茶色いデート引換券







 こういう時だけ、年寄りの早起き癖に感謝したくなる。
私は、今日も今日とてお早い出席を果たそうとしている日本さんにくっついて世界会議会場に来ていた。
今日も一番乗りはスイスだ。
2番手はドイツ、このあたりはちっとも変わってない。
これから何十年か経っても、到着ランキングに変動はない気がする。




「おはようございますドイツさん」
「ああ、おはよう日本。も今日は来たのか」
「おはようドイツ! 今日はちょっと用があってね・・・」
「用?」
「そう! ・・・あ、オランダ!」




 オランダも会議に来るのは早い。
いつもドイツと日本さんとの3人で政治や経済といった難しい話をして時間を潰してる。
政治の話はまったくわからない私にとっては退屈でしかない時間だ。
だからいつもは日本さんに飛行機代わりに利用されても、連れて来ただけですぐに外に遊びに行っている。
いつもはそうだ。今日は違うけど。
全然ついていけない日本さんたちの話を2歩後ろを歩きながら聞いていると、横に並んで誰かが歩き始める。
あ、こういう優しいところをさらっと見せてくれるのはオランダだ。
ドイツだとこう、オランダよりも重苦しい威圧感があるんだよね。




「オランダ、日本さんたちと話してなくていいの?」
「おう。元気しとったか?」
「うん。まあ、最近あっちこっち暑かったり寒かったりしてお野菜のお値段高いからあんまり食べれないけど・・・」
「ちゃんと食え」
「う・・・、お、お財布と相談する・・・。あ、あのね! 今日何の日か知ってる?」
「今日?」
「あれ、通じてない? まあいいや、はいこれ、オランダにチョコあげる。オランダが早く来てくれて良かったー」




 日本さんとドイツが通路の角を曲がったのを見計らって、鞄の中から取り出した手作りチョコを手渡す。
怪訝な表情を浮かべているオランダに日本のバレンタインデーの仕組みを説明すると、不思議がってる顔をしたまま受け取ってくれる。
うーん、やっぱり伝わってない?
いまいちピンときていないらしいオランダを見ていると、不安になってくる。




「あのー・・・」
「・・・
「はい」




 無言でじっと見つめられ、視線を避けることもできずにじっと見つめ返す。
初めて会った時はあんまり大きくて無口で怖かったんだよなあ。
異人さんを見たのは随分と久し振りのことだったし、引き篭もってばっかりで仕事放棄してた日本さんの代わりにおもてなししてたっけ。
オランダの方も私がおっかなびっくり接待してるってことに気付いたのか、途中からお花とかお菓子とかお土産で持ってきてくれるようになったけど。
今思い返せば、東洋人の見た目の幼さも相まって完全に子ども扱いされてたんだと断言できる。
くう、私の方がものすごくお姉さん、いやおばさん・・・いやいや、おばあちゃんなのに。
はっ、そうか。
今でも子どもだって思われてるからバレンタインチョコにもピンときていないのか。
そうかわかったぞ、若く見られるって嬉しいことだけじゃないのか。
考えていると寂しくなってきて、急にベルギーやハンガリーのようなメリハリボディが羨ましくなる。





「・・・うん」
「会議終わってもしばらくこっち残れるんなら、ちょっと付き合ってくんねぇか」
「・・・うん」
「嫌ならいい」
「は!? い、いやいや、今なんて、もう1回言ってオランダ!」
「もう言わね」
「え!? や、やだ、お願いオランダ、もう1回だけ言って下さい」
「暇でなくてもしばらく付き合え」




 うわわわわわわ、まさかのデートのお誘いだったどうしよう私、予想以上の好感触に昇天しそう!
ほんとに私でいいのと念のため確認の質問をした私は、私でないといけないと言うオランダの男前すぎる返答に、今年初めての雲の上の実家強制送還をしてしまうのだった。









最初に好きになったのは俺の方じゃ




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