パイロットだってたまには現実逃避したくなるんです。
ま、行った先でもみんなに会うのは運命なのかなー。














Step:××  旅は道連れ命がけ
            ~仮想世界に武力介入~












 新調したハンマーを一度大きく振るい、カウンター横の鏡に映る整った顔を確認する。
自慢じゃないが、戦闘に関してはかなりの修業を積んでいる。
本当は気楽な一人旅でも良かった。
それでもあえてディアッカが仲間を求めたのは、単にめくるめく恋愛をしたかったからだった。
不純な動機でもいいじゃないか、どうせここ、バーチャルワールドなんだし。




「どんな子がいいの?」

「回復役の、できれば女の子がいいんだけど」

「僧侶ってことよね。うーん、何人かいるけど・・・」

「多少弱くてもいいから、滅茶苦茶可愛い子で。ほら、癒しの青髪とか・・・」

「あぁ、紺色の髪だけどこの子はおすすめよ。可愛くて強くて言うことなしの女の子」




 そんな素晴らしい子がいるのなら初めから教えてくれ。
ディアッカは迷わず彼女を旅の仲間として指名した。
ついでに適当なもう2人の仲間も選んでもらう。
単純に強い奴と、盾になるような奴。
酒場の奥に控えているらしく、女主人が声を張り上げる。
はーいと聞こえてくる返事の声はとても可愛らしい。
一体どんな癒し系美女か。ディアッカは運命の瞬間を今か今かと待っていた。





「お待たせしましたー。どうもご指名ありがとね!」

「お、すっげぇ美人・・・・・・って、はぁ!?」

「なんだ、ディアッカじゃない。気合入れて損しちゃった」




 なぜ彼女がここに。
ディアッカは現れた美女を前に泣きたくなった。
こいつが僧侶だなんて聞いていない、信じたくもなかった。
だってこいつ、人を癒すよりも傷つけるイメージの方が大きいし。
ディアッカは得物らしい棍を振り回しウォーミングアップしているを見つめた。
何、その武器。現実世界のそれがなんでここにもあるわけ。
戦う気満々の僧侶なんて、そもそも聞いたことないんだけど。
ディアッカの視線に気付いたのか、は手を止めるとにこりと笑いかけた。




「あと2人いるんでしょ? イザークとアスラン呼んどいたから」

「ちょっ、何勝手にオーダーしてんの!?」

「うるさいぞディアッカ。待たせたな、ログインに時間がかかってしまった。あまり無理はするなよ?」

「大丈夫大丈夫、私強いから」




 王国の騎士然としたイザークがの横に並ぶ。
どれだけ気合入ってんだお前。
イザークをからかい笑い飛ばしたくなる気持ちを必死に抑える。
ここで下手なことを口にしたら、本気でに制裁を加えられかねない。
ディアッカは、仲間から傷つけられるのだけは勘弁願いたかった。




「ディアッカがリーダーとはね・・・・・・。今から俺は不安だよ」

「アスラン、どうしたのお前。今から冒険に行くんだけど」

「そうだぞアスラン。貴様旅を舐めているのか? 怪我をしても俺もも回復してやらんぞ」

「俺は結構気に入ってるんだけどなぁ、この服・・・」




 真っ赤なサーコートにひらひらとした帽子を被ったアスランは、ことりと首を傾げた。
何やら中世の貴族のような格好でおしゃれではないか。
いかにも野蛮人といったディアッカの軽装や騎士のようなイザークのいでたちよりも、だいぶかっこいいはずだ。
アスランは服装の感想を可愛い従妹に尋ねることにした。
彼女ならば良くも悪くもずばりと言ってくれるだろう。
彼女の言葉のおかげで何度傷を抉られたことか。




「駄目かな、

「いいんじゃない? アスランのセンスの悪さは今に始まったことじゃないしね」

「・・・・・・」




 さあ狩るわよーと威勢のいいかけ声を上げるを、アスランは直視できなかった。






























 どんな世界でどんな戦い方をしても、培われたチームワークは綻びを生じることがない。
技術の不足は優れたフォローで補う。
呪文を使わず力押しだけで進むディアッカたちに壁はなかった。
強いて言えばもう少し回復を頻繁にしてほしいのだが、それをに強制させるのは難しかった。
戦闘が始まると同時に飛び出していくのが彼女だからである。




、俺に回復、いや、高度の回復!!」

「無理ー、だって今ボコってるもーん」

「俺もボコられてるから! もうちょっと俺を見て!」

「何だとディアッカ。貴様を我が物にしようと・・・・・・!?」

「あぁもうイザークでいいから俺を癒してくれ!」




 イザークは腰に手を当て大げさにため息を吐くと、槍を地面に突き立てた。
なんだかんだで優しいのはイザークの美点だ。
さすがに目の前で仲間が棺桶へと姿を変えるのは見たくなかったのだろう。
ディアッカの頭上に暗雲が立ち込める。
ごごごごごと雷撃でも降り注ぎそうな気配になっているのは気のせいではあるまい。
まさかこいつ、俺を巻き込んだまま魔物を一掃するつもりなのか。
ディアッカは己の予想が外れていることを祈った。
祈りが天に通じたのか、ディアッカめがけて雷が落ちた。




「さっすがイザーク、やっぱ仮想世界でも頼りになるねー」

「ふん、この程度は序の口だ。それよりも怪我はないか、俺の後方で戦え」

「やぁよ。大丈夫、怪我しても回復できるから」




 棍にこびりついていた魔物の体液を振り払うと、はディアッカの元へ歩み寄った。
戦いには自信があると豪語していたのはどこのどいつだったろうか。
動きも鈍いしすぐに救援を要請するし、やはりディアッカはどこにいてもディアッカなのだ。




