いくつになっても祝ってもらえれば嬉しい日、それが誕生日。
・・・なぜこっちが物を渡さなければならないのだろうか。














Step:××  誕生日には仮装の従妹
            ~恐怖の魔女は幸せを運ぶ!?~












 この間、17歳の誕生日を迎えた。当然いつもと変わらずに一日を終えた。
まるで何事もなかったかのように。
別に祝ってほしいとか、そこまでは思わなかったのだが、
やはりそのままあの10月29日という日をスルーされたのはちょっぴり寂しかった。
10月29日、それはエースパイロットにして美しい従妹をこよなく溺愛している少年、アスラン・ザラの17回目の誕生日の事だった。




































 「アっスラーーーーンっ!!」








 彼の従妹のにはどうやら抱きつき癖があるようだ。
アスランを見つけるとすぐに前からでも後ろからでもばふっと抱きついてくる。
無重力空間だからただでさえ身軽な彼女が抱きついてきても、痛くもなんともないのだが、
実際にはいつも他から向けられる視線が痛すぎる。
もちろんそんな視線の存在など、当のが気付いているはずがないのだが。












「どうした、?」


「アスラン~、Trick or Treat!!」




はいきなりそう言うとにっこりと笑って両手を前に差し出した。
今日は10月31日。確かに彼女の言うとおりハロウィンの日だ。
キラキラと瞳を輝かせて6、7センチ高い位置にある彼の顔を見つめてくるの顔は、
亡き我が母の面影を多分に含んでもいるし、何より従妹だという贔屓を差し引いても余りあるほどに可愛らしい。
アスランは苦笑すると彼女を部屋の前に待たせておいて、準備しておいたお菓子を差し出した。








「わぁっ、ありがとう、アスランっ!! 嬉しいっ!!」




早速手渡された美味しそうな菓子類を次々と用意してきた袋の中へ入れると、そのままはその場から立ち去ろうとした。
そんな彼女をアスランが慌てて呼び止める。











っ。・・・俺には?
 それに何か大事な事忘れてない?」



そう、彼はこの実の従妹にすら誕生日を祝ってもらっていないのだ。
ニコルやイザーク達ならともかく、去年まであんなに盛大に祝ってくれていたが、今年は何もしてくれない。
さらに彼女は人からはお菓子をどっさりともらっておいて、自分には1つとして渡してくれようとしないままどこかへと逃げようとしている。












、俺にはくれないの? そんなに食べると訓練に障るよ?」




「う・・・、あ、あのね、そう!! 後でちゃんとお返し持ってくるからっ。
 だから・・・、いたずらしないでね・・・?」









多少焦りながらも懸命に訴えるに免じてアスランは今はいたずらをしないことにした。
と言っても万一このままもらえないにしたって、彼がにいたずらを出来る日など来る事はおそらくないだろう。
はじゃあ、と言うとすぐ先にて発見したディアッカの元へ行き、アスランの時と同じようにお菓子をねだっていた。






そしてアスランは見てしまった。
が彼にはお返しをきちんと渡している現場を。
自分にはくれなかったのに、よりによってディアッカには何か手作りらしいものが。
これはが始めた自分への新手のいじわるだろうか。
アスランは本気で嘆き悲しんだ。

































 その夜、今ではすっかりたまり場と化した某休憩室はお菓子の匂いでいっぱいだった。
その美味しそうなお菓子を頬張っているのはディアッカとニコル。
今日、お菓子のお礼にからもらった手作りケーキだ。
その隣で不機嫌そうな顔をして本を読んでいるのはイザーク。彼の手にケーキはない。
そして、部屋の隅でキノコでも生えそうな勢いでいじけて座り込んでいるのは一応アスランだ。
ここに今、はいない。
と思ったら扉が開いた。

















「アスランっ、遅くなってごめんねっ。ちょっといろいろあって!!」







明るく澄んだ声がアスランを呼んだ。間違えるはずがない。
昨日まで優しかった(アスランの偏見による)だ。
4人は何事かと思って彼女の方を見つめ、そして目を丸くした。
約1名本を取り落とす。
そこには魔女の格好をし、杖の代わりにおなじみの長い棒を持った美少女が、背後に大きな白い物体を隠しながら立っていたのだ。













