04.ガブリ



 あっと小さく悲鳴を上げ、ぷっくりと血が膨らんだ人差し指へ視線を落とす。
旅をしていた頃はほぼ毎日凶器に触っていたので扱い慣れていたのに、ちょっと前線から離れればこれだ。
確かに現役時代から杖ばかり握って、直接剣やナイフといった刃物は手にしたことは少ない。
しかし、ここまで勘が鈍っているとは思わなかった。
包丁で切った傷口を見つめ、はほうとため息をついた。




「なーにため息ついてるの? どうかした?」

「ううん、大したことじゃないの。ちょっと指切っちゃっただけ」

「えっ、それは大したことだよ大問題! 大丈夫、ばい菌とか入ってない? ホイミは?」

「このくらいでホイミなんてしないよー。もう、ってば心配しすぎなんだから」

「するよ! ほら傷口見せて、うわあ切れてるじゃん・・・」




 姫君の手のようにゆっくりと手を取ったが傷口をじっくりと眺め、おもむろに口に含む。
そっちの方がばい菌が入りそうで汚いとは状況的に言えない。
何よりも恥ずかしくてたまらない。
新婚生活20年目にしていい加減落ち着かないのだろうか、彼は。




「あのっ、そんなことしなくても私って意外と丈夫にできてるから平気だよ!」

「いいや、君は病み上がりだから体は大事にしないと」

「・・・大事にしてくれるなら少しはも落ち着いてくれればいいのに・・・」

「それはそれ、これはこれだよ。ほら、僕って寂しがり屋だから常にを傍に置いておかないと不安なんだよ」





 今日の夕飯はでいいかな、いっぱい食べたい。
本当にこの人はにこにこ笑顔で何を言ってくるのだろう。
指先といわず唇までもに顔を寄せ始めたの顔を、は申し訳程度に押し戻した。




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