私がスパイだったからってなんでも知ってるって思ったら大間違いなんだから。
言ってくれなきゃわかんないもん。














Data××:  もしかしてヤキモチ
            ~寝言は本音を言う!?~












 はミネルバに来てからスパイらしき行為を封印していた。
友人の機密事項など調べる必要はないのだ。
会話の中で、お互いのことを少しずつ分かり合えばいいのだ、と考えていた。
だから、彼らが話すこと以外の、プライベートな事実は知らなかった。
家族構成などなおさら知るわけがない。






「あっ、ねぇ、今度服買いに行かない?」


「うん、行こう行こう。」







メイリンと仲良く話しているを見つめる2人の影があった。
片方はの彼氏として、日々天国にいるかのような幸せな生活を送っているシン。
もう1人は同僚の惚気話を就寝直前まで聞かされている哀れなルームメイト、レイだった。
もっともレイは、毎日シンの妄想の餌食となっているをかわいそうに思っていたのだが。








「やっぱ可愛いよなぁ・・・。マユと同じくらい、いや、それ以上かも。
 でもマユも無茶苦茶可愛かったもんなぁ・・・。」



「シン、どうでもいいが、マユさんのことをは知っているのか?」


「さぁ。でも元スパイなんだし、知ってるんじゃね?」







シンのこの軽い一言が、とんでもない勘違いと仲違いを引き起こすことになる。

































 ある日、シンが熱を出してダウンした。
前日にふざけて海に落ちたのがまずかったらしい。
馬鹿は風邪を引かないと言うが、どうやらシンはただの馬鹿ではなかったようだ。
現にここ2,3日彼はずっとベッドの中だ。








「シン大丈夫かな。お見舞いに行っていいかな。」






不安げに言うの頭をアスランは優しく撫でた。
自称の保護者の彼だ。
に関してはシンよりも詳しいという自信がある。






が行けばすぐに治るでしょ。
 うつされないようにね。」



「平気、私身体は丈夫だから。
 ちょっと医務室行ってくるね。」







 そう言うとパタパタと駆けていく
あんな可愛い子に好かれるシンは、なんて果報者なんだとルナマリア達は思った。
彼にはもったいないのだ。




 はシンの眠るベッドの横にある椅子に座った。
彼の熱い手を握り、シン、と小さく呟く。
シンの口がわずかに開いた。
なにやら寝言を言っている。
は耳を澄ませた。









「マユ・・・。やっぱ可愛い・・・・・・。マユ・・・・・・・・。」


「マユって誰・・・・?」







さあっとの顔から血の気が引いた。
いい夢を見ているのだろう、シンの顔は幸せそうだ。
彼はマユとばかり呟いている。
マユって誰、ミネルバにそんな子いない。
誰、もしかして好きな人―――――――――?


は立ち上がった。
そして相手が病人にもかかわらず、やや大きな声で叫んだ。









「シンなんか知らないっ!」





彼女の大声でばっと起き上がったシンは、の怒っている瞳とぶつかった。
なんで怒ってるんだ、俺の彼女は。
嫌なことでもあったのかな、だったら俺が慰めなければ。
なんかもう体の調子もだいぶいいし。





、なに怒ってるんだ?」


「知らないっ、おとなしく寝てれば?」







 いつになくそっけないの返答にがーんと叩きのめされるシン。
彼女の身になにが起こったっていうんだ。
これは単に俺に対する八つ当たりか?
それともツンデレに目覚めたとか。
最近流行ってるからな、ツンデレ、俺も結構好きだし。
まさか自分の失言のせいで怒っているとは露にも思っていない彼は、を前にしてほんのり妄想した。
ややニヤけた表情を目の当たりにしたは、いよいよイライラしてきた。
キッとシンを睨むと、ぱたぱたと医務室から走り去って行く。
その状況に、ようやく事の重大さを理解したかもしれないシンは、慌てて彼女の後を追ったのだった。


