っ!? どうしたんだその格好っ!?」



アスランが驚いて彼女の元に歩み寄るその時に、ディアッカがのほほんと、あれ手に入れるの大変だったんだよな~、という声が聞こえた。
すると、魔女はあっけらかんと、







「これ? ハロウィン仕様。ディアッカが愛読してるやらしい雑誌にこれが当たるっていう懸賞あってね。
 本当に大変だったのよ、この服が私の元に来るまで。」





そう言ってディアッカとねー、と目で合図までする始末。
確かに言われてみれば、このコスチュームはどう見たってスカートは短すぎるし、妙に露出度も高い。
ドレスを着慣れている彼女だったからこそ、このような服にもさしたる抵抗もなく袖を通す事ができたのだろう。
ちなみにこの服に袖と呼べるような代物は皆無である。









「貴様と言う奴はっ・・・!! その後ろに隠しているのはなんだっ!!」



イライラと立ち上がったイザークがつかつかと彼女の元へ行き、付属されている黒いマントで彼女の身体をすっぽりと覆うようにする。
きっとこれと同じ動作を隊長がやると、セクハラになるのだろう。











「これ? アスランへのプレゼントとお返し。
 本当はその日のうちにちゃんとあげたかったんだけどね、同じ日に渡した方が手間も省けるし、
 第一アスランもそっちの方がいいと思ってね。アスラン、開けてみて。きっとおいしいよ?」







はにっこりと微笑むとアスランの手をとって白いもの・・・、それは箱の蓋だった、に置かせた。
好奇心と不安でいっぱいになりながらアスランは妙にでかい蓋を開いた。

















「”HAPPY BIRTHDAY ATHRUN!!”・・・。
 ・・・、の真似していい?」





ん?と小首を傾げた彼女をアスランはぎゅっと抱きしめた。それはもうぎゅっと愛情を込めて。
はアスランお誕生日おめでとう、やっぱり大きくなったね~、と言いながら彼にぎゅっと抱きつきかえす。
見ている3人はあまりの2人のいちゃつきようになぜだか怒りに似た感情を覚える始末。
がアスランに贈ったのは大きな大きなバースデーケーキだった。
しかもご丁寧にアスランをはじめとするクルーゼ隊メンバーズ(隊長含む)が砂糖で可愛らしく、かつ、
そっくりに上にちょこんと乗っている。
その神業の域にまで達していよう逸品を提供したの料理センスは、終戦後はパティシエとして生計を立てていくことも充分可能だ。
アスランの喜びように満足したは彼の腕から開放されると、ケーキの周りで口をあんぐりと開けている美形集団に向かって言った。










「アスランの誕生日プレゼント、兼、ハロウィンのお返ししたけど、
 上の人形はみんなにあげるね。」





こうしてアスランは史上最高のプレゼントを一日のうちに食べつくし、
イザーク達もまた自分に似せて作られた人形を食べる、というなんとも信じがたい経験をした。

































 「おい。」




ささやかな誕生パーティーも幕を閉じ、もそろそろ部屋へと戻ろうという時、不意に背後から自分を呼ぶ声を聞いた。
こんなにつっけんどんで無愛想な呼び方をするのは、彼女が知る限り1人しかいない。











「イザーク、どうしたの? あ、イザークにはあれ甘かったよね。」

「ああ。砂糖そのままだからな。」




なんのフォローも入れることなく、淡々と事実を述べる彼には、嘘でもいいから美味しいって言えばいいのに、と苦笑した。
そして付け加えるように、



「イザークにお返しは請求しないわよ。
 どうせ持ってないだろうし、いたずらする気にもならないしね。」


、こっちを向け。」




相変わらずの命令口調でに指図する。
何事かと思い彼女がイザークの方を振り向き、口を開きかけたところに、何かが口の中に入れられた。
慌てて口を閉じたが感じたのは溶けるような甘さ。
いや、本当に溶けている。






「・・・チョコ?」



なんとも言えない甘さだけでない美味しさを口いっぱいに味わいながらはイザークに尋ねた。




「この間偶然受け取ったものだ。
 ・・・人形のお返しだ。不味くはなかった。」


「ありがと・・・。おいしいよすっごく。
 イザークの人形ね、あれでも作るの難しかったんだよ。髪の毛のさらさら加減がね。」



恥ずかしいのか、面と向かって言われてびっくりしたためなのか、はにかむように笑って制作の裏話を話す、
いまだに魔女の格好をしたは、逆に彼女が魔法にかけられたかのようにうっすらと頬を高潮させていた。
そして、それもこれも、アスランとディアッカが手に入れたという服のせいでこう見えてしまうのだ、と勝手に解釈を試みようとするイザークであった。























 それからしばらく、体重がかなり増加したアスランが懸命に減量運動をしていたというのは言うまでもない。
ちなみには通常通りの体型を維持していた。






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