初めに助けたのは俺なのに、どうしてあんたが会っちゃうんですか。
しかも知り合いってどういうことですか。














Data02:  幼なじみと再会
            ~なんちゃってデジャビュ~












 アスランはかなりご機嫌斜めだった。
部下のシンは相変わらず言う事を聞いてくれないし、さらに厄介な事に負傷した民間人の少女までミネルバにお持ち帰りしてきたのである。
彼の話によれば茶髪の女の子と言うが、実際その子の人相など語られてもアスラン自身には全く関係もないし、興味も湧かない。
したがって少女の入る医務室にも行かない、近づかない。







 「どう? その女の子目開けた?」



「いいや。もう1日経つのにさ、全然眠ってんだよ。」



「おとぎ話の世界では王子の口付けで姫は目覚めると言う・・・。」





 興味津々で少女の様子を尋ねるルナマリアとレイ。
お姫様を助けたヒーローのような気分でいるシンは、なかなか目を覚ましてくれない少女を大いに心配しながら答えていた。
彼自身、もし妹の生まれ変わりだったらどうしようとか、実はものすごい美少女だったらどうしよう、そしたら俺ヒーローの極みじゃんなどとそれなりに思い浮かべていた。







「まあ、今からまたお見舞いに行ってくるけど。
 目を開けて最初に写るのは俺の顔、とか。
 それで一目惚れとかされたら困っちゃうなー。」




困っちゃうのは彼のその脳内だが、激しく妄想の世界に取り付かれているシン・アスカ、16歳だった。



























 「いって・・・。」




 アスランの指から血が流れている。
なにかの弾みで切ってしまったらしい。
怪我は大したことないのだが、放っておくと雑菌が入ってしまう恐れがあるため治療してもらわなければならない。
という事はすなわち、医務室に行かなければならないという事だ。
人気のない、しんと静まり返った部屋になぜか足を忍ばせて入るアスラン。
ベッドに誰かが寝ている。
おそらくあれが噂の民間人の少女だろう。
アスランは極力彼女に近づかないようにして消毒液を手に取った。













 「・・・スラ・・・ン・・・。」















 誰かに呼ばれたような気がした。
ここにいるのは自分と眠っている少女の2人きりだけだ。
まさか目を覚ましたのかと思って恐る恐るベッドへ近寄ってみる。
が、少女はいまだに昏々と眠り続けて起きる気配はない。








「寝言・・・、で俺の名前を?
 まぁ、俺は有名人だからな・・・。」





少女の身体がぴくりと動いた。
その拍子に彼女から小さな袋が落ちる。
小さな音を立てて落ちたそれをアスランは拾い上げると、ちょっとした好奇心から中を取り出してみた。
入っていたのは片方だけのルビーのイヤリングだった。
これこそ少女、の身元を示す唯一のアイテムだ。










「イヤリング・・・。
 ・・・どっかで見たことあるんだけどな、どこだっけ・・・。」





そう思いながらも元通りイヤリングを袋に仕舞うとそっと彼女の枕元に置いた。
じいっと穴が開くほどに少女を見つめてみる。
いつの間にか目が合っていた。
大きな真っ黒な瞳に写る自分の顔。
妙な既視感。








