解せぬ切れぬ逆らえぬ







 私は人間ではない。
人のように見えるけど、この体は詳しくはわからないけど日本さんが想像してできたものらしくて、どうあがいても人間にはなれない。
だから人間みたいに歳を取らないし、見た目も変わらない。
でも昔は気付けなかった。
私自身が『神様』と崇められるものだとは日本さんや中国殿に教えてもらうまで知らなかったし、私が人でないと知ったのも、周りの人たちがどんどん老いて死んでいくのを見てからだった。
私はいつも見送る側。
私と一緒に生きてくれる人なんて、未来永劫どんなに長く生きたって現れてくれないのだ。





「日本さん、訊いてもいいです?」
「どうしましたか、急に改まって」
「どうして私は歳取らないんですか?」
「・・・・・・何を急に。また誰かに何か言われましたか?」
「そんなのどうでもいいです。・・・私、神って言われても力もほとんどない、ただやたらと長生きする死ねない子どもなだけじゃないですか。そういうの私嫌です。この体、嫌い」




 子ども同士だからと一緒に遊んでいた相手はみるみるうちに大きくなり、やがて年老い死んでしまう。
たった60年の間に友だった子がどんどん死んでいく。
60年、いや、500年経っても一向に大きくならず子どもの姿のままのこちらをあっという間に追い抜き、友だった頃の記憶を忘れ黄泉へ旅立つのだ。
いくら慣れても、やっぱり別ればかりだと寂しいし悲しい。
それは日本さんも同じだけど、でも、日本さんにとっての中国殿たちのように私には同じ人がいない。
見える神なんていない。
人の姿をして往来を歩いている神なんていない。
俗世にまみれて生き続ける、神のはずなのに人の心で薄汚れちゃった神なんて私しかいない。
どうして私だけ。
せめて、私も他の神たちみたいに特定の人にしか見えない存在なら、まだこんなに悲しい気分にはならなかったのに。






「あなたが神をやめる方法はあります」
「あるんですか!?」
「私があなたを必要としなくなれば、あなたは消えます。骨も残さず跡形もなく、おそらく人々の記憶からも綺麗さっぱりと」
「え・・・?」
「あなたがあなたである最大にして唯一の理由は、私があなたを必要としているからです。私の想いだけがあなたの生きる糧です」





 正座して真正面に座っていた日本さんがゆっくりと立ち上がり、私の背中にそっと腕を回し身を寄せる。
いつもどちらかといえばぼんやりとした目をしていることが多い日本さんなのに、今日は真っ黒な瞳がぎらぎらと光っている。
真っ直ぐ見るのが少し怖い。
思わず顔を逸らそうとすると、と名を呼ばれて私はぴたりと動くのをやめた。
動けないわけではないけれど、日本さんに名前を呼ばれると時々固まってしまう時がある。
日本さんが言葉に力を込めたからなんだろう、いつだったか名前はろくろく人に教えるなと言われたことがある。
これが想いってやつなのかな、少し重い。
洒落を考えたのに、日本さんの目と体が重くて全然笑えない。
日本さんは私の目をじっと見つめたまま、受け入れて下さいとはっきりした声で言った。





「今のあなたに神としての充分な力が備わってないのは、あなたに授けられるだけの力を持っていない私の未熟さが所以です」
「そこは責めてないです・・・」
「けれども私はあなたを失うつもりは毛頭ありません。あなたがいつどこでどんな人と遊ぼうと心を通わせようと、あなたは私のものです。
 あなたの力の源は私です。私はあなたがどんなに嫌だと言っても、あなたを神でなくすることはない」
「・・・・・・」
「もちろん私たち国とあなたは違う。誰とも違う存在にしてしまったことには申し訳ないと思っています。
 ですが私はあなたと共に生きることができない人の分もあなたを必要していて、想っているつもりです。それとも、私に想われ私につくられたことがそれほどに不満ですか?」





 ぎゅうと抱き締める日本さんの力が強くて、小さく悲鳴を上げる。
怖くて今すぐ突き飛ばして逃げたいのに、逃げられないと本能が感じてしまい体が動かない。
きっとそう思ってしまうのも私が日本さんのためだけに作られたからなんだろう。
日本さんの思うがままになってしまう自分が嫌で、とても怖かった。
自分が日本さんの操り人形みたいに思えてきて、気持ちが悪くなってきた。





「私が望めばあなたの体もいくらかは大きくなるでしょう。ですが、体は心と共に成長すべきもの。今のままでは、まだ当分はあなたは子どもです」
「・・・ただの童好きのくせに」
?」
「なんでもありません。・・・変なこと言ってすみませんでした、出かけてきます」
「どこへ?」
「頭冷やしに行くだけです。どうせ消えられないんだからいいでしょう、別に私がどこへ行こうと」
「待ちなさい、そんな状態で鬼や物の怪に襲われでもしたらどうするんですか」
「歳も取らない、死にもしない私も人間から見たら鬼や物の怪と似たようなものですよ」




 この際同じ時を生きられるのであれば鬼でも物の怪でも構わない、会ってみたい。
私は日本さんが呼び止める声から逃れるべく耳を塞ぐと、屋敷を飛び出した。







この後橋の上だか木の根元だかでそれっぽいのと会うのが王道展開って知ってる知ってるやってくるね




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