初出がいきなりリターンズかよと、ツッコミを入れた貴女。
実は、前作のサブタイトルにあるんだよ~ん。














Case08:  英雄伝説 リターンズ
            ~3人寄れば魔王の強さ~












 誘拐事件は、シンがとアスランに連絡を入れたことにより、異常なまでに物々しくなっていた、
たった1人の女性のために、警察なんかよりももっと厄介な連中が動き出したのだ。
場合によっては封印したストライクフリーダムもジャスティスも出動だよと、かつての搭乗者2人がのたまったからである。
それほどまでに、は皆から愛されているのだ。
まぁ、さすがにガンダム出動はラクスによって却下されたのだが。
当然の判断といえるだろう。
ラクスがの親友とかでなくて、良かった。







「でも、犯人も相手が悪かったね。
 史上最強の僕のを誘拐するなんてさ。」


「あんたのじゃないっすよ。
 それにしても・・・、俺の家なんすけど、ここは。」






 アスカ家は、今では誘拐事件対策本部と化していた。
仕事そっちのけで、かかってきたたった1本の電話から、犯人の位置を探るキラ。
旦那をほったらかしにして、中近距離戦なら任せてと棒を振る
がピンチの時は必ず、颯爽と現れるアスラン。
そして、自宅なのになんとなく居場所がないシン。
さして広くもないこの家に、なぜ人は集まるのだろう。
特に俺の上司のキラ・ヤマト。
議会の仕事を部下に持って来させるな。
どうせなら、自分の家に運べってんだ。
それに仕事しないから、どんどん書類が溜まるばっかりじゃないか。
だが、シンがこの強烈にして強力な3人に文句は言えなかった。
のために、こうして集まっているのだ。
きっと1人じゃ慌てて、我を失っていただろう。
その点でもやはり、この幼なじみーズには感謝していた。







「ねぇアスラン、。そろそろ、アジトに突入しようか。」


「俺はいつでも行けるぞ。は?」


「うふふふふふふ、ちょうど新技試したかったのよね。名付けて龍顎閃。」


「ちょっ、俺も行きますからね! 忘れんなよ!」






 すっくと立ち上がって外へと足を向けた3人を、シンは慌てて呼び止めた。
アスランがシンの方を振り返り、ことんと小首を傾げる。





「お前が行くのは当然だろう? が待ってるのは、シンだからな。」





 さぁ行くぞ。
そう言って肩をぽんと叩いたアスランの背中を、シンは呆けたように見つめた。
戦時中にもかけてもらえなかった優しい励ましを、今言ってもらえるなんて。
初めて彼に対して、敬愛の念を抱いたかもしれないシンだった。











































 が目覚めたのは、どこかの倉庫の中だった。
腹部が痛むのは、殴られたせいだろう。
これからどうしよう、と誘拐されてからまず考えた。
脱出は無理だった。
猿轡は噛まされているし、手も足も積荷のようなものに拘束されているのだ。
結構な日数そうされているので、体のあちこちが軋む。







「目が覚めたのか。金さえもらえれば、返すからな。」





 誘拐犯の1人が、目覚めたににやりと笑いかけた。
薄暗いので、顔がはっきりと見えない。
だが、その台詞からただの誘拐犯だと知り、は少なからずほっとしていた。
身代金目的の拉致なのだろう。
あの辺りはプチセレブも住みそうだから、筋も通る。
シンや自分は、決してセレブではないのだが。






「しっかしその身代金も持って来るのやら。
 1週間経っても音沙汰なしたぁ、あんたもかわいそうだな。」





 音沙汰なしは違うだろうと、は思った。
たぶん、今ものすごい勢いで居場所を特定しているのだ。
きっとキラも協力してくれているだろうし、身代金などシンは払うつもりないだろう。




(かわいそうなのは、たぶん犯人たちだ・・・。)





 現実は、の予想のはるか斜め上をいく悲劇、もとい喜劇を犯人にもたらすことになる。






























 「犯人は3人。僕らが1人ずつ相手するから、シンはをよろしくね。」






 倉庫が見える物陰で、キラはてきぱきと指示を出した。
彼が電話から辿った場所は、見事に的中していたのだ。
どんな衛星を駆使したのか、ネットワークを蹂躙したのか考えただけでも末恐ろしい。

