ハロウィン
Trick or Treat



 真っ黒なとんがり帽子と真っ黒なワンピースにマント。
鏡の前でくるりと回ってどこかおかしなところはないか、最終確認する。



「よしっ、完璧だよね!」



 エルファは鏡に向かってにっこりと微笑むと隣の部屋をノックした。
はいはいとくつろいだ声がして扉が開く。
相手が顔を上げた直後、エルファは元気いっぱい両手を差し出した。




「トリック・オア・トリート!」

「へ? エルファ!?」



 バースはぎょっとして目の前の少女を見つめた。
いつも着ているお揃いの賢者コスチュームはどうしたんだろう。
というかなんだそのワンピースの丈の短さは。
スカートから伸びた真っ白な生足にバースは思わず鼻を押さえた。
別にムッツリなんとかではないが、何か赤い液体が鼻から出てきてしまっては困る。



「バース?」

「か、かわ、可愛すぎるってエルファ・・・!!」

「あ、ありがとう・・・! えへへ、似合う?」




 エルファは挙動不審のバースの前でくるりと一回転した。
ひらりと舞うスカートの中を覗き込みたい衝動に駆られ、バースは己の理性を鼓舞する。
耐えろ、耐えるんだ俺。
狼になるな、知性溢れるスーパー賢者になるんだ・・・!



「ねぇバース。お菓子ないの?」

「お菓子・・・? ・・・あ、ごめん、全然用意してなかった。ごめんな?」

「えー・・・。じゃあバースには悪戯しちゃわないとね! はい、これバースの分だよ」



 ちゃんと着てねと言って手渡された紙袋の中身を見て、バースは絶句した。
なけなしの理性で作り上げたスーパー賢者が消えていく。



(・・・俺、ほんとに狼男なわけね・・・)



 いや、心まで狼になってはいけない。
狼男になるのは見た目で止めておこうと決心したバースだった。





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