10.貴方が欲しい



 付き合いだけは長かったから、彼女を傍に置くことはそう難しいことではない。
自分は幼なじみにとっては何年経っても変わらず手のかかる男という認識をされているので、
たとえ良くも悪くもどんな道を歩んでいても彼女は見捨てることはしない。
向こうが気付きも頓着もしていない甘さにつけ込むのは、大の男がすることではない。
そうわかっているのだが甘え依存しつけ込んでしまうのは、やはり今でも彼女のことが好きで、彼女が選んだ道を心のどこかで
妬んでいるからだろう。
世界で一番大切な人の幸せを素直に祝うことができないとは、今も昔も狭量な心の持ち主だ。




「言っとくけど、それ以上近付いたら張り手飛ばすから」

「そう言って実際に実行に移せたのは何度だ?」

「張り手飛ばさせてくれないのはどこの鬼畜?」

「鬼畜で結構。猫可愛がりして尽くし続けてきた挙句恋人を奪われたあいつに比べたら、俺といた方が楽しいだろう」

「やめて。ほんとマジでぶつわよ。幸せ踏みにじって何が楽しいわけ? 帰してよ、今すぐ私を帰して!」

「そっちこそ早く返してくれないか。あんな奴のものじゃなかったあの頃の、俺の幼なじみだった頃のを返せ」




 誰かのものになったはいらない。
自分のものになったしか欲しくない。
やだ来ないで来るなどっか行けとクッションを投げつけてくる暴れん坊の腕を捉えると、ひときわ大きな声でやめてと叫ばれる。
違う、俺が知っているはこんな顔はしない。
もっと違う顔を見せてくれ。
体と壁の間に閉じ込められたの腕が、虚空に向かって伸ばされた。




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