召喚、そして召喚







 これも友好交流の一環だから付き合ってやれと命令されれば行くしかない。
たとえそこが私の肥えた舌を狂わせる味覚崩壊国家であろうと、日本さんに逆らうことはできないからやるしかない。
どうして私なのか、上司連中でもいいんじゃないかと言っても私を指名してくるくらいなのだ。
まったく、あの男はどれだけ私を苦しめれば気が済むのだ。
もしかして、私のこと嫌ってるんじゃなかろうか。
いつか息の根止めてやろうとか思ってるかもしれない。




「イギリス、お望みどおり来てあげたから早く気を済ませて・・・!?」




 ばあんと勢い良くイギリスの家の大きな扉を開く。
ぐつぐつと不気味な色の煙を上げ煮えたぎっている巨大な鍋と、真っ黒なローブに身を包んだイギリスが飛び込んでくる。
いけない、何か違う世界の扉を開けてしまった気がする。
ふうと小さく息を吐き、何も見なかったことにして一度扉を閉める。
今見た光景は忘れよう。
何か、明らかに危ない感じのイギリスを見た気がするが、あれは気のせいだ。
そう、イギリス特有の幻覚とか妖精とかそういった超常現象のひとつだ。
私も職業と体質柄悪戯好きの妖精とかドワーフとかホビットとか見えちゃうから、さっきのあれは彼らが魔法でイギリスに変身しただけなのだ。





「あーびっくりした! まさか、いくらイギリスでもあんないかにも黒魔術に手は染め「よう、ちょうど良かったちょっと力貸してくれ」




 閉めたはずの扉が勝手に開き、中からにゅっと伸びてきた腕に引きずられ、忘れよう落としていた奇妙な空間へ投げ込まれる。
何がちょうど良かったのかわからないまま、イギリスに導かれるままこれまた奇妙な形をした杖を握らされる。
足元からじわじわと神通力というかなんというか、神様パワーが奪われて思わず床に座り込む。




「おいおい、もうちょっと頑張ってくれよ。お前の魔力はそんなもんじゃないだろ?」
「魔力なんて持ってないよ、これはれっきとした神通力で・・・」
「同じだろ。ほら、後で美味いもん食わせてやるから本気出せ」
「その言葉聞いて、出せる力出す気失せたー・・・」





 何を召喚しようとしているのかは知らないし知りたいとも思わないが、そんなもののために私の貴重な力を使いたくない。
ここがフランスやイタリアといった美食国家なら充電できるが、イギリスの料理ではとてもじゃないが私の力を蓄えることはできないのだ。
放出するだけで回復はしないから省エネ運転でいきたかったというのに、どこまでも人の感情逆撫でしやがって。
そもそも、呼び出したいなら自分のできる範囲で呼び出すべきだ。
もう、だから嫌だったんだ、イギリスの家に行くとろくな事がない。




「もう無理やだ無理私が消えるーーー」
「消えるのか! すごいなちょっとやってみろ」
「手品の消えるじゃないから。ほんとに魂的なのが消滅しちゃうからやめてイギリス。消えるくらいならせめて道連れにグレートブリテンを第2のアトランティカにしてやる」
「あっ、言った傍から、ちょっと俺んち沈めただろ! 天変地異は本業じゃないだろ、無理して今更神様ぶるなって」
「ふりじゃなくて正真正銘女神なんですけど!」





 押しつけられていた杖を、真っ二つに折る勢いで床に叩きつける。
ふう、力の流出はなくなった。
がんがん輝いていた魔法陣も光を失って大人しくなったし、不気味な色の煙も心なしか薄くなった気がする。
何だったのだ、いったい。
これが客人に対するもてなしとでもいうのだろうか。
最悪だ、来て早々立てなくなるくらいに疲れた。




「まさか、イギリスが私を指名してきた理由ってこれ?」
「いや。ほら、ハロウィンだからお化けか魔神でも招待しようかと」
「そこらへんに浮いてるんじゃないの? その人たちで妥協しなよ」
「新鮮味ないだろ。あ、そうだ。、トリックオアトリート」
「はあ? 私英語わかんない」
「ここまで会話通じてんのにいきなりわかんなくなるわけないだろ。さてはお菓子ないな?」




 悪戯決定だなと輝く笑顔で言われ、うっとたじろぐ。
確かにお菓子は持ってきていない。
ハロウィンの存在をすっかり忘れていたのだから、あるはずがない。
イギリスの手が妖しく動く。
嫌な予感しかしない。
その手つきがとにかく嫌だ。
立てない我が身が恨めしくてたまらない。




「悪戯だからな、悪戯らしいことやらねぇと」
「無理して悪戯しなくてもいいんだよ別に。ほら、なんか呼び出すんじゃなかったの?」
「妥協してやるよ。風呂と拘束と道具とどれがいいか選ばせてやる」
「全部お断りしたい」
「悪戯だから全部でいいのか。今度は俺が沈めてやるよ」
「・・・消えて、なくなりたい・・・」




 もうやだこんな国、とっとと帰りたい。
動けない私の体を軽々と抱え上げたイギリスは満面の笑みを浮かべると、また私の知らない違う世界の扉を拓いたのだった。









風呂→拘束+道具→風呂→たぶん監禁プレイ




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