不埒な興信所







 似たもの兄弟というのは恐ろしい存在だ。
アイスランドのいまいちつかみどころのない性格を相手にするだけでも精一杯だってのに、彼と同じくらい変わった性格をしているノルウェー義兄上の相手もさせられるとは、
私の胃袋が壊れてしまいそうだ。
これでもノルウェー対策としては頼りにしているアイスランドも出かけているし、私はいったいどうやってノルウェーと時間を潰せばいいのだろう。





「アイスと生活して楽しい?」
「まあそこそこ。楽しくも幸せでもなかったら一緒にいないし・・・」
「義兄に惚気話っつーのも・・・」
「じゃあ素直にはっきり、どうしてあんな無口で何考えてるかわかんない人に育てたのって怒っていい?」
「怒ったも可愛えの」




 ひ、人妻に向かって可愛いとはどういうことだ。
弟の嫁を褒めたって何もしやしないんだからね!
可愛いって言ってもらうのは私もやっぱり女だから嬉しいけど、それをノルウェーの口から聞くと複雑な気分になる。
また良からぬ企みをしているんじゃないかと不安になる。




「アイスはいつ頃帰ってくる予定?」
「うーん、ちょっと遅くなるって言ってたからまだじゃないかな・・・。ノルウェー、ということだから今日は帰った方がいいよ」
「それは好都合だべ」
「へ?」




 向かいのソファーに座っていたノルウェーが立ち上がり、私の前まで歩み寄る。
そっと両肩に手を置かれ顔を近付けられてって、あれ・・・?
これと似たことをいつかもされた気がする。
これされて抵抗したけどノルウェーは完全に聞き流してて、結局アイスランドが帰ってくるまで流されっぱなしだったよね。
ど、どうしよう、あの頃はまだ良かったけど、今の私はアイスランドの奥さんなんだけど。




「ノルウェー・・・? 私、アイスランドの奥さんなの」
「うん」
「押し倒されるとすごくやばいんだけど・・・」
「弟の嫁に手を出すのはよくある話だと日本はこの間話してたべ」
「うん、それはたぶんやらしいドラマとかの話で日常茶飯事じゃないからね? 駄目だってノルウェー、アイスランドより強引だよ?」




 アイスランドも突拍子ないことやってくるけどさすがは兄だ、ノルウェーはアイスランドの更に上を行くマイペースさだ。
ノルウェーは細身だけどちゃんとした大人の男性だから、私みたいなか弱い草食系女子が勝てるわけがない。
困ったなあ、台所からカボチャ召喚しようかなあ。
そうでもしなきゃ浮気させられそうだしなあ。
動く右手をひょいと動かすと、台所に置いていたカボチャがふわりと浮き上がりノルウェーの後頭部めがけて飛来する。
いけ、そこだ、やっちゃえパンプキンボム。
ノルウェーの背中でぐしゃりとカボチャが握り潰される音がした。
あれはまさか、いつの間に精霊を。
ノルウェーはにやりと笑うと、私の唯一自由に動かせていた右手もつかんだ。




「トロル呼ぶなんて卑怯でしょ!?」
「カボチャであわよくば殴殺しようとしたに比べれば可愛いもんだべ。しっかし兄に手を上げるとは、ちょっとお仕置きが必要ってぇことか」
「いいいいらない!」




 スイッチが入ったのか、ノルウェーが私の首に顔を埋める。
攻め方も似てるだなんて感じている場合じゃない。
早くなんとかしないと本当にやられる。
それだけは嫌だ、とりあえず早く帰ってきてお願いアイスランド!




