オタク夫との付き合い方







 そんなつもりは微塵もないのだけれど、私と日本さんは仲良し夫婦に思われているらしい。
仲良しの秘訣は何ですかとよく人からも国からも訊かれる。
私から見たら、いつもいちゃいちゃラブラブしているハンガリーとオーストリアの方が羨ましくてたまらないんだけど。




「だっていつも一緒にいるじゃない。日本さんの趣味も理解してるんでしょう?」
「まあそうだけど・・・。いたくて一緒にいるわけじゃなくて、たまたま私の居場所が日本さんの居場所と被ってるってだけだよ」
「それってすごく素敵なことだと思うわ」




 ハンガリーには私たちのこと、どう見えてるんだろう。
同人用語を人に覚えさせコスプレをさせなんとかプレイを日夜強制されている私を、それでも可愛い奥さんだと思っているんだろうか。
昔の日本さんは至って普通の生真面目さんだった。
冗談が通じないくらいに面白くない、ただの真面目さんだった。
いつからああなったのか、そのきっかけとなったものを消してしまいたい。
・・・まあ、今の日本さんも嫌いじゃないんだけど。




「そういやハンガリー、これ、日本さんからのお届け物」
「ありがとう! ・・・中は見てないわよね?」
「見てない見てない。私のはともかく日本さんのプライバシーはほんと厳しく保護されてるし」
「だったら良かった! ・・・ねぇもこういうの興味ない?」
「こういうの?」




 ほらと言われ突き出された薄っぺらい本を見て、私は飲んでいた紅茶を吹き出しかけた。
何というものを見せるのだ。
日本さんがそういうの描いてるってことは知ってるし私もそれを気持ち悪いとは思わないけど、いきなり見せられると困ってしまう。
18歳以上よねと尋ねられ2千年は生きてると思うと答えると、にっこりと笑われ18禁と警告されている本の中身を見せられる。
う、わ、なんかちょっとすごい。
何を勉強したらこういうシーン描けるようになるんだろう。
これが描けるようになるまでの過程の方が気になってきた。
そういうハウツー本とかあるんだろうか。
ドイツの書店に行けばこれ描くためのマニュアル本とか売ってるのかな。
問題のカットをすごい顔で見つめていたのか、ハンガリーががくがくと肩を揺さぶってくる。
う、ちょっと痛い。
さすがは若い頃派手やっていたお嬢さんだけはある。
農耕系の私に元騎馬民族の握力はきつかった。




「ご、ごめんねちょっと刺激強すぎた!?」
「うん、ちょっとじゃなくてだいぶ強かった・・・。日本さんってば、こういうの描いてたんだ・・・」
「知らなかったの?」
「ここまで過激なのは知らなかった。うちはお互いの趣味への過干渉はしないっていう暗黙のルールあるから」
「それが夫婦円満の秘訣なのね。他には?」
「他って・・・。そんなもんだよ。とりあえず日本さんを否定するようなことは言わないとか。口が裂けても言えないってか、言ったら八つ裂きにされるもん」




 そう、たとえ日本さんがこんな本を描いていても、やだ日本さんどうしてこんなの描いてるのとか詰問はしない。
現実は受け入れるしかないのだ。
逃げてどうにかなるものでもないのだし。
私の諦めに近い生き方が受けたのか、ハンガリーはきらきらと目を輝かせて手を叩いた。




「なんだかって妻の鑑って感じ! 私もあと何年くらいしたらみたいな女の子になれるかな」
「とっくになってるよ、ハンガリーは」
「やだ、照れちゃう」




 顔を紅く染めたハンガリーが照れ隠しなのか私の背中をばしんと叩く。
痛い、結構痛い。
お茶と一緒にいただいたオーストリア手作りのザッハトルテが危うく逆流するところだった。
お茶目なところもハンガリーの長所だ。
それを言ったら今度はどこを叩かれるかわかったものではないので口には出さないが。



「あ、そうそう! こういうガールズトークしたいってリヒテンちゃんも言ってたから、今度は3人でしましょうよ」
「リヒテンシュタインにこれ聞かせちゃうの!? スイスに撃たれるってば!」
「リヒテンちゃんがいるから大丈夫よ。うふふ、楽しみね」




 楽しみだけど少し怖い。
何かあったらハンガリーに守ってもらおう。
朗らかに笑い薄っぺらい本を仕舞うハンガリーを、私は縋るように見つめた。










「ハンガリーさんと何話してきたんですか?」「日本さんの攻略法です」




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