白黒つけたい盤外戦




 石を手にしたまま首を傾げ、長考に入る。
難しげに眉根を寄せ、真剣に盤面に向き合っている。
ひょっとしたら今日は夫の顔よりも碁盤を長く見つめているかもしれない。
凌統は対面に座したまま固まっているをちらと見つめた。
ひと通りの娯楽は理解しているらしいだが、実戦は積んでいないようで力量は遥かに下だ。
それでも対戦に付き合ってくれるのは、彼女が負けず嫌いだからだ。
次は勝てるのでは、新策を講じたので次こそはと果敢に迫ってくるの努力と無鉄砲さには頭が下がる。
負けましたといつも先に頭を垂れるのはだが。



、もう諦めなよ」
「いいえ、まだどこかに勝機が・・・」
「粘ったって俺の優勢は変わらない。ここらが潮時だ」
「公績殿は手加減をして下さっているというのに、その状況すら覆せぬ己の無力さが情のうございます」
「そんなに思い詰めなくてもいいんだって」
「いいえ、どのような戦いであれ正々堂々と向き合いとうございます」
ってほんと真面目だね、肩が凝りそう」



 言われてみればと、が石を盤上に置き肩に手を伸ばす。
同じ体勢でいたからか、本当に体が凝り固まってしまったらしい。
凌統は立ち上がると、の背後に座り直した。
の薄い肩に両手を置き、程よく力を抜いて揉んでみる。
力加減はいかがですか?
冗談めいた問いかけに、がふふふと笑う。
気持ちが良かったようで、の口からふうと長めの息が漏れた。



「公績殿は手加減がお上手です」
「そりゃどうも。でもだって力を抜いてくれていいんだ、こんなもん息抜きの遊びなんだから」
「甘寧殿とばかり息抜きに行かれるのも少々腹立たしいので」
「おっと」
「口が過ぎました」



 早口で発言を訂正するの肩が小刻みに震えている。
今すぐの顔を覗き込んでみたい。
何にでも真正面から堂々と向き合おうとするなので、こちらも彼女の信条に合わせて正面から見つめるべきだ。
凌統はの体をくるりと反転させた。
真っ赤になっているの顔を前にしては、どんな加減もできそうになかった。




元譲おじ上秘伝の秘技、盤面返しはまだ使うべき時ではないようですね・・・



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