カレンダーなんていらない







 えっ、だって雲の上の実家って住んでる人みんなそれぞれの時計があってみんな地上の実家が標準時で、だから私の中ではもう14日は終わってるんだもん。
そりゃ雲のちょい上飛んでる飛行機に乗ったらおひさまとお月様で少しは考えただろうけど、雲のだいぶ上は地上の常識とかそういうのまったくない、完全無欠の無法地帯だから。
ねえ知ってる?
善悪ってのは人間にだけ適用される極めて抽象的な概念で、神様は何やってもやらなくても許される至上の存在なんだよ。




「・・・というわけで私はなぁんにも悪くない。てか悪いって、何?」
「・・・ほう?」
「べっ、別にいいじゃない可愛い妹の商売に貢献しなくたって。私ほら、ベジタリアンだし」
、チョコの原料は何だ?」
「そんなの当然、カカオ豆・・・・・・あっ」





 いやだってカカオ豆はうちじゃ植えてないし、それの管轄は向こうの土地神でそこに私が干渉するのは越権行為で雲の上で若干揉める(かもしれない)し、何よ別にいいじゃんほんとに!
自分の頭の処理容量を超えたからといってすぐに実家に帰るのは反則で、大人げないと日本さんには何度も何度も言われては呆れられている。
でも仕方がないと思う。
私がこんなになったのはいつでもどこでも私を論理の漬物石で押し潰す日本さんのせいだ。
文句があるなら私じゃなくて、そこでのんびり欠伸かましてる日本さんに言ってほしい。
私はよく滑る氷の床で私にしては器用に後退りすると、もう何度目かもわからない『いいじゃん!』を発動した。




「私の中ではもうバレンタインは終わってるの、終わったもん巻き戻せってそんなの神様でも無理ですうー。
 それに何よ、大体そっちじゃ男性が何かアクション起こすんでしょ」
「行動はしとるやろうが。、お前の気持ちはどうなんじゃ」
「・・・う」
「う?」




 逃げるが勝ちと見た。
ちょっと高くジャンプすれば生身の人間や現存の国家ならば決して行くことのできない最期のエデン、雲の上の実家へ文字通り雲隠れできる。
ここへ逃げるのは最終手段だけど、ここしか逃げ場は残されていない。
4回転は無理だけど、踏切くらいはできそうな気がする。
私はすうと大きく息を吐くと、オランダから背を向け勢い良く氷を蹴った。





「先手必勝、逃げ切り優勝!」
「させるか」
「うわっ、速い速すぎオランダ何なのそのスピード! うわ、うわっ、なんなのそのコーナー回り!」
「スケートは得意じゃ」
「くっ・・・、でもこれならどうだ! いきます、なんとかクリップ!」
「フリップ」
「「あ」」





 リフトとかにチャレンジしとけば良かったと思う。
ものすごいスピードで追いつかれた挙句腕つかまれて雲の上へのスーパーミラクルジャンプも阻まれて万事休すだ。
オランダがつかんでくれているおかげで転倒は免れたので減点はされてないと思うけど、逃げられないなら消えてしまいたい。
やめて、そんな顔で溜息つかないで。
オランダははあと大きくため息をつくと、ひょいと私を横抱きにした。
そこは作物の神様らしく俵抱きだろうとか、もうそんなこと言う気力もない。




「・・・何度言えばわかるんじゃ、気は確かか」
「はい、あの、ほんと・・・・・・実にすみません・・・」
「そう逃げるばっかりやったらやるもんもやれん」
「やる? なななな何を・・・!?」
「・・・・・・ほれ」





 チューリップじゃないんだねとか、これって逆チョコとか、とにかく喋る気力が失せてる状態で良かった。
でないと私、また余計なこと言ったりやったりしてただろうから。
そういうの盛んじゃないとこって聞いてたのになんでそんなに意地なんだろう、もらう分は別口なのかなさすがオランダ抜け目ないなとか思っててごめんなさい。
私は横抱きにされたまま手渡された薔薇の花束を見つめ、オランダを見上げた。
あ、そっぽ向いた。
それは逃げって言うんだぞ、照れて顔逸らすのも立派な逃亡行為なんだぞ。




「オランダー」
「・・・なんじゃ」
「こっち向いてほしいなー」
「断る」
「えー、それって逃げじゃない?」
「・・・・・・」
「逃げるんだったら捕まえるからね。・・・ありがと、オランダ」





 もう逃げないから、こっち見て?
そうおねだりして体を捻って首を伸ばして必死に盗み見たオランダの顔は、薔薇に負けないくらい真っ赤だった。







わー薔薇の中にうさぎさん隠れてる! さすがオランダ抜かりない!




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