その解釈、異議あり!




 びっくりして泡を吹いたことに、今の私がびっくりして泡を吹きそうだ。
それに、短期間のうちにまたもや月英様を悲しませてしまった。
私ってなんて凡愚、事実に動揺するなんて情けない。
私は途中で強制終了となってしまった夏侯覇殿案内任務を完遂すべく、政庁をうろついていた。
足取りは少し重い。
すっかり元気だと月英様に安心してほしくて、朝食を目いっぱい食べたからだ。
食後の散歩がてら夏侯覇殿を案内し直したい、それが今日の外出の本音だ。
夏侯覇殿が来てくれて本当に良かった。
そもそも夏侯覇殿が来なければこんな事態にはならなかったんだけど、夏侯覇殿も命が懸かっていたのだ。
私も夏侯覇殿と同じ一族に処されそうになった過去があるらしいので、夏侯覇殿とは同志と言っていいと思う。
まあ私もその一族の端くれらしいんだけど。



「お、殿!」
「夏侯覇殿、と星彩殿!」
「この間はごめんな、変なこと言って。あの後大丈夫だったか?」
「変っていうか事実だから謝らないで。でもそういう知り方もあるんだあ、夏侯覇殿ってば間が悪すぎ」
「その通りです」
「星彩殿まできついこと言うなあ・・・」



 星彩殿と別れ、夏侯覇殿と成都散策の続きを始める。
夏侯覇殿もあれから少し自分で調べたようで、今日は率先してどこへ行きたいと話しかけてくる。
夏侯覇殿は気さくで朗らかな好青年だ。
何から何までお小言を添えないと気が済まない性格の姜維殿とは本当に違う・・・。
そう比べかけ、私ははっと思い出した。
あの日川辺で昏倒した私を大声で呼ばわったのは、姜維殿の声だった気がする。
隠しているつもりはないしこのままずっと隠し通せるとも思っていないけど、姜維殿ももしかして私の素性を知ったかもしれない。
夏侯覇殿はその辺の事情を知らないから、ぽろっと姜維殿に喋っていてもおかしくはない。




「夏侯覇殿、この間の話の続きなんだけど」
「星彩殿と劉禅殿、それから諸葛亮の奥方だけなんだろ? 殿の様子見て不味いこと言ったなと思った」
「あの後姜維殿がどこからともなく現れたりしなかった?」
「姜維、俺のこと信用してなかったんだろうなあ。ずっと俺と殿の後を尾けてたから、それはもう風を切る速さで殿を奪っていった」
「尾けてたの?」
「俺が殿に何かしたと思い込んでて、悪いけどこの後姜維の邸で弁明してくれないか?」



 なあなあ頼むよと輝く瞳で懇願されると、様々な意味で先輩の私としては断ることはできない。
試すまでもなく私が姜維殿に舌戦で勝てる見込みはないのだけど、夏侯覇殿の名誉のためにも誤解だけは解いておきたい。
私のどこかに眠っているかもしれない頓智を探りながら邸で向かっていると、背後から声をかけられる。
背後からの急襲、この時点で既に戦いは終わった。
お久し振りですね姜維殿。
慣れない敬語をカチコチになりながら繰り出した私を横目で見た夏侯覇殿が、あちゃーと声を上げ天を仰ぐ。
酷い夏侯覇殿、もう少し私を信じてほしい!



殿は随分と夏侯覇殿にご執心のようだ」
「やだあ、姜維殿ったらもしかして焼き餅?」
「そうです」
「またまたぁ。心配かけてごめんなさい。あと、私は夏侯覇殿は好みじゃないから安心して」
「それは殿の言い分で、夏侯覇殿の真意はわからない」
「俺も本人を前にして言っていいことじゃないけど、殿はちょっとなあ・・・」
「ほら、ほら! ねえねえ聞いた姜維殿」
「けど、殿はもう少し姜維の話を真面目に聞いてあげた方がいいと思うぜ」



 あれ、おかしい。
どうして私は味方のはずの夏侯覇殿にまでお説教されてるんだろう。
難しい顔の姜維殿と呆れ顔の夏侯覇殿に挟まれた私に、もはや為す術はない。
魏軍出身の将軍たちは頼りになる。
きっと、今度の戦いは勝てる。
私は未来を見据えあっさりと両手を挙げた。




「で、結局夏侯覇殿はどういう子が好きなの?」「穏やかなようで熱くて芯が強くて凛としてて、泥遊びも肉まん作りも火計も全力でするお方」「具体的すぎない?」



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