7.恍惚の溜息を吐いて



 今なら空も飛べるかもしれない。
は鞄の中に入った弁当箱を思い浮かべ、橋の上でにんまりと頬を緩めた。
まさか、彼女の方から手作り弁当を渡してくれるとは。
中身が全て冷凍食品のものであっても、彼女が詰めてくれたのならばそれは国宝級だ。
しかし、料理上手の彼女に限って冷凍食品のオンパレードはないだろう。
だとしたらこの弁当は世界遺産レベルのものなのか。
そうに違いない。きっと全て彼女お手製の絶品だ。



「食べたいけど・・・、食べるのもったいない!」

「ではその弁当を大人しくこちらに渡せ」

「マルチェロさん!?」




 いつからいたのか、気配を悟らせることなく背後に立っていたマルチェロには驚きの声を上げた。
なぜここにというか、なぜこの人に弁当を渡さなければならないのだ。
毎日彼女の料理を食べているというのに、なんと心が狭い男なんだ。



「嫌です、これはさんが僕のために用意してくれたお弁当なんです。
 マルチェロさんには渡せません!」

「いいから大人しく寄越せ。そしてお前はこっちを持って行け」

「誰が言うこと聞くもんですか、これは僕のです!」



 駄々っ子のように嫌だと言い続けるに、マルチェロは眉間の皺を更に深くした。
つべこべ言わずにさっさと取り替えろ。
これは他の誰でもない、本人が願っていることなのだ。



「学生の登校の邪魔するのやめて下さい! じゃあまた夕方お邪魔します!」



 待てと叫ぶマルチェロを振り切り逃げ出したは、とりあえず理由は何であれ、
天敵に勝てたことに安堵していた。
若者の健全な恋愛に口を挟むのは、いくら彼が保護者であろうとやめていただきたいものである。



「でもあの人、どうしてあんなに必死だったんだろ・・・・・・」




 昼休みとなり意気揚々と弁当の蓋を開けたが見たのは、彼を絶望のどん底に突き落とすものだった。




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