「生きてるディアッカ? ほら、ベホマしたげるから何か言いなさいよ」

・・・・・・、俺の下に・・・宝箱・・・・・・」

「やだ、こういうことは早く言ってよね。ほらどいたどいた」





 どすりとの蹴りが入り、ディアッカは地面を転がった。
ベホマをしてくれるはずが、このままでは蘇生呪文の処置になってしまいそうだ。
もういい、彼女の回復は後回しにしよう。
ディアッカは手持ちの薬草を一気に3個ほど口に詰め込んだ。




「武器かな、棍かな、私のかな」

「俺はやっぱりビームサーベルがいいなぁ。ライトセーバーでも悪くはないけど・・・」

「貴様はいつもギガブレイクをしているだろうが」




 の隣にアスランが座り、一緒に宝箱を開ける。
取り出した物体を見て2人は顔を見合わせた。
薬草が喉に詰まりあわや窒息死しかけていたディアッカを介抱していたイザークに声をかける。
せっかくのアイテムを再び箱に戻そうとしているの腕をイザークは掴んだ。




「どうした・・・・・・。・・・これは」

「これ、要らないよね。売ってもいいけどそれも面倒だから捨てちゃおう」

の言うとおりだ。にこんな下着姿をさせるなんて俺が許さない」

「いや、許されなくてもしないけどさ」





 黒地に真っ白なレースがついた下着をアスランたちは見つめた。
これを着せることに男のロマンを感じる奴もいるのだろう。
しかし、健全な男子でありながらもどこかしら人として欠陥のある2人には無用の長物だった。
こんないかがわしい格好をさせずとも、は充分可愛らしくて魅力的である。
誰だ、こんな場所にこんな物を仕込んだのは。




「ったく、リーダーの俺をもう少し敬えっての・・・・・・」

「あ、ディアッカ起きたの? もう、イザークに感謝してよね」

「いいんだ。お前の貴重な魔力をディアッカごときに使ってやる必要などない」





 それは本人の前でふんぞり返って言う言葉なのだろうか。
ディアッカは辛辣なイザークの言葉を聞き、がくりと肩を落とした。
どうして仮想世界でもこいつらと一緒に旅をしているのだろうか。
現実世界の諸々の負担から解放されるべく始めたバーチャルゲームの中でも彼らに出会ってしまうなど、どこまで運がないのだろうか。





「もういいよ、どうせ俺はどこにいてもこんなポジションだよ・・・。で、宝箱の中身は何だったわけ?」

「大したことなかったよ」

「じゃあ売ればいいだろ。財布の紐は俺が握ってんだからそれ寄越せ」

「捨てちゃった」

「勝手に捨てるな、エコ考えろよ! これだから深窓のご令嬢は・・・・・・」

「貴様とて金持ちだろう」

「そりゃ否定はしないけど! ああもう、捨てるにしても道端に捨てんなよ、マナー悪いプレイヤーだって思われんだろ」





 ディアッカはまだかなり痛む体に鞭を打ち、地面に棄てられているアイテムを拾い上げた。
がこれを捨てるのはまだわかる。
しかし、なぜ男が2人もいてそれを阻止しない。
ディアッカは過激なビスチェを袋に突っ込んだ。




「ちょっと、どうして拾ったのよ。要らないでしょ、そんなもん」

「仲間の装備をカスタマイズするのも俺なの。これ、後で装備な」

「馬鹿ばっかり言ってると、その頭潰すか昇天呪文唱えるわよ」

「わがままばっかり言ってたらここで装備させるぞ」





 待っていた、この瞬間を。
ディアッカは心の中で雄叫びを上げた。
捜し求めていた魅惑のアイテムだった。
これを装備させたくて旅を続けていた。
には、いや、イザークやアスランからも確実に倒されるだろう。
それでも良かった。
ディアッカは、蔑ろにされがちだったリーダーの権限を久々に頼もしく思った。





「ほら、大人しくリーダーの言うこと聞け」

「・・・・・・もん」

「は?」


「そんなもん改めて装備しなくても、毎日もっとすごいの着けてるんだから要らないでしょ」




 ねぇイザークと言ってが振り返る。
イザークは大きく頷くと、ディアッカを冷ややかな目で見下ろした。




「宝箱に入っているような大量生産品と同一視してもらっては困るな。だから貴様は詰めが甘いのだ」

「いや、え、ちょっ、何さらっとすごい事言ってんだ!?」





 ディアッカは思わずアスランを顧みた。
従妹を溺愛している彼もまた、先程の発言には衝撃を受けているはずである。
ディアッカの予想に反して、アスランは至って冷静だった。
それどころか素直に納得している。
こいつ本当にアスランなのか。
ディアッカは急に恐ろしくなってきた。





「アスラン・・・・・・、お前、それでいいわけ・・・・・・?」

「良くはないけど、が納得してるんならどうしようもないだろう。でもオーダーが利くんなら、俺もやっぱりビームサーベルを特注して・・・。
 いっそイージスごと作ってもらったら・・・・・・」

「オーダーは別料金かかるわよ。まかイザークの格好も私の武器もオーダーだけどさ」

「機体はやめておけ、素性が明らかになるかもしれん。俺は作ってそのまま倉庫に預けているが」

「あ、私もー」

「お前らどんだけこっちの世界にのめりこんでんの!?」





 オーダーの存在も知らずそこまでやりこんでいない一番の新米リーダー、ディアッカの受難の旅はまだ始まったばかりである。






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