。
何が彼をそんなに駆り立てるのだろうか。
作ってどうするんだろう、飾るのかな。




「私この色好きだな。あったかい色だよね」
「そうか、良かった」
「今度暇あったら私にも作ってほしいなー。ここまで凝ってなくていいからさ、部屋に飾りたいの」
「それ、お前のために作ってるんだけどまだ欲しいのか?」
「あ、そうなの?」




 淹れてもらったばかりの紅茶に口をつけ、もう一度刺繍を見下ろす。
言われてみればこの間私が好きだと言っていた薔薇に似ているし、この絶妙な花びらの色も私が好きな色だ。
私のなら私のだともっと早く言ってくれていいのに、ぎりぎりまで言わないとはさすがイギリス、照れ屋さんだ。




「ありがとうイギリス。大切にするから早く仕上げてね」
「雨が上がるまでには完成するだろ。に薔薇の一輪も見せてやれないのは悪いしな」
「今日は素直なんだね。そっちのイギリスの方が好き」
「ばっ・・・、変な事言ってんじゃねぇよ、手元狂うだろ!?」
「変じゃないよ、ほんとだよ」




 いずれ私のものになるんなら、今は大人しくしてハイクオリティの作品を作り上げることにもっと集中してもらおう。
これが私の部屋に飾ってあったらさぞかし華やかになるんだろうな。
薔薇の香りがする香水を染み込ませてもいいかもしれない。
現実はともかく、セレブな気分を味わえそうだ。




「私も今度イギリスに何か繕ってあげようかな。何がいい? ちっちゃい頃のアメリカ? 肉感的な女の人? それともあの変な格好した天使イギリス?」
「選択肢はともかく、それをどうやって繕うんだ」
「ぬいぐるみかビニールの人形かフィギュアか。あ、天使イギリスの新コスチューム作るってのも楽しそうだよね」
「・・・いらない、がいればそれでいい」
「変なとこで無欲だよね。よしわかった、では今日は一日中イギリスの傍にいてあげよう」
「邪魔すんなよ」
「私そこまで構ってちゃんじゃないもん」





 その後、いつの間にやら眠りこけ再び目が覚めた私の手には、イギリスの手芸能力が最大まで込められている美しい薔薇の花が咲いた布が握られていた。









恋人に対してはツンすることがないと信じたいです




リクエストして下さった方へ
夢猫さん、10万打リクエストをしていただき、どうもありがとうございました。
大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした。イギリスとのほのぼのライフ、こんな感じでよろしかったでしょうか。
下手にツンさせたら雰囲気ぶち壊れそうだし、素直すぎたらそれイギリスじゃないし、加減が難しい男だと改めて痛感しました。
今後とも、月華ならびに風華凪をよろしくお願いいたします。



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