7.寝言で吐いた弱音の訳



 さんが見つからないらしい。
勝手に帰るほどには駄目人間ではないが、どこかで油を売っているのだろう。
マルチェロさんからそう聞いた私は、さんを捜しに行くことになった。
とはいっても教会はそれなりに広いので、マルチェロさんと、たまたま居合わせたククールも手伝ってくれるという。




さんどこですかー?」



 名前を呼んでみても返事がない。
教会の周囲には水路が流れている。
うっかりこの中に落ちてしまったのでは。
学校で起こっている奇怪な事件を考えてみても、私の身近なところでトラブルが起こるのはおかしなことではない。
もしかしなくても、私は疫病神なのだろうか。
自分の発想にぞっとした私は、先程よりも大きな声でさんの名前を呼んだ。




「あ、さん・・・っ」



 ようやく見つけたさんは、壁に頭を預けて座り込んでいた。
反応はなく目も閉じられているので、眠っているのだろう。
起こした方がいいんだろうけど、気持ち良さそうに眠っている彼を起こすのは気が引ける。
私はさんの前に屈みこんだ。



(わ、睫毛すごく長い・・・。お肌もすべすべだ・・・)



 すごく触ってみたい。
無意識のうちに伸びていた手を慌てて引っ込める。
こんな所で眠っちゃうだなんて、疲れてるのだろうか。
そういえばどこに住んでいるんだろう。
どこの学校に通っているんだろう。
知りたいと思う。もっと一緒にいたいだけなのかもしれない。



「ん・・・・・・」

「あ、さん、起きま「だからやめて下さい・・・てば・・・姫様・・・・・・」

「姫様?」

「付き合ってなんか・・・・好き・・・」

・・・・・・さん・・・・・・?」




 姫様と、付き合って、好き?
意味がわからない。
わからないけれど、聞いちゃいけないことを聞いてしまったという罪悪感が芽生えてきた。
姫様って誰のことだろう。お姫様が出てくるような夢を見てるだけなのかな。
そう思えればいいんだろうけど、不思議なことに、今の私はさんの発言が夢の内容だとは思えなかった。
できることなら、聞きたくなかった。
そう思いさえした。


「おーいたかー?」

「ククール・・・」

「・・・どうした? なんて顔して・・・」



 私の顔を見た瞬間、ククールが眉を潜める。
私、どんな顔をしてたんだろう。
とにかくさんを見ていられなくなって、逃げたくなった。



「ククール、後よろしく・・・」

「あ、おい、!?」



 痛い、苦しい、すごく辛い。
ああそうか、私はさんが私の知らない女の子の事を『姫様』って呼んだことが気に入らなかったんだ。
でも、どうして気に入らないんだろう。
さんはさんのお友だちがいて、私には私の友人がいる。
ただそれだけのことなのに、私はすごく苦しかった。




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