「ただいま。・・・?」





 帰ってきた。
比較的早く、けれども服の中に手を差し込まれかけているという修羅場の入り口に突入する絶妙なタイミングで帰ってきた。
迎えがないことが不満だったのか、アイスランドが私の名前を怒りっぽく呼びながらリビングへとやって来る。
まずい、何かもうすべてがまずい。





「お、おか「邪魔してるべ、アイス」
「・・・! また懲りずにに何やってるの!」
「ヘ、ヘルプ、アイスランド・・・」
「待ってね、すぐ助けるから」




 すぐ助けるだなんて、そんなかっこいい言葉言えたんだアイスランド。
毎日言えとは言わないが、かっこいい言葉を知っているのならもったいぶらずにもっとふんだんに使ってほしい。
アイスランドがノルウェーの体を私から引き剥がそうと奮闘している。
アイスランドも細身だけど大丈夫かな、勝てるかな。
ノルウェーは兄弟喧嘩で手加減するようなタイプじゃなさそうだから骨が折れそうだ。
精励に援護もさせそうだし。




にそういうことするのは僕がいるからっ、間に合ってるの!」
「いんや、アイスじゃ足んねぇ」
「足りてる! 朝と夜と寝る前にキスするようになってから元気になったし!」
「やめてアイスランド、そういう恥ずかしいことさらっとカミングアウトしないで」
「それにはソファーの上よりベッドの上の方が好きなの!」
「訊かれてもないこと勝手に言わないでアイスランド、私もう外で生きていけない」
「だったらずっと僕のとこにいればいい。外になんて、お兄ちゃんになんてやるもんか」





 出た、最終兵器『お兄ちゃん』。
これを耳にするとノルウェーはもれなく大人しくなるのだ。
これのおかげでアイスランドと結婚する羽目になったのだ。
まさに兵器、お兄ちゃん呼びはどこの国でも無敵らしい。
アイスランドのお兄ちゃん攻撃を受け、ノルウェーがぴたりと止まる。
私はその隙に逃げ出すとアイスランドの背中に隠れた。
あやすように頭を撫でぎゅっと抱き締めてくる優しさが目に沁みる。




「大丈夫、?」
「うん・・・。ありがとうアイスランド」
「ノーレと僕、僕の方が好き?」
「うん、アイスランドが世界で一番大好き・・・!」
「・・・よし。ありがとうノーレ、もういいよ」
「え?」





 私を抱き締めていたアイスランドが顔だけソファーの上のノルウェーに向け、さらりと言い放つ。
あれ? 何かおかしい。
もしかしてまた2人で何か企んでた?
訳がわからないままアイスランドにしがみついていると、こちらへやって来たノルウェーが私の頭をこつんと叩く。
やや警戒しながら顔を上げると、アイスを困らすんでねぇと叱られる。
え、意味がまったくわからないんだけど。




「アイスにもう少しわかりやすく愛情表現しろっつーことだ」
「・・・いやいや、何を言ってるのか意味わかんない」
「この間あれだけ約束したのにはいつまで経ってもあんまり僕に甘えてこないから、本当に僕のこと好きで頼もしいと思ってるのかなって。だからノーレに手伝ってもらって確認した」
「危うくノルウェーに寝取られるとこだったってわかってる、アイスランド!?」
「そんなヘマはしない。でも良かった、はちゃんと僕に助けを求めて、世界一愛してるってことがわかった」




 どこも良くない。
私の心臓に大変悪い悪戯を一度ならず二度までもしやがって。
人を何だと思っているんだ、まったく。
拍子抜けしたと同時に全身から力が抜けてへなへなと床に崩れ落ちそうになっていた私を、アイスランドがしっかりと引き上げる。
嬉しかった、僕と同じこと考えてくれてたから。
ああもう、耳元でそれを言うのは反則だってば!




「もう僕を不安にさせないで。たくさん言って、毎日でも毎時間でも、僕のこと愛してるって」
「・・・うん。愛してる、大好きだよアイスランド」
「そういうこどは俺が帰った後やってくれねぇか」




 きっとノルウェーは不機嫌な顔をしているんだろう。
でも今日くらいは多目に見てほしい。
私はノルウェーが腹いせとばかりに再び召喚してきた精霊をパンプキンボムで追い返すと、アイスランドの背中に腕を廻した。









ノーレを受け入れてたらどうしようかと思いました。(アイスランド談)




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