(まずい・・・。本気で道に迷ったんだけど・・・!?)




。ヴェサリウスで迷子になっていた。














Step:01  史上最悪の出会いです
            ~助けられた男こそ婚約者~












 軍人1年生、は到着早々遅刻の危機に陥っていた。
行き先は彼女が所属する事になる隊の隊長の元。
が、どこをどう行ったって着かないのだ。
人に尋ねようと思ってもなぜだかみんながみんな不思議そうな、あるいは好奇の目で彼女を見ていくだけ。
そんな視線で見られていては尋ねようにも尋ねる事ができない。
は絶望を感じていた。



















 同じ頃、艦内ではうわさが流れていた。いきなり突発したうわさである。
目撃者も多数報告されている。
しかし、何よりも驚いたのはうわさされている張本人だろう。





「アスラン、お前女装の趣味があったんだな・・・。
 まぁ、何も協力してやれないけどさ、頑張れよ・・・。」



「はぁっ!? 待てっ、なんだそれは!!
 そんな趣味はないっ!!」





どこまでも茶色く、金髪の同僚、ディアッカにそう言われ、アスランは飲んでいたコーヒーをふき出した。
全くもって身に覚えのないうわさである。しかもかなり悪質な。
発信源はどこか・・・と聞こうとした所に、彼は同じく同僚のニコルにまでそのうわさを持ち出され、
さしもの優秀エースパイロットも頭を抱えてしまった。
しかも彼は見たというのだ。




「あ、僕も女装しているアスラン見ましたよ。
 隊長の部屋の前で立ってましたよね。
 少し小さく見えましたけど、もしかしたら今のアスランが厚底のブーツとか履いてるのかなぁと。
 可愛かったですよ、すごく。」


「待てっ!! それは俺じゃない!!
 きっと誰か、人違いだっ!!
 もしくは幻覚・・・。」
「うるさいぞ貴様ら。おちおち本も読めん。」









必要以上に音を立てて銀の髪をきちんと切りそろえた少年が言った。
その水色の瞳は明らかに怒っている。
そうでなくても彼は不機嫌だった。
どこに言ってもアスラン、アスランと、エースパイロットだからといって!!、と
彼はそのうわさの内容をろくに知らずに憤慨していた。





彼は外に出た。
あからさまに不機嫌オーラをかもし出している彼にわざわざ近付こうとする命知らずはいない。
そして道を避けようとする。
艦内では比較的よく見られる光景だが、それもこれもとばっちりを受けないがための防衛策だ。





しかしこの日は障害物、もとい人がいた。
隊長の部屋の前である。
もちろんそれは、その人だった。
はまだ隊長の部屋を探していた。
否、すぐ目の前にあるのだが、まるで気が付いていないのだ。
そしてそろそろ約束の時間、という頃に誰かがぶつかってきた。
注意をそらしていた、というか、まさかぶつかってはこないだろう、
常識的に避けるはずだと考えていたは想定外の衝動に思わずよろめく。







「おい、貴様。」




ぶつかってきた相手、つまりイザークがに声をかけた。
はわずかに相手を睨みながら答えた。





「自分からぶつかってきといて貴様呼ばわりはないんじゃないですか?」





そう言って今度は明らかに睨みつける。
相手の方が彼女よりも背が高いので睨むというよりは、見上げるというようになるのだが。




「あぁ?」




生意気だと思いイザークは少女を見下ろした。
そして目を見張った。
紺の髪に自分とよく似た色をした大きな瞳、白い肌、
身につけている服も白を基調としていて彼女の持つ色とよく合っていた。
美しい、はじめにそう思った。
しかし、次の瞬間気が付いてしまった。









「ア、アスラァンっ!?」





そう、彼女はイザークの嫌うアスランその人に酷似していたのである。





「は・・・? ・・・アスランを知ってるの?」
「貴様・・・、何者だ?
 なぜここにいる。
 まさかアスランの顔をした新手のスパイか?」





1度は驚いてしまったイザークだったが、逆に警戒心を強める。
怪しい者でなければ、誰も好き好んで隊長の部屋の前などに突っ立っている訳がない。
彼がそう思うのも当然と言ったら当然の事だった。
しかし、は自分が不審者扱いされた事に猛然と抗議した。








「違うわよっ!! 私はクルーゼ隊長の部屋に行かなきゃなんないのに、
 わかんないからここで迷ってたのよっ!!
 ・・・・あ。」
「ほう・・・? 隊長の・・・。 迷った・・・。
 そうか。では俺が案内してやろう、この俺が。」




感情の昂ぶりと、生来の性格からつい言ってしまったのボロにイザークはにやりと笑う。
彼はもちろんこの少女が立っている場所こそが、探しているという隊長の部屋の前である事を知っている。
しかしそんな事知るはずのないは、この顔だけはいい性格最悪な奴、と
今しがた脳内にインプットされたこの男の変貌ぶりに戸惑うばかりだ。
とは言うものの、生憎はそんな事で気が済むようなおめでたい子ではなかった。







「せっかくのお言葉だけど、さっきまで人の事不審者扱いしてたような人が、
 素直に隊長の部屋なんかに連れてってくれんの?
 大体ねぇ、人にぶつかったんだから謝りの1つぐらい・・・。」
「ガタガタとうるさい女だな。
 黙っているならまだ見ようもあるものを。
 何で貴様のようながさつな女が隊長などに用がある!!
 疑わん方がおかしいだろうがぁっ!!」












「なんだね騒々しい・・・。
 ・・・おや、君は・・・。」






いきなり2人の前の扉が開いた。
中から出てきたのはまぶしい仮面に金髪の男、クルーゼ隊長だった。
仮面には免疫のないはイザークと喧嘩する事も忘れ、彼の仮面を凝視している。
すると隊長は笑いながら、





「君が君だね。
 しかしなぜイザークとこんな所で一緒に・・・。
 意気投合したようには見えないのだが・・・?」
「「は?」」





お互い初めて名前を知り、そして同時に声を上げる。
おずおずとが隊長に質問した。




「あの~・・・、この人の名前は?」



「イザーク、イザーク・ジュールだよ。
 今日から君の同僚だ。
 ・・・どうした、イザーク?」





衝撃的な一言を聞いて放心しているを横目に、イザークはひくつきながらも尋ねた。




「・・・隊長、今、これの名前を、そうおっしゃいましたか・・・?」
「ああ。仲良くしてやってくれ。
 彼女もパイロットだからな。赤の。」







イザークはめまいがした。
母がひとめ見て気に入った、という理由で勝手に婚約を決められ、しかも同じ艦内で働いている、
と聞いていたから、いずれ会う時が来るだろうと思っていたのだが、
まさか初日に、しかも彼の嫌うアスラン似、がさつな女、極めつけは同じ隊の赤服パイロットだとは思いもしなかったのである。











先ほどまでの威勢の良さから急激に力を失くした二人だったが、
もちろんその原因を隊長が知るはずが無かった。









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