あなたもわたしも







 日本さんの家はいつもとても静かだ。
都会のど真ん中にあるってのにここだけは別世界のように静かで、空気も美味しい。
住んでいるのが私や日本さんと言った、見た目からはちょっと想像できないくらいに長く生きてるスーパーシルバー世代で、
はしゃぐ元気力なんて残ってないのも静かな理由の1つなんだと思う。
だから、突然の大きな音や叫び声には必要以上にイラッとしてしまうのだ。
例えば、某アメリカ青年の声とか動作とかとにかくすべてが。




「やあ、遊びに来てあげたんだぞ!」
「来てほしいって思ったことは一度もないんで、今すぐお引取り下さって結構です」
「ははは相変わらずつれないなあ! そういうのツンデレって言って、最近日本で流行ってるんだろ? 可愛いなあ、はそんなに俺の気を引きたいのかい!?」
「アメリカの前でいつデレたか記憶にございません」




 私が甘えたり甘やかしたら甘やかされたりする対象はイタリア兄弟やフィンランド、ハンガリーといった人畜無害な国々の前でだけだ。
まかり間違っても、アメリカに甘えたことも甘えさせたこともない。
また夢と現実を混同してしまっているのだろうか。
もしかしたら彼の眼鏡は、ネバーランドフィルターでもかかっているのかもしれない。
3D対応眼鏡なんてのも普及しだしてきた昨今だから、ネバーランド対応眼鏡があってもおかしくない。




「まあ、のくだらないジャパニーズジョークは置いといて」
「ジャパニーズジョークじゃなくて本音なんだけど」
「日本人は本音が言えない人種だって日本が言ってたぞ! 今日はポッキーゲームをどこででもやっていい日だって聞いたぞ! さあやろう!」
「ポッキーは生憎我が家は切らしてるんで、そこのコンビに行くついでに帰ってくれていいよ」
「そう言うと思ってほら! 太くて長い特大ポッキーを用意してきたんだぞ!」
「私そんなにたくさん食べられないから、アメリカ1人で食べていいよ」





 アメリカが出してきたのは、優に30センチはありそうな極太のチョコレートスティックだった。
クリスマスやバレンタインといったイベントの時にしか発売されないそれを持ち出してくるとは、よほど今日を楽しみにしていたのだろう。
でも私はそんなに一気に食べられない。
1センチでお腹いっぱいになりそうだ。




「あ、そうそう。私ね、アメリカのために特製ポッキー用意してたんだった」
「なんだ、それならそうと早く言ってくれよ! どれだい? 早く見せておくれよ」
「うん、台所にあるからちょっと待ってて」




 棒状のものなら何だって構わないのだろう、1111だから。
私は冷蔵庫からキュウリと大根と人参を取り出すと、それらを細い棒状に切り分けた。
これにゴマドレッシングでもつけておけばほら、緑や赤、白といったカラフルなポッキーの出来上がりだ。
こっちの方が栄養価も高いし、メタボ体型のアメリカの食生活にも貢献することができて一石二鳥だ。
色もアメリカなら特に気にはならないだろう。
プレーン味なのに赤かったり青かったりするマフィンを提供してくるくらいなので、色に対する疑念は抱かないはずだ。




「お待たせー。私こっちがいいな」
はわがままだな! よーし、俺はヒーローだからね、ヒロインの願いを聞き届けるのもヒーローの大切な役目さ!」
「そうだよね、それでこそアメリカ。さ、たくさん食べてね」



 アメリカの口にキュウリスティックを突き出し、もう片方の端に齧りついてにっこりと笑ってみる。
アメリカもにっこりと笑い返して食べ進める。
私が丹精込めて育てた可愛い野菜たちなのだ、不味いわけがない。
そう思っていたのだがあれ、アメリカが半分食べて固まった。
美味しすぎて固まってしまったのだろうか。
当たり前だ、私の可愛い野菜たちは日本さんやフランスやイタリア兄弟も絶賛するくらいに美味しいのだ。




「・・・ない」
「何か言った?」
「美味しくないよ、これ。君、俺に何を食べさせたんだい?」
「キュウリスティック。ドレッシングをゴマじゃなくて別の味にする?」
「どうして野菜なんか食べさせるんだ!」
「ポッキーゲームは野菜スティックでもできるでしょ。それに昔日本でバーニャカウダってのが流行っててさー」




 こんなに美味しいのにわかんない人だなもう。
アメリカが離したキュウリをもしゃもしゃと食べてみる。
やっぱり美味しい。
アメリカの舌がおかしいだけじゃないか。
あと少しで全部口の中に入るというところで、アメリカが私の唇に噛みついた。
ゲームもせずに唇だけ奪うとはとんだ反則だ。
ゲーム好きなアメリカだが、ルールも知らないとはゲーマーの風上にも置けない。




「ポッキーゲームは端から食べてくって知ってる?」
「ちゃんと食べたんだから文句は聞かないぞ!」
「あ、ほんとだキュウリ食べてる」




 私が一生懸命愛情込めて作ったから用意した分全部食べてねと言うと、アメリカの顔が引きつる。
全部食べたらキスしていいからと妥協すると、泣き笑いのような表情になる。
なんだか、野菜嫌いの子どもを躾けている気分だ。
頑張れアメリカ。メタボ脱却したら少しはデレてあげるから。
私はアメリカの今にも文句を吐き出しそうな口に、容赦なく人参スティックを詰め込んだ。









アメリカがミッション達成するまであと29本




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