「・・・アスラン・・・? アスラン・ザラ・・・?」







はそう呟くと身体を起こそうとした。
アスランが慌ててその動作を制止させる。







「動くな。・・・なぜ俺の名前を知っている。
 本当に民間人か? 敵のスパイ・・。」





威嚇のため銃を向けるアスラン。
は彼の態度を見て悲しげに目を伏せると小声で言った。








に、キラに会いたい・・・。昔のアスランじゃないよね・・・。」






2人の友人の名前を聞きはっとした。
キラと、そして自分は幼なじみだった。
そこに本来ならもう1人、とても愛らしい少女がいた。
その名前は








・・・。お前・・・、、あの時のか!?」







銃を取り落とし我を忘れて大声で叫ぶ。
こくりと頷くと、は枕元の袋からイヤリングを取り出しアスランに手渡した。






「あの時、が私にくれたの、私ちゃんと持ってた。
 まさか家のお嬢様とは知らなかったけど・・・。」



「生きてたんだな!! 良かった、本当に・・・!!」






今にもを抱きしめんばかりの勢いでアスランは彼女の華奢な肩を強く掴んだ。
はアスランがこの艦にいる事は職業柄知ってはいたが、現実にそこで出会うなどとは思いもしなかった。
それに写真で見るよりもずっと逞しく成長していた。
きっとアークエンジェルにいるであろうキラも、大人になっただろうと思うとちょっぴり心が痛んだ。











「でも本当に良か・・ 「よくありませんよ、全然。」






 入口で不機嫌そうな声がした。
シンは腕を組んだままつかつかとベッドに歩み寄るとアスランを睨みつけた。






「あれだけ民間人はどうとかって言ってたのに自分はこれですか?
 だいたい彼女を助けたのは俺なんですよ?
 どうしてあんたが先に彼女の起きた時にいるんですか。」



「彼女は俺の幼なじみで・・・!!」








アスランの声を完全に無視してシンはに近づいた。
初めて彼女の瞳の色を見た時、これは自分の髪の色が彼女の目いっぱいに映っているのだろうかと思った。
それほどまでに澄んだ瞳だったのだ。
軽く引いているにこれ以上変人扱いされないように優しく声をかける。






「大丈夫? 俺はシン・アスカ。インパルスのパイロットやってるんだ。
 君はもう平気? 生きてて良かった。」



「あなたが・・・。私、って言います。
 助けていただいてありがとうございます!!
 えぇっと、シン・・・さん?」






にっこりと微笑んで礼を言うを見て、シンは顔が真っ赤になるのがわかった。
今まで見た女の子の中で一番可愛かった。
アスランの知り合いというのはちょっとばかり気に食わないけれど、シンはこの子を助けて本当に良かったと心から思った。






「シンって呼んで、。ずっとここにいるといいよ、ね、アスランさん。」



「ああ。FAITHの特権を使えば1人ぐらいなんて事ない!!」



「・・・え? でも私軍人じゃない・・・。」







 当事者を差し置いてどんどん話を進めていく2人。
意見の食い違いが全くない。
このくらい戦闘の時も仲良くしてくれればミネルバのグラディス艦長も変に頭を悩ませなくて済むのだが。
いくらなんでも民間人をいきなり軍人にさせるのはFAITHといえども無茶な話だ。
無茶すぎて逆にそんな事を考えた人々を笑ってしまう。
が、無茶を承知で頼み込んだ結果は意外なものだった。
グラディス艦長は女性にはとても優しかったのである。







































 「良かったな、ここにいられて。」


「私ここにいたいとか言ってない。」







嬉しそうにいうシンには困ったように答えた。
本人の意志を汲まずに勝手に事を進めたのである。
が困惑するのも無理はない。
今までの見ていたザフトとは、あくまで地球連合と同じ、単なる情報収集をする対象に過ぎなかったのである。
スパイ養成所での訓練を受けた子ども達はそれぞれあちこちに散らばり情報を集め、上層部からの指令があればその任務を遂行するというしきたりがあった。
はいわば養成所から脱走した裏切り者、反逆者であり、そうなった以上組織の機密事項を守るため、彼女の命を狙う事態も出てくることだろう。
そんなある意味戦艦やガンダムよりも危険な人物をミネルバが抱え込んだとなると、被害は大きくなってしまう。







「あのねアスラン、私ここにいれな・・・。」


「そうだ! 今度に会いに行こうな?
 、ずっと探してたからな。」


がっ!?」





姉のような存在の大好きな幼なじみの名前を出され、の不安は一気に吹き飛んで行った。
幼なじみとの友情は命の危険すら遠ざける。








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