 ザフトレッドが控える部屋へと駆け戻ってきたは、一目散にアスランの背中に隠れた。
突然のの変貌に目を剥くアスラン達。
が、ここにいるって黙ってて、と頼み込む。
しかしその口調はどう聞いてもかくれんぼの楽しさはない。
むしろ鋭すぎる。
少しして、を追ってシンが現れた。








「おい、!? どこにいるんだよ、!」


「あんたどうしたのよ、そんなに慌てて。
 がどうかしたの。」



「ルナ。が見舞いに来てくれたんだけどさ、いきなり怒って・・・。
 ・・・ったくなんだっての。
 マユとは大違い・・・。」








 マユ、と言う言葉を聞いた途端、アスランの背中にいるがぴくりと動いた。
アスランはなんとなくわかった気がした。
は、マユが誰だかわからないのだ。
しかし、それをシンがやたらと口にして比べるものだから、嫌気が差したのだろう。
彼はの肩を持つことにした。
これはきちんと説明していないシンが悪い。








「あんたねぇ・・・、マユマユ言ってるけど、に失礼とは思わないの?
 大体あの子、彼女のこと知ってるわけ?」


「知ってるだろ、元はスパイだったんだし、そういうこと調べんのが仕事なんじゃねぇの?」








 シンの暴言に色めきたつルナマリア。
アスランだって、動ければ間違いなくシンを殴り飛ばしている、2,3発ほど。







「・・・そんな風に考えてたのね、私のこと・・・。」





はゆらりと立ち上がった。
怒っているのか、悲しんでいるのかよくわからない。
無表情なのだ。
シンはお目当ての人物を見つけ、ほっとして彼女に近寄ろうとした。
が、の言葉が彼の足を止める。







「・・・命がけで情報集めるのがどういうことかわかる?
 訓練受けたからってすぐに、簡単に集められるものじゃないの。
 味方なんていない、周りはみんな敵。
 使い捨てみたいに、あっけなく組織からも見放されて見殺しにされて・・・。
 ・・・私はそんな思いしてまでシンのこと知らなきゃいけないの?」







 はきゅっと上着を握り締めた。
小刻みに身体が震えている。
望んでスパイになったのではない。
それなのに、ほかの女の子と比べられて、これ以上どうしろというのだ。







「・・・寝言でずっとマユマユ言ってるし、幸せそうな顔してるし・・・。
 私と向き合っててもニヤニヤしてるし・・・。
 訳わかんない・・・。」



、誤解は困るよっ!?
 マユは俺の妹で、と向き合ってニヤニヤしてたのはツンデレが・・・。」








わたわたといまさらになって弁解を始めるシン。
なんで今まで口に出して言ってなかったんだ俺は。
しかもに馬鹿みたいな暴言吐いて、泣かせて悲しませて怒らせて。
でもヤキモチ妬いてたんならちょっと嬉しいかも。
ちなみには泣いていない。









「またニヤケてる・・・。」









 恨めしげな目でシンを見つめる。
マユさんのことはわかった。
自分の勝手な思い込みだったのだ。
これは断じてヤキモチではない。
単にシンに対する怒りだ。
はそう断定した。
そしてギャラリーであるアスラン達も、の怒りはヤキモチから来るものではないと見当をつけていた。
シンのあまりの身勝手さに本当に腹を立てたのだ。









「これからはちゃんと話すからさ、だから機嫌直してくれよ。
 確かにマユは可愛くて妹系キャラだったけどさ、俺は後にも先にもしか好きにならないから。」



「私、ツンデレじゃないよ。」



「いや、誰もアスランさんにはツン、俺にはデレしろとは言ってないし。」








 すでに自分の希望を言っていると気づいていないほど、シンは慌てて焦っていた。
逃がした魚は大きすぎる。
ほかの男(アスラン)なんかにをやるもんか。
幼稚な独占欲である。








「・・・今度嫌なこと言ったら、インパルス使い物にならなくするからね・・・。」



「イ、インパルスもも俺がちゃんと守るからなっ!?」






冗談に聞こえない冗談に、シンは背中に冷や汗が流れていた。






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