麗しき愛のトライアングル







 何度も通い詰めて常連となったとびきり美味しくてお洒落なレストランに頼んで、貸切にしてもらう。
美味しい食事に綺麗な歌声は欠かせないので、コスト削減も兼ねて歌ばっかり歌っている馬鹿弟に曲のスコアを渡し練習させる。




「ヴェー、兄ちゃん兄ちゃん、なんで兄ちゃんが歌わないのー?」
「俺には別にやることがあるんだよ。それ上手に歌えたらナンパの成功率上がるぞ、感謝しろこのやろー」
「ほんと!? じゃあ俺頑張るよ!」




 女の子のことになると様々な疑問も吹き飛ぶ弟の単純な思考に、ロマーノはにやりと笑った。
我が弟ながら、なんて扱いやすいのだろうか。
利用されるだけ利用され、泣きを見るとも知らずにヴェーヴェーと歌の特訓に励むヴェネチアーノを横目に、
ロマーノは貸切のレストランに招待するたった1人の客人へ電話をかけたのだった。

































 日本とイタリアは遠い。
こんなに頻繁に訪れるのならば、いっそのことイタリアでアパートの一室くらい借りるべきかもしれない。
経費削減とかで飛行機を使わずに自力で行けと言い渡されたから、雲の上の実家経由でイタリアに来たし。
は教会の裏にこっそりと降り立つと、今日の待ち合わせ場所へと足を急がせた。
途中出くわす物好きなイタリア男のナンパには、恋人いるんでと言って逃げる。
日本人と見て誘拐を企てるマフィン野郎には、ロマーノが迷惑を被らない程度に神様パワー使って制裁を加える。
はレストランの前で自分の身だしなみがおかしくないか最終チェックをすると、そっとドアを開けた。
とてもお洒落な場所だ。
夕食は2回に一度はロマーノの手料理をご馳走になっているので、あまり美味しいところは知らない。
掃除が下手でスリは上手いという器用なのか不器用なのかわからない彼だが、料理の腕は一流だと思う。
たまには俺が作ってやるぞこのやろーとヴェネチアーノから鍋をひったくって作られたものを初めて食べた時は、
あまりの美味しさにこのままこの家に住みたいと思ったほどだ。
天使のように美しく手料理もできる青年が2人もいたら、雲の上の実家に帰らずともここで楽園生活が満喫できる。
本気でそんな夢を見ていた頃を思い出し、は小さく笑った。





「楽しそうな顔してるね、
「ヴェー、ちゃんこんにちは、今日もすっごく可愛いね!」
「ロマーノ。ヴェネチアーノもこんにちは」




 今日は2人でデートじゃなかったんだと知り、少し落ち込む。
デートだと思ったから気合い入れて来たのに。
いや、2人に会う時はいつも気合いを入れているが。
一度ラフな格好でイタリアを訪れた際に、この数百年もの間ベストドレッサーの名をほしいままにしている兄弟に着せ替え人形にされたことは深く覚えている。




「ヴェネチアーノ、準備してんだろうなちゃんと」
「ばっちりであります!」




 ロマーノはヴェネチアーノをレストランの裏に送り出すと、にっこりと笑って向かいに座った。
お洒落な店だねと尋ねると、嬉しげに頷く。




「味もいいしも好きそうな雰囲気だったから、一度連れてきたいと思ってた」
「さすがロマーノ、よくわかってる」
「可愛い恋人のこと知らずに恋人名乗ってられるか」




 自分のために調べて探してくれていた。
その事実が嬉しくて、は紅くなり緩む頬を止めることができなかった。
恥ずかしがってるも可愛いと言われては、どうにかする努力さえ捨ててしまう。
これが2人きりのデートならもっと気が楽なのに。
は、今日ばかりはヴェネチアーノの存在を煩わしいと思った。




「そ・・・、そういえば、ここにヴェネチアーノの席はないけど?」
「俺たちの間に馬鹿弟はいらないだろ」
「でも来てたじゃん。・・・すぐにどっか行ったけど」




 何しに来たんだろう彼はと、宙ぶらりんな状態のヴェネチアーノを心配しようとしたその時、どこからともなく美しい歌声が聞こえてきた。
この声には大いに覚えがある。
ヴェネチアーノがピアノの伴奏に合わせて歌っていた。




「このために来てくれてたんだ・・・。気が利く弟持ったね」
「あいつも俺を後押ししてくれてんだよ」




 ロマーノはの瞳をじっと見つめた。
どんな災難が降りかかっても曇ることがないという漆黒の瞳に魅せられ愛しいと思うようになってから、どれだけの年月が流れただろうか。
途中様々な妨害や横槍が入ってきたが、戦いの日々とも今日できっと終わる。
いつになく真剣なロマーノの声に緊張したらしいが、不安げになぁにと応えた。




「俺とこれからずっと一緒に生きてくれないか?」
「えっと、それは」
「嬉しい時も悲しい時も、楽しい時も、全ての時間をと共に在りたい。・・・俺と結婚して下さい」




 素敵な雰囲気に美しい歌声。
そして目の前には愛しい愛しい人。
断る理由がなかった。
今なら、トマトよりも真っ赤な顔になっているかもしれない。
は小さく頷くと、ずっと一緒にいて下さいと呟いた。




「もう・・・、ほんとにロマーノったら準備良すぎ」
「プロポーズするにもそれなりの雰囲気あった方がいいだろ?」
「こんな中でプロポーズされたら、うんとしか言えないって」
「じゃあ例えば、俺が家でプロポーズしてたら?」
「・・・・・・はいって言ってた」




 返事が変わらなくても、より思い出深いものにしてくれようとしているロマーノの想いが、に更なる幸福感をもたらした。
後でヴェネチアーノにもお礼を言っておかなければならない。
兄の幸せを願う素晴らしい弟だ。
やはりヴェネチアーノは欠かせない存在だ。




「今度日本とこにも挨拶しに行かなきゃな」
「日本さん、私たちの事は認めてくれてるからたぶん大丈夫だよ」
「俺も、馬鹿弟はあの通り俺らのこと祝福して「ないよー! 兄ちゃん酷いよー!!」




 ヴェーと泣きながら飛び出してきたヴェネチアーノを見て、ロマーノは目を逸らした。
何かがおかしい。
おかしいけれど、自分とロマーノを間接的にくっつけてくれたキューピッドでもあるから、とりあえずお礼は言っておいた方がいいだろう。




「ありがとうヴェネチアーノ。これからもよろしくね」
「ヴェー・・・、ちゃんが幸せになるのは嬉しいけど、俺、俺も・・・!!」
「あんなに上手に歌えるんだもん。これからはナンパの成功率もぐんと上がるよ!」
「・・・ちゃんも落ちる?」
「マーマイト口に突っ込むぞ馬鹿弟このやろーめが」





 愛しいロマーノと、既に懐いてくれている可愛い義弟ヴェネチアーノ。
は、近いうちに訪れる幸せな生活に思いを馳せるのだった。









ピアノの特別演奏はオーストリアさんで




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