2.都市伝説にはなりたくない


　誰もが眠りに就いている真夜中、火の玉が屋敷周辺を徘徊している。
女官たちの間でまことしやかに囁かれる噂に、は困ったように眉を潜めた。
お化けかしらどうしましょう、退治していただけるものなのかしらと怖がっている彼女たちと同じように怖いとは言えない。
いや、ある意味ではとても恐ろしいのだが、少なくともその恐怖やお化けや幽霊といったものに対するものではない。
もっと言うと、火の玉の正体も知っていたりするのだが、それは口が裂けても言えなかった。



「それもこれもあなたが易々と凌統殿の侵入を許すからです。
　寝込みを襲われるようなことにはなるなと初めに約束したというのにまったく・・・」

「凌統殿はわたくしに危害を加えるようなお方ではございません。
　陸遜殿、不用意に火を扱われて屋敷に燃え移ってしまった時はいかがなさるのですか？」

「そんなことはしません。女官たちにそう思われているのは心外ですが、凌統殿が素行を改めるまでは続けざるを得ません」




　父もお目付け役の女官も厳しかったが、この青年軍師も相当厳しい。
融通が利かない分、彼の方がかなり手強い。
公主時代よりも厳しく躾けられているのというのもいかがなものかと思う。
若い時分からこんなに頭が固くて、将来どうなってしまうのだろう。
は火の玉の操り主に愛する男が燃やされないことを祈るしかなかった。





元に戻る