パパの心情




 これは食べられるだろうか。
それは少し子どもの口には刺激が強すぎるかもしれない。
道中、関銀屏や鮑三娘が好んで食べていた果物は美味しそうだった。
日持ちするのであれば、ぜひ土産に持って帰ってやりたい。
大王孟獲のお膝元で開催される市場には、成都では見ることができない様々な食材に触れることができる。
南蛮を平定した後は、これら希少な数々も蜀中に流通することになるはずだ。
赤々とした果実を手に取っていた諸葛亮は、すぐ隣であら美味しいと声を上げた月英を顧みた。



「孔明様、こちらを」
「・・・ええ、とても美味しいです」
「味付けがこちらと違うのでしょうか。もきっとたくさん食べてくれます」
「私も、が好きな味だと断言します・・・。甘いと言えば、従軍中に皆が食べていた果実は・・・」
「これですかぁ、諸葛亮殿。あ、もしかして殿にお土産ですか? 私もぜひおすすめしたい子を見つけたんです!」
「「子・・・?」」


持てるだけめいっぱいに果実を抱えていた関銀屏が、籠の脇からひょこりと顔を出す。
食べながら運びながらと忙しそうだが、荷を下ろすという考えはないらしい。
諸葛亮は手渡された果実を一口齧った。
甘く、けれども仄かな酸味も口に広がる。
これは美味しい。
このところのは好奇心がさらに増し遠出もしたがるようになったので、道中の補給食としてはかなりの上物だ。
頬を緩めた夫妻に気を良くしたのか、関銀屏がにっこりと笑う。
紹介したいのはあ~。
そう言いながら巨大な籠をこちらに預けてくる彼女から、受け取るふりをしてそっと地面に降ろさせる。
指で触れただけでわかったが、あれは持つと腰が破壊される。
趙雲にすら試しに持ってみろと唆すことができない驚異的な重量だった。
なんでもすぐにやりたがる馬超には、そもそも見せることすらできない。
軍神の娘が見出したとっておきが気になり月英とふたりで待っていると、騒ぎを聞きつけたらしい趙雲も現れる。
とても渋い顔をしているが、実はもう正体を見てしまったのだろうか。



「諸葛亮殿もすっかり人の親という顔をしておられる」
「いえ、正真正銘の親ですが。は可愛い可愛い私の娘です」
「これは失礼をした。だが、であれば尚更あれはやめた方がいい。よもや諸葛亮殿が許可されるとは思わないが、念のため」
「諸葛亮殿、これです! この子なら小さいし可愛いですよ!」
「・・・これは」
「象です! この子に乗って遊んでる殿可愛いと思います、強そうで!」
「象の大きさにが霞んでしまうので却下です」



 子どもとはいえ象だ、もちろん持ち上げられる重さではない。
現地の住民たちの恐ろしいものを見るような視線に関銀屏が気付いていないのがせめてもの救いだ。
趙雲が頭を抱えている。
月英は興味深く子象を眺めているが、まさか彼女も象と触れ合う見たさに反旗を翻すのではないだろうか。
その誘惑は非常に強烈だが、決して屈してはならない。
見たければ南蛮にを連れて行けばいいのだ。
きっと楽しい家族旅行になるはずだ。



「ていうかー、諸葛亮殿ってちょっとちゃんに甘すぎない? そりゃちゃん超可愛いけど、そんなんで反抗期とか来たらどうすんのって話」
「反抗期」
「父上近付かないでーとか薄ら笑みが不気味すぎーとか、そんなこと言われたら諸葛亮殿卒倒しそう」
「泡を吹いて倒れる自信はあります。職務も少し休みます・・・」
「うっわ、親バカじゃん・・・」



 もしも父と呼んでくれたなら、きっと当日どころか数日間は何も手につかなくなる。
可愛い可愛い我が娘は、いつになったら父と認めてくれるのだろう。
どのように呼んで くれるのだろう。
来る予定もないその日を思い浮かべ目を細めた諸葛亮の耳に、あの顔なんですけどと声を上げる鮑三娘の忌憚のない意見が突き刺さった。




「そう言う趙雲殿は、親戚の中年面をしています・・・」「お兄さんのつもりですが?」



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