悪魔の耳は隠れてる




 お団子と流すの、どちらがいいだろうか。
試しに月英様に訊いてみたけど、どちらもよく似合っていますよと笑顔で返されあまり参考にならなかった。
忙しい諸葛亮様なら仕事の延長と勘違いして容赦ない意見言ってくれるかもと期待したけど、さすがは諸葛亮様。
「どちらもそれぞれの良さを引き出してくれます」と、両方の髪型について懇切丁寧に長所を説明してくれた。
うーん、前から知っていたけど2人は私に対して甘すぎる!
歴戦のお兄さんお姉さんたちならもっと親身になってくれるかもと張兄妹と関兄妹の元を訪ねてみたけど、彼らもニヤニヤしながらどっちも可愛いよとしか言ってくれなかった。
確かに私は可愛いかもしれないけど、そこまで言われると単に邪険に扱われているのではと疑心暗鬼になってしまう。



「うう、みんなしてニヤニヤしてひどい!」
「でも殿も俺らに訊くから・・・」
「困ったことがあったらお兄さんたちが助けてやるからなって言ったから訊きに来たのに・・・」
殿、張苞は口下手なんだ。そうだ、趙雲殿に訊いてみたらどうだろう? あの方の言うことなら殿も納得できるはず」
「もう訊いた」
「趙雲殿の意見、気になります」
「それがね、あんなに小さかったのに大きくなってって、それしか言ってくれないの! あとお菓子くれた」
「趙雲殿、親戚のおじさん面が板についてきたな・・・」



 答えが出ない問いかけを長く続けてもいられない。
時間は迫っているのだ。
姜維殿は厳しい人だから、時間に遅れると絶対に怒る。
その後食べるおやつの味もしょっぱくなるくらいに、きっとずっとお説教を続ける。
それは嫌だ、怒られるために会うのではない。
私は甘やかすのは抜群に上手いお兄さんお姉さん集団から離れると、姜維殿に指定された集合場所へ向かった。
げっ、もういる。
難しそうな顔をして腕を組んでいて、ぶつぶっと何か呟いている。
政庁以外で姜維殿を見ることはない。
蜀に来て日が浅く、友人もまだ少ないであろう姜維殿が休日に何をしているのか知らない。
あんまり興味もない。
姜維殿、ひとりぼっちなのかな。
私は結局くじで決めたお団子頭が崩れていないことを桶の水面で確認すると、姜維殿と声をかけた。
声に気付いた姜維殿がこちらへ顔を向け、目を細める。
相変わらず顔はいい。背も高い。
趙雲様ほどではないけど美丈夫だ。
姜維殿は上から下までとっくりと私を見つめると、行きましょうと口を開いた。
え、それだけ?
可愛いと散々言われ慣れていたので思わず称賛のおかわりを要求すると、怪訝な表情をされる。
私はさっさと先を行く姜維殿から遅れないよう、早足で追いかけた。
姜維殿、やっぱりまだ友だちいなくて単独行動が多いのか、他人と協調することが苦手みたい。
今だけだといいんだけど。



殿」
「あーやっと追いついた!」
「ここです」
「あ、ここ来たかったとこだ」
「そうなんですか?」
「うんそうそう。へえ、姜維殿よく知ってるね!」
「鮑三娘殿に教えてもらった」
「あー、だからかー」
「何か?」
「いやこっちの話」



 お店おすすめの甘味をいただく前に、速歩きで疲れた喉を潤すべく水を一気に飲み干す。
いい飲みっぷりですねと、誰のせいか全く気付いていない姜維殿に揶揄される。
生真面目な姜維殿も冗談は言えるらしい。
私はふうと息を吐くと、まぁねと答えた。



「姜維殿は脚が長いから追いつくのが大変で」
「・・・すまない、女人と並んで歩いたことがなかった」
「え、そうなの? 顔がいいのに、良すぎると逆に敬遠するってやつ?」
殿は交友関係が広いんだな。張苞殿たちと話をしてよくわかった」
「おかげでぜーんぶ筒抜けなんだけどね」
「そうなんですか?」
「今日も姜維殿に誘われたから髪型どれがいいかなって訊きに行ったんだけど、みーんなニヤニヤして相手にしてくれないの! こっちは真面目に悩んでたのに・・・、あっ」



 しまった、思ったことをまたぺらぺらと口に出していた。
は素直でいいですが、胸に秘めていた方が良いこともあるのですよと諸葛亮様にもやんわりと指摘されている欠点だ。
私は、おやつが盛られた器越しに姜維殿をちらりと見つめた。
笑いを堪えている顔をしている。
笑ったら失礼だと思っているのかもしれないが、ずっと我慢されているのは申し訳ないし、何より居た堪れない。
あのうとおずおずと声をかけると、姜維殿がようやく笑顔を見せる。
笑っていても顔がいい、顔がいい男は何をしても顔だけはいい。
なんだか悔しい。
私は腹立ち紛れにおやつに齧り付いた。
とっても美味しい。



殿は裏表がないという丞相の言葉は、本当なんだな」
「どうせ私は凡愚・・・じゃない、馬鹿ですよ」
「そうではなくて。私のためにいろいろと考えてくれて感謝する。その、よく似合っている・・・と思う」
「ありがとう」
「次は、今回取りやめた方を見てみたい」
「えっ」
「・・・かもしれない」
「姜維殿・・・もう差し入れはしないよ?」
「は?」



 それはそれとして私を誘ってくれるってこと?
悪戯っぽく訊いてみると、姜維殿が勢い良く顔を背ける。
照れてる。
姜維殿のほっぺた、紅くなってる。
女の子慣れしてないのって本当だったんだ。
私は張苞殿たち直伝のニヤニヤ笑いを浮かべ、ねえねえ姜維殿と腕をつついた。




「趙雲殿、お菓子は幼すぎます」「辛辣だな、星彩は」「星彩はあの子が絡むとお姉さん面するんだよな」「兄上」



Back  Next

分岐に戻る