Felicidades!







 立ち寄った書店で買ってきた観光雑誌をばらばらと捲る。
あ、ここ行きたいかも。ここにも連れてってほしいな。
わ、これすごく可愛い!
おねだりプランを考えている私に、日本さんが楽しそうですねと声をかけた。




「水車見てー、うさぎさん見てー、行きたいとこいっぱいなんですよ!」
「オランダさんが負けたらどうするんですか? あなたスペインさんの方は何も考えてないでしょう」
「タコの予言には負けませんよ。私の神通力はびびっとオランダって言ってます!」
「あなたの神通力は野菜専門でスポーツではないでしょう・・・」




 四の五の言っている日本さんは無視して、再び雑誌に視線を落とす。
オランダはあまり行ったことがない。
オランダ自体ともなかなか会わなかったが、鎖国時代はいつも花を持ってきてくれる怖いけど優しい人だった。
怖いように見えるだけでいい人なのだ、たぶん。



「さ、結果は朝のニュースで観るとして寝よっと」
「観ないんですか」
「はい。だって夜更かしは美貌の大敵ですし」




 おやすみなさいと日本さんに挨拶した数時間後、私は空を飛んでいた。







































 朝日が眩しい。
この時間はもう昼だというのに、朝のような清々しさ。
どうしてだろう、もしかして丸一日寝てたとか?
そんなはずはないだろうと思い身体を起こそうとするが、上手く体が動かない。




「あれ?」
「おはよう、親分やでー」
「おはようスペイン。なんだ、まだ夢か・・・」
「夢やないで。せや、おはようのチューしたろ」




 瞼の上にキスを落とされはっと覚醒した。
ここはどこだ、なぜ身体が動かない、どうしてここにスペインがいる!?
私は日本さんの家で眠ったはずなのに、どうして窓から雲が見えるんだろう。



「ここどこ、なんでスペインいるの」
「んー、もう少しで俺んちやね。を迎えに来たんやで、しばらく楽園の日々や!」
「いやいやだからなんで・・・・・・・。あ、まさか」
は酷い子やからあからさまにオランダ応援しとったみたいやけど? 酷いわぁ、枕元にまでこーんなにたっくさんオランダの雑誌置いて」




 俺を妬かせたかったなんて可愛い事してくれてと笑うスペインの顔が怖い。
こういう笑みを浮かべている時のスペインはろくな事を考えていない。
なぁんで俺のこと応援してくれへんのと尋ねられ、うっと言い淀む。
べ、別にオランダを贔屓にしていたわけじゃないのだ。
ただ、私の第六感がそう叫んでいただけなのだ。
そう言ってもおそらくスペインは『へぇ、そうなん』としか返してくれないだろうけど。




「スペインのことももちろん応援してたよ。ただ、私の神通力はオランダって・・・」
の力はいつから野菜以外にも通じるようになったん?」
「いや、それは・・・・・・。・・・だ、だいたいスペインだって何なの、勝手に私を連れて来て!」
「ええやん。昔から勝者は自由や」




 飛行機が着陸したらしく、ほとんど抱きかかえられるようにタラップを降りる。
着ている服は寝巻きのままで恥ずかしい。
思わず身を縮めていると、スペインが上着をかけてくれる。
こういう優しいところは好きなのだが、優しさに至るまでの行為が強引すぎて空しくなる。
こんなことをしなくても遅かれ早かれスペインに会いに行っていたのに、それほどまでに私に会いたかったのだろうか。




「今日はお祝いやからご馳走食べるで! トマトもたくさんあるんやで!」
「お、おう」
「お祝いの場に相応しいの服も用意しとるんやで! きっと似合うでー、俺の見立てやもん!」
「Tシャツとジーンズで構わないんだけど・・・」
「あかん! シャツ1枚は明日の朝や。もう、もほんまは俺に会うのを楽しみにしとったんやね。今から襲ってまうで?」
「あっれー、私いつからスペイン語わかんなくなったんだっけー」




 ずーんとテンションが下がった私に頓着せず、スペインがさっさと家へ連れて行く。
空気が読めない国だとは知っていたけど、まさかここまでフリーダムだとは思わなかった。
あぁ、オランダが恋しい。
水車を見てうさぎさんを見るはずだった私に観光プランはいったいどこに。
今からでも遅くない、ベルギーあたりに手伝ってもらってスペインの元から逃げ出そうか。
トマト畑をどうにかして、トマトに心を奪われている隙を狙えば上手くいくかもしれない。
よし、そうしよう。




「とりあえずトマトには悪いけど、一旦干ばつに遭ってもらって・・・」
「何物騒な事考えとるん? ええ加減にし、そない俺を怒らせたいん?」
「げ・・・・・・」
「何がの気に障るん? 俺のこと嫌い?」
「嫌いじゃないけど・・・。ちゃんとした状態でおめでとうって言おうと思ってるのに、スペインがそれをさせてくれないんだもん」




 一度不満を口にすると、溜まっていた鬱憤がどんどん溢れ出してくる。
今回のこととは関係ないことまで口走っている気がする。
無表情だったスペインの顔が徐々に歪んでいく。
言いたいだけ言って口を閉ざすと、スペインは部屋の隅まで行って座り、膝を抱え込んだ。




「ス、スペイン・・・?」
「もう駄目や・・・。さすがの親分も泣きそうや」
「あ、う、ち、ちょっと言い過ぎたかもしれないけど・・・・・・。・・・おめでとうスペイン」




 落ち込んでいるスペインを後ろからぎゅっと抱き締める。
顔も見えないし正面からでもないので、思ったよりも恥ずかしくない。
幼子をあやすようによしよしと撫でると、スペインがもぞりと動きくぐもった声が聞こえてくる。




「おめでとうって言ってくれるん・・・?」
「うん。だって世界一になれるのは1つだけでしょ? 良かったねスペイン、お祝いの品も用意してたんだけど、ここにないから渡さないね」
「それどこにあるん? 何をくれるん?」
「大したものじゃないからいいよ別に。スペインが勝手にこっちに連れて来たから準備できなくてさ」
「そんなら代わりにをもらお。しばらくどころかずっといてくれてええで」
「うん、そういうとこがスペインの駄目なとこだよ」




 駄目なとこだけど、憎めない。
本当に憎たらしいと思っているなら、空の旅をしている時点で強制帰郷していた。
再び落ち込もうとしていたスペインの顔をさっと上げさせると、私はお祝い品代わりのキスを頬に贈った。









「・・・異様にトマト畑の土が乾いとるんはなんで?」「最近神通力の効き目がすごいのなんのって・・・?」




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