シンたちの出で立ちは、どう見ても誘拐犯のアジトに突入するそれではなかった。
ごくごく普通の一般市民である。
まかり間違っても、歴戦の勇者には見えない。






、一応忠告させてくれ。傷なんか作るなよ?
 後でイザークになんて言われるか・・・。」


「もう、どうしてアスランはそんなにイザークを嫌がるのよ。
 従弟でしょ。」


「彼の従兄とか、やだよねぇアスラン。」






 遠く議会でイザークがくしゃみを連発しているとも知らず、軽口を叩き合う。
今からピクニックに行くかのような陽気さだが、次第に目に帯び始めた光を見て、シンは格の違いを感じた。
オンとオフの切り替えが凄まじいのだ。
迂闊に触ったら弾き飛ばされそうなオーラすらあるように見える。
こんな桁違いの英雄を親友に持つに、シンは慄然とした。
彼女と何かあれば、容赦なく鉄拳制裁が下されるのだろう。









「さて、と。入り口の見張りは2人に任せて、シンは私と一緒に中行きましょ。」





 てくてくと、あくまで自然体で歩く
突如として現れた美女に目を見張る誘拐犯と
よりにもよって、あの3人を丸ごと召喚したのかと、はぞっとした。
私のためにわざわざ・・・、とは簡単に喜べない凄絶さだ。
例えて言うならあれだ、魔王×3といったところか。






「み、身代金は持ってきたんだろうな!」


「あぁ、あれね・・・。
 どうせせびるんなら、もうちょっと大きな金額言わなくっちゃ。
 うちの別荘1軒とか。」






 うちってどっちの家だろう。
家かな、ジュール家かな。
どっちにしても、ゼロがいくつつくんだろう。
俺が出せる金額じゃないや。





「・・・まぁ、よりも私を人質にした方が良かったかもね。
 命が惜しくないんなら。」


「な、何言ってるんだ!」






 あまりのスケールの違いに恐れをなした誘拐犯は、おもむろに銃を構えた。
は銃を見つめ、眉を潜めた。
戦いのゴングが鳴ったような気がした。
には、この戦いの結末がなんとなくわかっていた。
あっけなく我が幼なじみにして親友が勝利を収めるのだ。

の外見に騙されちゃ駄目なんだよ。
虫も殺せないような無茶苦茶美人の深窓のお嬢様に見えるけど、強いんだって。
ほら、銃叩き落された。
え、何その構え。
の心の呟きが届いたのか、はにっこりと微笑んだ。
それはもう、花も恥らい、月も雲に身を隠すほどの艶やかさで。






「新技よ、見ててね・・・。天水流、龍顎閃!!」





 見張りをノックダウンさせたのだろう。
倉庫内にやって来たキラとアスランは、人を咥えて翔ぶ龍を見たような錯覚に襲われた。





「わぁ、あれがの新技、龍なんとか。
 竜巻っていうか、もう重力なんか関係ないって話?
 たかが棒なのに、僕、だけは怒らせたくないよ。」


「あの男、いくらなんでもかわいそうじゃないか。
 これじゃまるで、俺らが加害者だ。」





 これから先、どこで使うんだというような大技を完成させたの顔は、満面の笑みだ。
シンは呆気に取られているの戒めを解くと、とばっちりを受ける前に外へと飛び出した。
近くで見ると飲み込まれそうで怖いが、遠くで見ても龍が怒っているようで、やっぱり怖い。
あれを受けるとトラウマになる、絶対。
夫婦喧嘩で使ってはいけないと、後で忠告すべきだろう。








「えっと・・・、、大丈夫?
 遅くなってごめん・・・。」


「ううん、助けに来てくれてありがとう。
 なんだか・・・、すごいの見ちゃったね・・・。」



、みんなに大切にされてるから。
 でも、ほんとに無事で良かった。」






 恋人の再会を祝福するように、龍も笑っては・・・・・・いなかった。








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