彼女の過去を覚えてる?
そう、情報の裏を探る、スパイでした。














Case05:  狼は師匠でした 作戦編
            ~腹黒いお兄さんは好きですか~












 イザークはキョウイと会って以来、悶々とした日々を送っていた。
相手がどのような人物かわからない以上、妻の身の守りようがないのだ。
大体、自身ともお互い顔すら知らないうちに婚約者同士になったのだ。
それ以前の接点など微塵もなかったのだから、今回キョウイが登場したことは、まさに青天の霹靂だった。






「・・・奴に聞いてみるか・・・?」





 今、イザークの脳裏には1人の人物が浮かんでいた。
従兄のアスランである。
縁続きとなってしまったのは非常に不本意だが、この際間柄など二の次三の次だ。
要はアスランがキョウイなる男を知っていればいいのだ。
さすがにこの手の、嫉妬絡みのことについての実家の両親に尋ねるのは憚りがあるので、こういう時にこそアスランを使うべきなのだ。
昔からうっとおしくなるほどに、ベタベタとに構っていたから、知っていても良さそうだし。
イザークは、早速アスランに連絡してみた。
30秒ほど待つと、なんとが出てきた。







『はい。・・・イザークさんですか?』


か? アスランはどうした。」



『今、お風呂に入ってるんです。
 あ、出てきた。ちょっと待って下さいね。』








 受話器越しに、アスラン電話だよ、と言うの声が聞こえる。
なぜアスランがと一緒にいて、しかも風呂にまで入っているのだろうと疑問に思うイザーク。
あの2人に限ってやましい関係などなさそうだが、我が家のこともあるので、簡単には決め付けられない。
風呂から上がったらしいアスランが、もしもし、と声を掛けた。






『どうしたんだ、お前が電話するなんて珍しい。』


「貴様こそ、なぜと一緒にいて、風呂にまで入ってるんだ?
 というか、今どこにいる。」



の家ってか、シンの家?
 庭掃除手伝ってたら結構汚れちゃってさ。』




「まあいい。・・・の棒術の師匠で、キョウイという男を知ってるか?」









 キョウイ、と呟くアスランの声がする。
知らないなぁと言いつつ、隣にいるらしいにも尋ねている。
彼女に聞いたところでわかるはずもなかろうにとイザークは思ったが、とりあえず返答を待ってみる。
もしかしたらが昔話の中で話したかもしれないからだ。







『イザーク、ちょっとに代わるな。』


「ああ。」






 アスランに変わって、やや高めの愛らしい声が聞こえてきた。
キョウイを知っているのだろうか、と期待も自然に高まってくる。






『あの、そのキョウイって人の特徴わかりますか?
 外見とか話し方とか。』



「俺やアスランとそう変わらん若い男だ。
 長い茶髪を頭の高いところで1つに括っていて、清々しいまでの好青年だ、見た目は。
 自分のことを、『私』と言っていたな。」







 やっぱり、とは呟いた。
そして、急に真面目な声になる。
少なからず緊張するイザーク。
キョウイとは何者なのか?
ひょっとして、ヤバめの人なのか?






『イザークさん、キョウイはたぶんザフトとか議会に仇なす過激派組織の参謀役です。
 の師匠っていうのは間違いないと思いますけど、今になって近づいてきたのは、イザークさんが議会の重要ポストにいるからでしょうか。』



「いや、違う。
 ・・・あいつの狙いは俺じゃなくて、そのものだ。
 浮気してやるとか言った。」



『浮気ですかっ!? とキョウイが!?』






 の大声に、今度はアスランが電話を手に取った。
かなり焦っているように感じる。
やはり、可愛い可愛い従妹が心配なのだろう。
そう思うと、日頃のアスランに対する嫉妬の炎も静まるというものだ。





『イザーク! 俺はお前もそんなに認めてはいないが、他の男なんてもっと認めないからな!
 に何かあったら、ジュール家ごと吹っ飛ばしてやる!』


「おい、それじゃ貴様が過激派じゃないか。」






 血の繋がらない従兄を、やはりいまいち好きになれないイザークだった。







































 キョウイは自宅兼秘密基地で作戦を練っていた。
に棒術を教えている頃は、ごくごく普通の、どこにでもいるような美少年だったのだ。
だが時が経ち、いつの間にか裏社会のちょっとした人物になっていた。
もっとも、キョウイ自身はそんな自分が嫌いではなかったのだが。






「イザーク・ジュール・・・・・。どうでもいいし、別に。
 私が必要としているのは、だけ。」






 すでにイザークには宣戦布告をしていた。
相手を挑発し、かつ反論を難しくさせるように話したのだから、効果は抜群と言えるだろう。
それに、これで心置きなく正々堂々とを我がものとすることができるのなら、ちょろいもんだった。
彼女をこっちに連れ込んでしまえば勝ったも同然だった。
裏社会から足を洗ったって構わないとすら思う。
いざ捕まえるとなれば、棒術に多少手こずるかもしれないが、前回の行動から見ても、あまり警戒心を抱かれていないので、まぁ大丈夫だろう。
問題はイザーク側に自分に対抗しうる強力な助っ人やがいるかどうかだが、身内のことなので、まさか議会を巻き込んだりはしないだろう。






「この勝負・・・、私の勝ちです。」





 キョウイは身なりを整えると、外へと出た。
以前と再会した場所へと向かう。
途中、1組の男女とすれ違った。
女の子の方が自分の顔をじっと見て、ふいと目を逸らした。
よくあることだ、とキョウイは胸の中で笑った。
しかし、彼は気付いていなかった。
いや、気付くはずもなかった。
すれ違った2人は、アスランとだったのだ。
キョウイが遠ざかったことを確認して、はアスランに向かって言った。






「あの人がキョウイ。
 今からに会いに行くんだと思う。」



「あいつがに妙なことをしようとしたら、俺がなんとかするよ。
 ・・・棒術は正直苦手ってか、トラウマだけど。」






 キョウイが立ち止まった。
どうやらターゲットであるを射程距離に捉えたようだ。
アスランとは、大切な幼なじみを救うべく、動き出した。








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