07.あなたはただ笑っているだけ



 屋上からグラウンドを見下ろし、お目当ての人物を視界に捉える。
彼女のおかげで、学園を挙げた大戦争が開催される。
宴会好きの権力者の親を持つと、娘は苦労する。
度が過ぎたシスコンの兄や過保護にも程がある護衛を持つと、お嬢様もさぞや息苦しかろう。
その分、身内のいないこちらは気が楽だ。
多少まともに生活していれば、余所で何をしていようと誰からも頓着されずに済むのだから。
『赤壁』と名付けられた今回の学園対抗武闘会に参加しても、きっと誰も文句は言わないはずだ。
は校内でばら撒かれていたチラシに書かれた応募要項を指でなぞった。


「校内トーナメント勝ち抜き・・・。武器種別ならいけるかもしれない・・・」


「近接武器なら楽進殿がいるんじゃないのかい? あの手の御仁は当然大会に出場するだろう」


「楽進ならば選抜でしょう。私が狙うのは一般勝ち抜き枠。ここなら私でも勝算はあるかと」


「んー、ちょっとそれ見せてくれるかい」


 いつの間にやら背後に立たれていた顔なじみの用務員に、チラシを奪われる。
ふんふんと呟きながら、人意地の悪い笑みを浮かべている。
ただでさえ人相の悪いこの男が笑う時は、ろくなことが起こらない。
まずい人物に見られてしまったかなと今更後悔するが、
頭の回転が恐ろしく速い彼を出し抜くことは土台できなかっただろうと開き直ることにする。


「これは生徒以外も参戦できるらしい」


「一応はそうですが、子どもの諍いに親は出ないのが不文律では?」


「相変わらず甘いことで。
 俺は、自分が好きな女が余所の男と結ばれるなんて知ったら相手がいくつであろうとご挨拶に行くがね」


「それはあまりに大人げない・・・」


「そう、だから大人が参加しても文句はないだろう? 大会と言っても、人と戦えば怪我をする。
 幸い俺も近接武器の括りでね、あんたを守るためなら何だってする」


 大人の本気舐めなさんなと言い残し去っていく賈クを見送る。
変わり者と名高いあの男が愛する女性のことが気の毒に思えてくる。
はチラシを丁寧に折り畳むと、大会実行委員会が待つ教室へと歩き始めた。




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