お題じゃなくてよ
なんちゃって七夕だったり



 「兄上の宿星はどーれだ」

「知らん」

「あ、元々ないかもね、兄上だし」




 夜空に広がる星を馬兄妹は見上げていた。
季節は夏、そろそろ本格的に暑くなるといったところか。



「大体なんで今頃になっていきなり星なんぞ見る。いつもは食い物ばかりに目を向けていただろうが」

「酷いこと言わないでよ。兄上知らないの?
 そろそろ西王母と東王夫が年に一度だけ会うことができる日なのに」



 あの星とこの星だよと指差す妹に、馬超は怪訝な表情を浮かべた。
彼女の言う伝説ぐらい知っている。
昔ちょろっといた五斗米道の館でもそのような話を聞いたことがある。
しかし、会えるはずがないだろう。
あんなに離れているのに、いかな神仙といえども限界があるに決まっている。
そう呟くと思い切り背中を叩かれた。
雰囲気ぶち壊さないでよ馬鹿兄上と罵られもする。
本当に口だけは達者だ。
叩かれた背中も少し痛い。
こんなに粗野にしていても雰囲気とやらはわかるのか。
馬超には大胆かつ複雑怪奇な女心は理解しきれなかった。




「俺はちょっと見えなくなっていただけでよく泣いていたお前にとって、1年は長いだろうな」

「昔の話でしょ。今は戦に出たら軽く1年は会えなかったりするから平気。
 柔な気分じゃ女だって乱世は生きてけないってね」



 妹の例え話は、伝説にあるような愛し合う男女についてとは少し違うのではないかと馬超は思った。
自分を引き合いに出してくれるのは嬉しいが、所詮は妹も雰囲気を読み違えている。
伝説は血まみれで戦がどうたらじゃないはずだ。
どちらかといえば、それこそ女が喜びそうな悲恋とかの話ではないか。




「・・・やはりお前もまだまだ子どもだということか」

「何の話からその結論になるのよ。それにいい加減本気で怒るわよ兄上」



 静かな夜に雰囲気をぶち壊す怒鳴り声が響き渡った。





※西王母と東王夫  日本の七夕伝説である織姫と彦星ポジションにいる人物、というか神仙。
 魏晋南北朝の道教から、こんなイメージが構築されていったそうな。





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