大きな子どもの小さな嫉妬







 パパもママも仕事で忙しいということで、シー君が我が家に預けられることになった。
デンマークやノルウェーのところよりも、アイスランドと私の元の方がシー君にぴったりというスウェーデンの判断によるものらしい。
判断基準が気になるが、何にしても頼りにされるというのは気分がいい。
アイスランドも口には出さないけど、すごく嬉しそうな顔をしてる。
北欧メンバーの中では最年少でいつも弟扱いばかりされているから、兄貴分に頼られるのが嬉しくてたまらないのだろう。
最年少だから子どものシー君の相手に合っていると思われた感じもするけど。




「おじさんとおばさんって呼ばれたらどうする?」
「ないない! 実年齢はともかく、アイスランドも私も見た目充分若いって!」




 そうは言ってみたものの、子どもというのは凶器にもなりうる無邪気さを持っているから油断はできない。
一応若く見えるように服装とか注意しておこう。
鏡の前でにこっと笑顔を作っていると、玄関が騒がしくなる。
フィンランドがシー君を連れて来たらしく、私も玄関へと向かう。
イギリスと一緒にいた頃はやんちゃばっかりして手のつけられないわがままっ子だったけど、フィンランドたちが育てるようになってからシー君はとても可愛くていい子になった。
親の育て方って大切だ。
イギリスはとことんまでに子育てスキルがなかったのだろう。




「すみませんアイス君、さん。ほらシー君、ご挨拶は?」
「よろしくお願いするですよ!」
「僕のを呼び捨て、だと・・・?」
「ああいいのいいの。じゃあフィンランド、また後でね」




 アイスランドとシー君と一緒にフィンランドを見送ると、私は身を屈めてシー君を見つめた。
ちっちゃくて可愛い。母性本能がくすぐられる。
何して遊ぼうかと尋ねると、シー君がリュックサックから絵本を取り出した。
読んでほしいとせがまれたのでリビングへと向かう。
ソファーに座った私の膝の上にシー君が座り、くっついた状態で本を読んでやる。
絵本なんて読んであげたのは初めてかもしれない。
聞いたこともないおそらくはスウェーデンかフィンランドの家に伝わる昔話を読んでいると、シー君がページを捲るたびに歓声を上げる。
おおすごい、全ページ飛び出す絵本だ。
これは子どもの知的教育にはぴったりかもしれない。




「シー君は昔に比べるといい子になったね」
「成長ですよ!」
「ほんとほんと。ねぇアイスランド」
「・・・そうなんじゃない?」




 あ、アイスランドがちょっと拗ねてる。
もしかしてシー君に焼き餅妬いたのかな。
子ども相手に何を嫉妬してるんだろうと苦笑し、そういえばアイスランドも結構子どもっぽいところがあったと思い出す。
面白くなさそうにこっちを見つめて、いや、睨んでいるし、もう、そんなに怖い顔してちゃシー君がびっくりしちゃう。




も、昔会議で見た時よりも笑ってる顔がほんわりするようになったです!」
「ほんわり?」
「はいですよ! シー君パパとママの笑顔も好きですけど、の笑顔も大好きですよ!」
「わあ嬉しい! ありがとうシー君」




 きゅうんとして思わずシー君を抱き締めると、シー君も抱きつき返してくる。
可愛いなあ本当に。
うちのパフィンも可愛いけど、やっぱり人型の小動物もいいなあ。
ほんとにどこかに落ちてないだろうか、子どもタイプの島か何か。
絵本を読んだ後も外で遊んだり、おやつにと持たされたサルミアッキに悶絶したりしているうちに、眠たくなってきたのかシー君がうとうとしてきた。
さすがに子どもの抱っこは重たいので、アイスランドに任せてベッドに運んでもらう。
子どもは可愛いけど相手をするのは少し疲れる。
拾ってくる前にまずは体力づくりだ。
ソファーにもたれかかってぐったりしていると、アイスランドが上に圧し掛かってきた。
すごく重たい、潰れそう。




「アイスランド、重たい」
「シーランドにはしてたのに」
「シー君はちっちゃいから膝の上乗っけても重たくないもん。でもアイスランドは重たい」
「・・・僕も子どもなら良かったのに」
「もう、またくだらないこと言って・・・。アイスランドが子どもだったら結婚できないでしょー?」




 むすりとした表情を浮かべているアイスランドの頭を撫でると、アイスランドが更に体重をかけてくる。
重さに耐えきれず、身体が横に倒れる。
ああ、これも作戦か。初めからこうしたかったのか。
首元に顔を埋め動かなくなったアイスランドの背中にそっと腕を廻し、大好きだから拗ねちゃだめと囁く。
は僕のものだもんとは、またまた独占欲をさらけ出しちゃって。
そんなこと改めて言われなくても、私はとっくにアイスランドのものだってば。




「アイスランド」
「なに」
「シー君いるから、そろそろ離れようか」
「意味わかんない」
「こういうのはシー君にはまだ早いと思うんだ。だからさ・・・」
「・・・あの子が帰ったら続きしてもいい?」
「ん・・・、わかった。好きにしていいよ」




 了解が得られて納得したのか、アイスランドが私の額に軽くキスを落とすと名残惜しそうにゆっくりと体を離す。
まったく、シー君を寝かせたと思ったらこれだ。
まだ当分は子どもはいらないか、これじゃ。
私は体を起こし改めてソファーに座り直すと、アイスランドの頭だけ膝の上に乗せた。









「シー君、アイス君のお家はどうだった?」「ママ、もっとママたちもラブラブしないと負けるですよ!」「そっかそっかー、シー君気を遣ってくれたんだねー」




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