3.1年前



殿は、蜀に来る前は馬超殿と馬岱殿と旅をしていたんだったか?」




 趙雲の問いかけには首を捻った。
旅と言われれば確かにそうだし、聞こえもいい。
しかし現実は、昼夜を問わずの逃避行だった気がしないでもない。




「そう・・・ですね。ある時は洞窟の中で、ある時は草むら深くで。
 なかなか都会では味わえないことしましたねー」

「旅は辛くはなかったか?」

「割と楽しかったですよ、野生的で」





 そう言うとはうっとおしいとばかりに衣の裾をたくし上げた。
なるほど、そりゃ山の中で野性的な生活を送っていれば、礼儀も作法も身につかないわけだ。
趙雲は人間形成の大切な時期を、非文明的な生活で費やしてしまった少女を眺めた。
いったいこの娘はいつから旅をしていたのだろうか。
今更普通の女性になど、果たしてなれるのだろうか。





「でもまぁ、1年前ぐらいに比べたら私も兄上もだいぶ落ち着いた性格になったんですよ。
 去年の今頃なんて・・・」

「去年の今頃は・・・?」

「兄上たちと離れ離れなって、1人で森の中彷徨ってました」





 あまりに野性的すぎる生活に、何も言えない趙雲だった。




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